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90話・繋ぎ止める方法
しおりを挟む翌日、ゼルドさんと共に宿屋に戻ると、女将さんが笑顔で出迎えてくれた。
「みんなダンジョンに行っちまってガラガラなんだ。あんたたちが帰ってきてくれて嬉しいよ!」
冒険者はダンジョンに潜っている間も宿の部屋をキープする。今回、橋の建設に関わる者は途中で帰還しない限り約二週間は留守となる。その間の宿代も馬鹿にならないため、依頼主であるギルドが負担することになっている。
部屋は埋まっていても宿泊客がほとんどおらず、女将さんや従業員たちは日々の仕事に張り合いがなかったらしい。
「それで、部屋は?」
女将さんもあの現場を見た一人だ。暗に部屋を変更するか尋ねてきたけれど、僕の意志は既にゼルドさんには伝えてある。
「今まで通りで頼む」
「あいよ、じゃあ鍵」
部屋の鍵を受け取り、並んで階段を登る。廊下を進み、突き当たりにある扉の前に立った。ほんの少しだけ緊張しながら、ゼルドさんが鍵を開ける様子を見守る。
久しぶりに入った部屋は僕の記憶のままだった。ベッドが二つ、窓際に小さな机と背もたれのない丸椅子があるだけの簡素な部屋。
ゼルドさんは荷物を置いてから窓を開け放った。通りに面した窓からは外の騒めきがかすかに聞こえ、心地よい風が入ってくる。座るように促され、ベッドの端に腰を下ろした。
「少し休んだら階下の食堂で食事にしよう。女将が腕を奮ってくれるそうだ」
「女将さんの料理、久しぶりです」
「私もだ。楽しみだな」
「はいっ」
話しながら、ホッと息をつく。
ゼルドさんと二人で過ごすこの部屋は、やはり僕にとって幸せの象徴だ。あんなことがあっても何も変わらない。
ギシ、とベッドが軋む。ゼルドさんが僕の隣に腰を下ろしたのだ。肩を抱かれて顔を上げれば、すぐに唇が重ねられた。少しカサついた唇の感触とあたたかな体温。僕を抱きしめる腕の力が少しずつ強くなっていき、僕はただ身を任せた。
「……すまない」
突然ゼルドさんが僕の両肩を掴み、身体を引き離した。
「これ以上は加減ができなくなる」
ここはギルドの客室ではなく宿屋の部屋。六日間ぶりに再会して、ようやく完全に二人きりになれた。それなのに、今の僕は怪我をしているから思いきり抱きしめることすらできない。
「あの」
迷った後、俯いたまま口を開く。
「……お手伝い、しますか」
ゼルドさんの背中に回していた手を下ろし、太腿に触れる。するりと股間を撫でれば、彼にも意味は伝わるはずだ。身体を繋げることはまだできないけれど、ゼルドさんを気持ち良くしてあげる方法はある。
少しでも役に立てないか、今の僕にもできることはないかと考えた末、これしか思い浮かばなかった。
「ライルくん、それは」
「僕がしたいんです。お願い」
戸惑うゼルドさんを無視してベルトの金具を外した。久しぶりに部屋に戻ったからだろうか。既に反応を示し始めたそこを優しく指先で撫でていく。
「……っ」
抜き合いは以前もしたことがある。ゼルドさんにはもう心理的な抵抗はないようで、僕の手を受け入れてくれた。
下穿きをずらすと、刺激を受けて大きくなったものが飛び出した。つたない触り方でも反応しているのはゼルドさんが僕に好意を寄せてくれているからだと思うと、不安な気持ちがほんの少しだけ軽くなった。
ゼルドさんの呼吸が乱れ、僕の腕を掴む手がわずかに震えていた。本当なら力一杯抱きしめたいだろうに、僕の身体を気遣って軽く添える程度の力しか入っていない。向き合う体勢のままでは逆に辛いのかもしれない。
ふと思いついて手を離した。ベッドから立ち、ゼルドさんの足元の床に膝をつく。
「……ライルくん?」
「じっとしててくださいね」
「何を、」
上向きになったそれを両手で押さえ、唇を寄せる。恐る恐る舌を伸ばして先端を舐めると、ゼルドさんの身体が小さく跳ねた。上目遣いに彼の様子を窺えば、心底驚いたような顔で僕を見下ろしている。
「そんなこと、しなくても」
押し退けたいのか、僕の肩を彼の大きな手のひらが掴む。無理やり引き離したら傷に障ると恐れてか、ゼルドさんはそれ以上の抵抗をしなかった。
「ん……っ」
すっかり勃ち上がったものを手でゆるゆると扱きながら舌を這わせ、先端を口に含む。初めて口にしたけれど、嫌悪感はない。これも彼の一部で、自分が触った結果反応しているのだと思えば愛しく感じた。
「も、もういい、離れてくれ」
ゼルドさんの切羽詰まった声と口内で張り詰めたそれの状態から限界が近いのだと分かる。敢えて口は離さず、刺激を与え続けた。
「ライ、……くっ」
小さく呻きながらゼルドさんは果て、僕の口内に熱い粘液を弾けさせた。息を止め、こぼさぬように受け止める。びくびくと跳ねるそれを両手で押さえ、徐々に勢いを失う様を感じ取りながら、僕は最後まで口を離さなかった。
「す、すまない!口の中に……」
全てを出し切った後、我に返ったゼルドさんが慌てて僕の頬に手を添えて上を向かせた。
僕はといえば、なんとなく口で受け止めてしまったけれど、この先どうすべきか分からず困り顔で唇を引き結ぶしかできなかった。すぐに手拭いを渡され、そこへ出すようにと促される。
口内から吐き出した途端、独特の生臭さにようやく気付く。先ほどまではただただ必死で、気持ち良くしてあげたいという意志だけで動いていた。ある種の達成感を覚えながら唾液と混じり合った粘り気のある白濁を眺めていたら、手拭いごと取り上げられてしまった。
いつの間にかズボンを履き直したゼルドさんが僕の腕の下に手を入れて持ち上げ、ベッドに座り直させる。
「あんな真似、どこで……」
聞きかけて、ゼルドさんは口を噤んだ。もしかしてあらぬ誤解をされているのではないか。
「こういったことは初めてやりました。ゼルドさんに気持ち良くなってほしくて」
恐らくタバクさんに襲われた際に似たような真似をされた、又はさせられたのではないかと疑ったのだろう。幸い僕はそんな被害には遭っていない。
もし口の中に突っ込まれていたら遠慮なく噛みついてやったのに、と思うくらいだ。
「……ライルくん、ありがとう」
ゼルドさんは安堵の息を吐き、愛おしそうに僕を抱きしめてくる。優しい腕に縋りながら、こんな風にしか繋ぎ止められない今の自分に少し落胆した。
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