【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
77 / 118

77話・意識の水底で貴方を想う

しおりを挟む


『まってよダール!』
『ちんたら走ってんじゃねーぞライル!』

 木々の隙間を縫うように駆け回る。整備されていない獣道に響くのは僕たちの声と足音、風が葉を揺らす音だけ。何故か鳥の鳴き声や動物の気配は感じない。

『ここまで来てみろよ!』

 先を行くダールは後ろで一つにくくった黒髪を揺らし、大きな木に軽々と登っていった。僕も必死になって追い掛ける。他の木なら難なく登れるけれど、この木は森の中で一番大きいから彼のようにすんなりとはいかない。いつも途中で諦めてしまう。

『ほら』

 ダールが差し出してきた手を掴むと、一気に上まで引き上げられた。ここからは森から村までが一望できる。
 初めてダールと同じ景色が見られて喜んだのも束の間、彼は僕を置いて木から飛び降りてしまった。

『待って、なんで降りちゃうの?』

 慌てて追い掛けようとしたらダールに止められた。

『ダメだ。ライルはここにいろ』
『なんで?僕も一緒に行きたい』

 木の下から僕を見上げるダール。
 彼は笑顔で手を振っている。

 突然地面が揺れ、獣の咆哮が耳をつんざく。鳴り響く地鳴りのような音に、何かがこちらに迫ってきているのが分かった。気付いていたからこそ、ダールは僕をこの木の上に登らせたのだ。

『オレは村に知らせにいく。おまえはここで待ってろよ』

 僕はこの会話を知っている。
 何度も悔やんだあの日の記憶だ。

『いやだ、一緒にいようよ!ほら、もう一度登ってきて!』

 必死に訴えてもダールには届かない。
 記憶のままのセリフをなぞるだけ。

『後で会おーな!』

 彼が村のほうへ駆け出す姿を、木の幹にしがみついたまま見送る。どんどん小さくなる後ろ姿が視界から消えた次の瞬間、森の奥から無数のモンスターが現れた。真っ黒な濁流のようなそれは草花を踏み散らかし、時には樹木にぶつかったりしながら真っ直ぐ村のあるほうへと突き進んでゆく。

 村に何が起きるのか、僕は知っている。
 今ならまだ誰も死んでいない。
 ダールもまだにいる。
 でも、絶対に間に合わないのだ。

 これは僕の記憶。
 過ぎ去った日の出来事なのだから。






 場面が突然切り替わった。

 村の広場には布を掛けられた遺体が並べられている。その中には僕の両親と幼い妹もいた。損傷が酷くておおよその年齢や性別しか判別できず、恐らくそうだろうというくらいの確認しかできなかったけれど。

『あれ、これは……?』

 離れた位置に置かれた遺体が四つ。頭まで布を掛けられているから顔は見えないが、体格からして成人男性。傍らには武器が転がっている。ダンジョンの大暴走スタンピードに巻き込まれた冒険者だろうか。

 こんな場面あったかなと意識を向けた途端、遺体が動いた。驚いて後ずさると、四つの遺体が次々に起き上がっていく。掛けられていた布がはらりと落ち、モンスターに食われたであろう痛々しい傷痕があらわになった。ぼたぼたと赤黒い血の塊が地面に落ち、僕の足先を汚していく。

『ひっ……!』

 あまりにも恐ろしい光景に息を飲むと、冒険者たちの遺体がギャハハと笑い始めた。この下卑た笑いかたには聞き覚えがある。

『思い出したかよ、ライル』
『よくも逃げやがったな』
『おまえのせいでこのザマだ』

 四つの遺体のうち、三つは王都時代のタバクさんの仲間だ。彼らは僕が逃げだしたせいで殺された。

『え、うそ。なんで』

 茫然と立ち尽くしていたら、後ろから肩を掴まれた。自分の肩に乗せられた土気色の手を見て小さく悲鳴をあげる。

『弱っちいガキのくせに』

 ハイエナだ。ものすごい力で突き飛ばされ、血まみれの地面に転がる。僕の脇腹を踏みつける彼の足には刺し傷があった。タバクさんがつけた傷だ。

『テメェが素直に言うこと聞いてりゃ俺はこんな目に遭わずに済んだんだ!』

 ハイエナに怒鳴られ、目を見開く。
 彼らは殺された。手を下したのはタバクさんだけど、原因となったのは僕だ。

 彼らは僕を恨んでいる。
 僕に復讐しに来たのだ。

『おまえもこっちへ来いよ』
『怯えた顔も可愛いなぁ、ライル』

 立ちあがろうとしても身体を踏みつけられて動けない。迫り来る四人の姿は本当に恐ろしくて震えが止まらなかった。

 怖い、怖い、怖い。
 誰か助けて。



──ライルくん。



 絶望に塗り潰されそうになった心の奥底にひと筋の光がさす。俯いていた顔を上げ、彼の姿を探した。

 名前を呼ぼうと口を開きかけて、ためらう。
 僕には彼に助けてもらう資格があるんだろうか。勝手な真似をして怒ってないだろうか。役に立ちたいのに失敗ばかりして、愛想を尽かしていないだろうか。

 ……まだ僕を好きでいてくれるだろうか。

 迷っている間に四方を囲まれてしまった。逃げ道を塞がれ、途方に暮れる。

 すると、再び心の中に光が芽生えた。
 あたたかくて、やわらかな光。




──次に悪い夢を見たら私を思い出せ。

──必ず君を助ける。




『ゼルドさんっ!!』

 大きな声で名前を呼んだ瞬間、彼の姿が目の前に現れた。大剣を振るい、あっという間に斬り伏せる。鮮やかな剣筋に見惚れていると、ゼルドさんは笑顔でこちらに振り返った。僕だけに見せる甘い表情。



 大人で頼り甲斐があって強くてカッコいい
 僕がいちばん大好きな人



 そのまま彼の胸の中に思いきり飛び込むと、僕の意識は急激に浮上していった。
しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!

こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...