【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

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76話・悔恨[ゼルド視点]

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 医師による処置が終わってから、ライルくんはギルドの客室へと移された。短剣の切っ先が細かったため傷口は小さく、幸い内腑は傷付いていなかった。しかし、盛られた媚薬の影響で血の巡りが促進されており、出血が止まりにくい状態だった。女将が止血していなければ最悪命を落としていたかもしれない、と。

 私はただ彼のそばに居続けた。

 その間に、ギルド側は迅速に動いていた。
 タバクと組んでいた冒険者三名が騒ぎに乗じてオクトから逃走を試みたが、ギルド長が直接出向いて捕縛した。彼らは隣の部屋に宿泊しており、ライルくんが助けを求めても無視していたという。

 ハイエナ殺しの証拠も見つかった。
 鑑定士がタバクと仲間が借りていた部屋に捜索に入り、ベッドの下に隠された長剣を発見した。王都の武器工房で造られたもので、タバクが数年前から愛用していた武器だった。ハイエナの傷痕と一致したため、タバクは捕まった。

 ライルくんに「タバクから話を聞き出すように」と頼んだのはヘルツだ。タバクに殺人容疑が掛けられていると承知の上で提案したのだ。犯行に関わる話を聞き出した後、ヘルツが踏み込む手筈となっていた。だからこそ受付嬢やダールも納得した。
 しかし、ヘルツはライルくんの危機を知りながら動かなかった。ダールが駆け付けた時、ヘルツは平然と部屋の前に立っていた。他の宿泊客が異変に気付いて廊下に出ていたにも関わらず。

 ダールに詰め寄られた彼は、いつもの調子で平然と答えた。

「ライル様がいなくなれば、ゼルド様が王都にお戻りになるのではないかと思いまして」

 ヘルツは最初からライルくんの身の安全などどうでも良かったのだ。タバクに危害を加えられても「間に合わなかった」で済ませるつもりだった。媚薬を盛られて襲われていても、その痴態を見れば私がライルくんを見限るのではないか、と。
 今回、ライルくんが自分自身を傷付ける展開だけは予想していなかったという。


──この事態を招いたのは私だ。


 フォルクスが私の居場所を探し当てたのは、友人とやり取りをしていた手紙を見られたから。過去の繋がりを全て断ち切る覚悟がなかった私の落ち度だ。

 ヘルツはマーセナー家に仕える忠臣。当主であるフォルクスの望みを叶えることを最優先に動く。私を王都に連れ戻すためだけにライルくんを排除しようとした。

 私が考えなしに交際していると発言したせいでヘルツに目を付けられ、ライルくんは危険に晒された。

 ダールに嫉妬し、ライルくんを一人宿屋に残した。タバクと二人きりで話す機会を与えてしまった。

 ライルくんが覚悟を決めてタバクと対峙している頃、何も知らずにのうのうと過ごしていた。

 ライルくんが色々と負い目を感じていると気付いていながら、私は何もしてこなかった。彼が無茶をしたのはそのせいだ。





「ゼルドのオッサン」
「……ダールか」

 ベッドの傍らに置かれた椅子に座ってライルくんの寝顔を見つめていたら、客室の扉が勢い良く開かれた。ダールだ。ズカズカと歩み寄り、横たわるライルくんを覗き込む。彼は怒りを発散するため近くの森で獣を狩ってきたという。

「まだ目ェ覚さねーの?」
「ああ」

 呼吸と脈は安定したが意識はまだ戻らない。

 扉の影から室内を覗き込む若い冒険者の姿があった。以前ライルくんがダンジョン内で手当てをし、薬草のことを教えた二人だ。昨日宿屋の廊下にいたところに声を掛けて医者を呼ぶように頼んだこともあって、彼らはライルくんを心配して様子を見に来てくれたのだ。

「あのっ、ライルさん大丈夫っすか」
「薬草採ってきたほうがいいっすか」

 私を恐れて近寄れないのだろう。部屋の入り口辺りからこわごわと声を掛けてくる。

「うるせー!オマエらが雑に引っこ抜いたモンなんかライルに使わせられるか!ついてこい!」
「は、ハイッ!」

 気弱な態度に苛立ったダールは、二人を引き連れて何処かへ行ってしまった。恐らく怪我によく効く薬草をダンジョンに採りに行ったのだろう。何かしていないと落ち着かないらしい。

 ライルくんから何度も教わったのに、結局私は薬草の見分け方を覚えられなかった。採集を試みても失敗ばかりだった。

 本当に私は何もできない。
 ただ傍らに居続けることしかできない。
 己の無力さを痛いほど自覚させられた。






「ゼルドさん、少し横になったら?」

 仕事の合間に様子を見に来た受付嬢が気遣わしげに声を掛けてきた。

 事件から丸二日経った。
 ライルくんのそばから片時も離れない私を心配してくれているのだろう。彼女もあまり顔色が良くない。今回の件に責任を感じているようで、私に対してどこか遠慮がちな態度だ。
 テーブルの上に置かれた食事が少しも減っていないことに気付き、受付嬢は息をついた。ここに来てから私は何も口にしていない。

「ねぇ、本当に休んで。今のあなたを見たらライルくん驚いちゃうわ」
「……ああ」

 視線をライルくんに向けたまま返事をすれば、彼女は冷めきった食事を下げ、新しい食事を置いて客室から出て行った。

 あたたかなスープと焼きたてのパンの香りが室内に漂う。

「……ライルくん、おなかが空いただろう」

 声を掛けても返事はない。
 薄く開かれた唇はずっと動かない。

「君は細いのだから、たくさん食べなければ」

 血を流し過ぎたせいで顔色が悪い。
 頬がややこけ、儚く見えた。

「……、……っ」

 君と話がしたい。
 君の笑顔が見たい。

 早く起きて、その瞳に私を映してくれ。

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