【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

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81話・聴取[ゼルド視点]

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*今回はゼルドさん視点のお話です*


 ライルくんが怪我を負ってから一週間、目覚めてから四日が経った。

 怪我も順調に回復しており、屋内での移動は問題なくできるようになった。階段の登り降りはまだ不安が残るため宿屋には戻らず、ギルド一階にある客室を借りての生活が続いている。

「お出かけ、ですか」
「ああ。数時間ほど留守にする。その間ギルドで大人しく待っていてくれ」
「……はい、わかりました」

 これまで付きっきりの生活をしてきたからだろうか。私が出掛けると聞いて、ライルくんは明らかに心細そうな顔になった。すぐに笑顔を取り繕って了承してくれたが、無理しているのだと分かる。
 私がそばに居ないことを寂しく思ってくれて素直に嬉しい。片時も離れたくはないが、今回ばかりは私が行かねばならない。 

 ライルくんを苦しめた張本人のを行うのだから。





 ライルくんは鑑定士の仕事場に居てもらうことにした。ここならば受付嬢と鑑定士の二人がいる。あんなことがあった後だ。彼女たちも目は離さないだろう。
 そして、若い冒険者二人に見張りを頼んだ。表向きは鑑定士の片付け手伝いだが、実際はライルくんの話し相手兼護衛。報酬を伴う依頼として頼んだのだが、二人からは何故か固辞された。

 ギルドの建物の表から出て裏手に回り、鍛錬場の片隅にある物置き小屋へと向かう。ここには冒険者の初心者講習に使用する木製武器などが収納されており、使われることは滅多にない。故に、以前ギルドで下働きをしていたライルくんも中に入ったことはない。

「おう、来たか」
「ああ」

 物置き小屋の前ではギルド長が待っていた。私を見て軽く手を上げる。少し遅れてダールともう一人がやってきた。

「待たせたな。んじゃ行こーぜ」

 ダールと共に来た人物はヘルツだ。彼はダールに腕を掴まれている。やや扱いが荒いのはヘルツに対する怒りが治まっていないからか。

 内部に入り、床に置かれた木箱をギルド長が退けた。板張りの床には扉があり、鍵を開けると階下へと続く階段が現れた。

 地下にこんな空間があると知っているのは正規のギルド職員だけ。今回私たちが通されたのは、ここに捕らわれている男に用があるからだ。

 全員で地下へと降りる。かび臭さにヘルツは顔をしかめ、懐から取り出したハンカチで口元を覆った。
 壁際にあるランプに火を灯すと、ぼんやりと内部が照らされる。目の前には鉄格子の牢があり、一人の男が石壁に背を預けて腰を下ろしていた。

「よぉ、タバク。生きてるか」

 ギルド長が軽い調子で声をかけると、男……タバクは緩慢な動きで顔をこちらへと向けた。衣服は捕まった当時のまま。牢の床は土が踏み固められているだけで、彼は薄汚れていた。
 足を鎖に繋がれた状態で鼻を鳴らし、タバクはこちらに怪訝な視線を向ける。

「なにこれ、どういうメンツ?取り調べをすんのは憲兵じゃねぇの?」

 私たちの顔ぶれを見て疑問に思ったようだ。
 タバクの言う通り、冒険者の犯罪とはいえ幾つかの町を跨いでの殺人ともなればギルド長権限で裁くことはできない。大きな町から憲兵を呼び、犯人の身柄を引き渡す必要がある。
 もうすぐ憲兵がタバクを迎えにやってくる。そうなれば、私たちの手から完全に離れたところで取り調べが行われる。そこで余計なことをベラベラと話されては都合が悪い。

「おまえ、スルトの……オクトここに来てたのか」
「オレのこと知ってんだー?そりゃ光栄だな。クソ野郎が」

 タバクはまずダールを見て目を見開いた。
 スルトのダンジョン踏破者であるダールを見かけたことがあるようだ。彼もスルトに一時拠点を置いており、そこで仲間を一人殺害している。そしてスルトのダンジョンが踏破された後オクトに拠点を移してきたのだ。

 もちろんタバクは彼がライルくんの幼馴染みだと知らない。いきなり悪態をつかれ、やや驚いている。

 ギルド長がこの場にいるのは聞かずとも分かるようで、特に言及はなかった。ヘルツに関しては完全に初対面で「誰だ?」と疑問を抱いているようだった。

 そして、タバクの視線が私を捉えた。吊り目がちの目を細め、口の端を歪めて笑う姿に苛立ちを覚える。

「ライルの相棒か。俺をブン殴りに来たのか?」

 何度も顔を合わせ、言葉を交わしたから覚えていたようだ。無言で睨むとタバクは肩を揺らし、大きな声をあげて笑いだした。

「ふは、ははは!」

 何日も暗い地下牢に閉じ込められておかしくなったのか。最初から狂っていたのか。彼は自分を繋ぐ鎖を鳴らし、ゆらりと立ち上がった。

「ライルが抵抗しなきゃ最後までヤレたんだがな。あーあ、どうせ捕まるんなら慣らさずヤッちまえば良かった」
「……」
「薬が効いたライルは可愛かったぜ?もっともっと、っておねだりしてさ。突っ込む直前に正気に戻っちまったのは残念だったけどな」

 鉄格子を掴み、真っ直ぐ私を睨みながら、タバクは挑発的な言葉を吐き続けた。私を怒らせたいのだろう。

「もうちょい多めに飲ませておくんだったなぁ。アンタもヤる時は薬使えよ。アイツの乱れた姿、結構クるからさ」

 ライルくんは快楽に流されずに抵抗した。
 自分の身体を傷つけたのは正気を保つため。
 私に操を立て、自分の尊厳を守り切った。

 こんな男にライルくんを奪われてしまうところだったのか、と改めて怒りがわいた。
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