上 下
73 / 118

73話・あらがう

しおりを挟む


 媚薬で感じやすくなった身体はどこに触られても快楽を拾った。全身を巡る血が燃えるように熱い。呼吸は乱れ、喘ぎの合間にわずかに取り込む空気さえ熱く感じた。タバクさんに触れられている部分から溶けていきそうなほどに気持ちいい。こんな感覚は初めてで、恐ろしさより求める気持ちが勝った。

 耳に聞こえるはしたない嬌声が自分の口からこぼれたものだなんて信じられない。甘く誘うような熱を孕んだ声に、気持ちが昂っていく。

「もっと、おく、おくに」

 指では届かない腹の奥がじくじくと疼いた。奥深くに触れられたら更に気持ち良くなれると本能が知っている。身を捩らせ、力の入らない手でタバクさんの腕を掴み、もっともっととせがんだ。

「初めてのくせに腰が揺れてんぞ」
「ひゃあ、ん」

 後孔を慣らしている手は止めず、もう片方の手で腰を撫でてから痛いくらいに勃ち上がっている僕の雄を掴む。そのまま乱暴に扱かれ、僕はあっさり果てた。おなかから胸にかけて白濁の液が散る。

 ゼルドさんの手で達した時より気持ち良く感じてしまったのは媚薬のせいだ。過剰に増幅された快感に手足が痙攣し、呼吸は更に不規則になった。は、は、と短く荒い息を吐く。

「これくらいでいっか。血ィ出たら萎えるもんな」

 指を引き抜いたタバクさんが僕の上から退いた。急に離れられ、刺激が一つもなくなった。もっともっと触ってほしいと、目が勝手にタバクさんの姿を探す。

 涙でぼやけた視界は、何度か瞬きを繰り返したらクリアになった。

 ベッドの上で仰向けに転がされた僕の足元辺りに膝立ちをして、自分のベルトの金具を外しているタバクさんが目に入る。すっかり大きくなって下着を押し上げている彼のものを見て、これから何をされるのか理解した。

 期待で熱くなる身体とは裏腹に、頭の中は嫌悪と拒絶でいっぱいになった。
 なけなしの理性を奮い立たせ、ベッドの端に手を掛けて移動する。全然力が入らず、じりじりと位置をずらすだけで精一杯だった。

 そうこうしているうちにタバクさんが伸し掛かってきた。僕の脚を大きく開かせ、腰を掴む。それだけで再び快楽のほうへと思考が向きそうになり、唇を噛んで堪える。

 必死に逃げようと室内を見回した時、視界の端に机が見えた。

 窓際に置かれた小さな机には水差しが置かれ、一振りの剣が立て掛けられている。僕とゼルドさんが探し求めていた『対となる剣』だ。今日はこの剣を手に入れて、ゼルドさんの鎧を外し、彼と素肌で触れ合うはずだった。


──それなのに、僕は。


 唇に歯を立てると口内に鉄の味が広がった。小さな痛みがわずかに残った理性を保たせてくれる。

 離れた場所に置かれた『対となる剣』にはどうやっても届かない。伸ばした手から力を抜くと、ベッド脇にだらりと落ちた。

「はは、物欲しそうな顔してるな」
「……っ」

 もう限界だ。身体は貪欲に快楽を求め、タバクさんを受け入れたがっている。

 このまま流されてしまえば楽になれる。媚薬を使われたのだ。ゼルドさんだって仕方がないことだと分かってくれる。優しい人だから、僕を責めずに許してくれる。だったら、もう抱かれちゃってもいいんじゃないか。我慢し続けても意味なんかないんだから。早く体内に燻る欲を全部吐き出してしまいたい。

 早く、早く、早く。

 ベッド脇に垂らした腕。
 その指先に何かが触れた。短剣だ。普段はリュックと共にベッドの下で保管している。さっきタバクさんに見せるために引っ張り出した時、奥にしまっていた短剣が手の届く位置に出てきていた。

 護身用にとゼルドさんが持たせてくれたものだ。

「くっ……!」

 柄を掴む。小さな短剣なのに重く感じるのは僕の腕に力が入らないからだろう。更に深く唇に歯を立て、痛みで意識を保つ。気力を振り絞り、なんとかベッドの上に短剣を掴んだ腕を持ち上げた。鞘は外れ、抜き身の刀身が窓から射し込む陽光を映して光った。

「それで俺を追い払う気か?できるのかよ。こんなぐずぐずの身体で」
「あぁっ……!」

 一度達した後も勃ち続けているものを強く握られ、悲鳴に近い声が出た。痛みより快楽が勝り、また意識が飛びそうになる。

「ほら、ちゃんと抵抗しないと入っちまうぞ」
「ッ、やだ、だめ」

 タバクさんが腰を寄せ、僕の後孔に先端を押し当てた。既に十分解されたそこは更なる刺激を求め、自ら飲み込もうとする。わずかに腰を上げるだけで挿入はいってしまいそうだった。

 こんなことなら、あの時ゼルドさんに抱かれておけば良かった。怖気付いて中断しなければ良かった。彼以外と肌を重ねるなんて耐えられない。

 力が抜けきった状態の僕が短剣を振り回しても、タバクさんは片手で難なくあしらえる。だから全く警戒していない。多少切り付けられたとしても大したことはないと侮っているのだ。

「ばかにしないで」

 震える腕に力を込め、短剣を持ち上げた。鋭い刃はタバクさんではなく僕のほうに向いている。

「!?っおい、危ねぇぞ!」

 僕が何をしようとしたか察したタバクさんの焦った声が聞こえた。

 短剣を振り回す必要はない。
 高く掲げ、手を離すだけで済む。
 後は重みで下にあるものを貫くだけ。

「ライル!!」

 手から滑り落ちた短剣は、僕の脇腹に突き刺さった。媚薬の効果で快楽に負け掛けていた感覚が痛みによって急激に冷えていく。

 タバクさんの叫び声と同時に扉の向こうが騒がしくなった。異常に気付いたのだろう。ヘルツさんか、他の宿泊客か。廊下側から扉を叩く音が響き、誰かが押し入ってきた。やっと、やっと助けが来たのだ。

「ゼルド、さ……」

 かすれた声で彼を呼ぶ。こんな状態の僕を見たら悲しむだろうな、と思ったら涙があふれた。

 勝手なことをしてごめんなさい。
しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 舞踏会編はじまりましたー! 登場人物一覧はおまけのお話の最初にあります。忘れたときはどうぞです! 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...