102 / 118
102話・ふたつの別れ
しおりを挟む僕たちより先にダールがオクトを発つことになった。
「ダールさん、行っちゃうんすか!」
「さみしーです!連れてってくださいよ!」
若い二人組はすっかりダールに懐いていて、泣きながら別れを惜しんでいた。その勢いに押され、僕はちょっと離れた場所で見守っている。
「うるせー!おまえらみてーな弱っちいヤツ連れていけるか!」
「そ、そんなぁ」
すがりつく二人を足蹴にしつつ、ダールはふんぞり返った。
「今度オレが来るまでに第四階層のモンスターに一撃で勝てるよーになっとけ!そしたら考えてやらぁ!」
「ほ、ホントっすか!」
「絶対っすよ!」
口約束とはいえ、ダールがここまで言うなんて珍しい。なんだかんだで純粋に慕ってくれる二人を気に入っているんだろう。
もしかしたら、次に会う時は三人でパーティーを組んで活動しているかもしれない。
「ライル」
「うん」
まだ喚く二人を足払いで転ばせてから、ダールがこちらに歩み寄ってきた。その表情は明るく、別れの悲壮感はまるでない。今生の別れではないのだから、僕も泣かない。
「元気でな」
「うん、ダールも」
短く言葉を交わし、軽くハグをする。
身体を離す間際、首から下げた紐の先を見せた。先日ダンジョン探索中に貰ったスルトの家の合鍵だ。これが僕たちを繋ぐ証。
「じゃあなー!」
他の冒険者たちにも見送られ、ダールは街道を駆けていった。
「騒がしい奴だが、いなくなると寂しいものだ」
「そうですね。ダールが来てからずっと賑やかでしたから」
宿屋の部屋に戻り、荷造りをしながらポツポツと言葉を交わす。明日には僕たちもオクトを発つ予定だ。出立が早朝のため、既に知り合いとの別れは済ませている。
「……この部屋に泊まるのも今夜で最後かぁ」
ベッドふたつと窓際に小さな机と丸椅子があるだけの簡素な部屋。窓を開け放てば、心地良い風が通りの騒めきを運んできた。
ゼルドさんと組んでからずっと借りていて、思い出がたくさん詰まっている。
「また二人で来よう」
「はい」
町の景色を目に焼き付けるように眺めながら、隣に立つゼルドさんの腕に手を回して抱きしめた。
地平線がわずかに白んだくらいの時間に荷物を担いで部屋を出る。宿屋の女将さんに鍵を返すと「またおいで!」と背中を叩き、笑顔で送り出してくれた。
薄暗い通りはまだ人の往来もなく、静かなものだった。
宿屋の前には一台の馬車が待機していた。まだ体力が回復しきっていない僕のため、次の町まで乗合馬車を利用して移動するのだ。他の客はおらず、今のところ僕たちだけの貸し切りみたい。
「ライルくん、気をつけてね」
「ライル~、もう怪我すんなよ~」
早朝だというのに、マージさんとアルマさんがわざわざ見送りに来てくれた。二人からハグをされる。
「マージさん、落ち着いたら手紙書きますね」
「ええ。楽しみに待っているわ」
「ゼルドさんと組むように勧めてくれたこと、本当に感謝してます」
「うふふ、まさかお付き合いするとは思わなかったけどね」
僕の後ろに立つゼルドさんをちらりと見て、マージさんはニッコリ笑った。
「アルマさん、片付け……」
「みなまで言うな!ライルがいるから甘えてたんだ。これからは自分で頑張るよ~」
「じゃあ抜き打ちで見に来ようかな」
「絶っっ対だぞ~?また来いよ~!」
アルマさんは僕の頭を抱えて撫で回している。胸が顔に当たってるんだけどいいんだろうか。
メーゲンさんはギルドの建物の前で仁王立ちしたまま動かない。よく見れば、ぷるぷると小刻みに震えながら歯を食いしばっていて、何かを必死に堪えているようだった。
「今までお世話になりました」
そばに歩み寄り、深々と頭を下げる。
「あの時メーゲンさんに助けてもらったおかげで、いま僕は幸せです。本当にありがとうございました」
「~~っ!」
笑顔でお礼を言うと、メーゲンさんの涙腺が崩壊した。ぼろぼろと涙を流し、嗚咽を漏らしている。さっきの怖い顔は涙を堪えていたからか、と妙に納得してしまった。強面だけど情に厚くて面倒見が良くて、本当に優しい人なのだ。
「げっ、元気でな!」
「はいっ」
それだけ言うと、メーゲンさんは泣き崩れてしまった。マージさんとアルマさんが両脇を支え、なんとか立たせている。
「メーゲンったら、娘を嫁に出したわけじゃあるまいし、そんなに泣かないでよ」
「娘どころか結婚すらしてないクセにな~」
「ほっとけ!俺ァ繊細なんだよ!」
僕たちが乗った馬車が見えなくなるまで、三人はずっと手を振ってくれた。
18
お気に入りに追加
1,041
あなたにおすすめの小説
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
触れるな危険
紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。
毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。
「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」
俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。
バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。
15話にて本編(なれそめ)が完結。
その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
メランコリック・ハートビート
おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】
------------------------------------------------------
『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』
あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。
-------------------------------------------------------
第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。
幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる