72 / 118
72話・溶ける理性
しおりを挟む宿屋の二階の突き当たりにある二人部屋。いつもはゼルドさんと穏やかな時間を過ごす幸せの象徴のような部屋。
そこで僕は完全に逃げ場を失っていた。
廊下で待機しているはずのヘルツさんは、いつまで経っても部屋に入ってこない。もしかしたら何らかのトラブルでまだ冒険者ギルドにいるのかもしれない。
ならば、と隣の部屋の宿泊客に助けを求めたらタバクさんの仲間が借りている上に共犯者だという。
マージさんの言葉を思い出す。
『タバクさんは他の冒険者とパーティーを組んで探索してるのよ?ダンジョン内で誰かに危害を加えたりしたら、さすがに仲間が気付くでしょ』
ダンジョン内で仲間と別行動を取るとは考えにくい。再び合流できる保証がないからだ。だからタバクさんがハイエナ殺しなんてできるはずがない、と僕も思っていた。実際は、タバクさんがやったと知りながら口裏を合わせていただけ。
「どうして俺が誰かとすぐに仲良くなれるか分かるか?それは『俺と組めばカネになる』からだ。昔の仲間もそうだった」
オクトで知り合った三人組の冒険者たちはタバクさんの儲け話に乗ったのか。まさか王都の時みたいな真似をここでもしているのだろうか。
「田舎娘を騙して娼館に売り飛ばすの、けっこう良い稼ぎになるんだよ。一人じゃ騙すに騙せねぇから仲間が要るんだ」
やはり。タバクさんがオクトに拠点を移した理由は新たに娼館ができるから。優しい顔で近付いてその気にさせ、騙して売り飛ばす。買い手が変わるだけで、手口自体は同じだ。
涙で滲んだ目で睨みつけると、タバクさんは肩を揺らして笑った。細められた目は先ほどからずっと僕を見据えている。間近で交わった視線に耐え切れず、先に目をそらした。
「ライル」
「ひっ」
タバクさんは右手を僕の傍らに置き、左手で僕の目元に触れた。指先が目尻の涙を拭うようになぞり、そのまま頬から顎に滑っていく。軽く触れられただけなのに身体がカッと熱くなった。
背中は壁にべったりとくっつき、これ以上後退できない。首をすくめ、震えて力が入らない手を前に出して接近を阻む。その手を捕まれ、指先を軽く食まれると、ビクンと身体が跳ねた。
「あっ、え、なに、これ」
「やっと薬が全身に回ってきたな」
口の端を歪めて笑い、タバクさんは更に身を乗り出してきた。ギシリとベッドが軋む。そっと撫でるような触れ方はそこまでだった。
「や、やだ、やめて」
「ヤダヤダ言われると逆に燃える」
手首を掴まれ、乱暴にベッドに転がされる。即座に肘をついて上体を起こして離れようとしたけれど、僕の上に伸し掛かるタバクさんによって動きを封じられた。
「あ、やっ、さわらないで」
手が服の隙間に差し込まれ、シャツが捲り上げられた。胸元まで露わになったところにタバクさんの大きな手のひらが這い回る。首筋や頬に触れられた時とは比べ物にならないくらいの刺激が身体の芯を甘く痺れさせた。
「く……ッ」
ぞくぞくとした感覚には覚えがある。性的な快楽だ。でも、ゼルドさんと触れ合った時のような幸福感は一切ない。媚薬で一時的に感覚が鋭敏になっているだけ。
「はは、随分と良さそうだな」
「こんなの、ちがう!……んむ」
こんなものは偽物の快楽だ。そう反論しようとした僕の口はタバクさんによって塞がれた。べろりと口内を舐められ、再び背筋が痺れる。全身が脱力してしまうほどの快感に襲われ、胸板を押し返そうとした腕から力が抜けていく。
「ん、んっ……うぐ」
ろくに抵抗もできず、されるがままになっていた。深いキスをしながら、タバクさんの手は僕の胸や腹を無遠慮に撫で回す。口内と肌に与えられる刺激が快楽に置き換えられ、抗う意志が徐々に削がれていった。
「さっさと済まさねえと、真っ最中に相棒が帰ってきちまうかもな」
「……ッ!」
嘲笑うようにタバクさんが口にした言葉に、熱く溶けそうになっていた思考が引き戻された。
こんなところを見られたらどう思われるか、想像しただけで震えが止まらない。
「タバクさんだって、こまるんじゃないですか」
「俺が?なんで?俺はライルから『来てください』って部屋に誘われたんだぜ?」
そうだった。ここには僕が誘ったことになっている。呼び出した際のメモが証拠だ。この行為が同意だと思われたら、何の抵抗もせずタバクさんを受け入れたように思われたらどうしよう。
「やめて、おねがい」
「お、まだ抵抗する気あんのか。薬の量が少なかったかなぁ」
顔をそらして唇を離し、馬鹿な真似はやめてくれと懇願する。なかなか言いなりにならない僕に痺れを切らしたのだろう。タバクさんは僕の腰に手をかけた。慣れた手付きで金具を外し、ベルトを引き抜くと、下着ごとズボンを脱がせ始めた。
「ちょっ、なにを」
「なにって、ベッドの上でやることなんざ一つしかないだろ」
「やだ、やめて……!」
タバクさんの手はこれまでの刺激で勃っていたものを無視して、更に下へと伸ばされた。彼の指先が僕の臀部を這うように撫で、その奥にある固く閉じられた部分に触れた。
「あれ?おまえ相棒とヤッてねぇの?」
ぐいぐいと無理やり指を突っ込もうとしながら、タバクさんが首を傾げた。そんなところ、今まで誰にも触られたことなんかない。
「なーんだ、てっきり性欲処理も兼ねて雇われてるんだと思ってた」
話をしながら手を動かし続けられる。下腹部を襲う刺激にまともに言葉を発することすらできず、ただ首を横に振って否定した。
今の発言は僕だけでなくゼルドさんを侮辱している。
僕が自慰の手伝いを申し出た時に叱られた。そんなことは支援役がすべき仕事ではないと言ってくれた。両想いになるまでキスすらしなかった。自分の欲より僕の気持ちを優先してくれた。僕を大事にしてくれた。
「慣らすの面倒くせぇ。だから初モノは嫌なんだよなぁ。ま、薬使ったしいっか」
タバクさんは一旦手を戻して僕の唇に押し当てた。無理やり口の中に指を突っ込み、舌に触れる。媚薬で過敏になったせいか、舌への刺激すら快楽として受け取ってしまう。
「ンッ……ふ」
僕の意志とは関係なく、身体は貪欲に更なる快楽を求めた。口内に突っ込まれた指を舐め、ちゅうと音を立てて吸い上げる。しばらくそうしていたら、タバクさんの指がずるりと引き抜かれた。無意識のうちに唇が指を追う。その様を見て、タバクさんが愉快そうに笑った。指の代わりに深いキスをされ、また勝手に身体が悦ぶ。
唾液をまとわりつかせた指先が再び下へと伸ばされた。先ほどは少しも開かなかったそこは、絶え間なく襲う快楽に負けて弛緩しつつあった。濡れた指の腹を押しつけられ、少しずつ飲み込んでいく。
「っや、あ、あぁ、ん」
自分の口から出たとは思えないほど甘い声がもれた。
30
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話
《 わんこ営業マン×メガネ敬語総務 》
営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい
お気に入りに追加
1,050
あなたにおすすめの小説
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
騎士は愛を束ね、運命のオメガへと跪く
夕凪
BL
(本編完結。番外編追加中)
サーリーク王国郊外の村で暮らすエミールは、盗賊団に襲われた際にオメガ性が顕現し、ヒートを起こしてしまう。
オメガの匂いに煽られた男たちに体を奪われそうになったとき、狼のように凛々しいひとりの騎士が駆け付けてきた。
騎士の名は、クラウス。サーリーク王国の第二王子であり、騎士団の小隊長でもあるクラウスに保護されたエミールは、そのまま王城へと連れて来られるが……。
クラウスとともに過ごすことを選んだエミールは、やがて王城内で湧き起こる陰謀の渦に巻き込まれてゆく。
『溺愛アルファの完璧なる巣作り』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/26677390)スピンオフ。
騎士に全霊で愛されるオメガの物語。
(スピンオフにはなりますが、完全に独立した話ですので前作を未読でも問題ありません)
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる
葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。
王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。
国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。
異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。
召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。
皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。
威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。
なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。
召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前
全38話
こちらは個人サイトにも掲載されています。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる