【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
55 / 118

55話・さわって

しおりを挟む


 身体を洗い終え再度湯舟に浸かって温まった後、脱衣所で身体を拭く。濡れた髪から滴る水を手拭いに吸わせながら手早く服を着た。ゼルドさんはまだ熱いようで、鎧の下には何も着ていない。宿屋内では不審に思われないよう、ゆったりとした上衣を肩に掛けている。

 浴室の鍵を返す際に女将さんから水差しとグラスを受け取り、階段を登って二階へと向かう。

 部屋に入り、内鍵を掛け、水差しをテーブルの上に置いた途端、後ろから抱きしめられた。湯上がりのせいか互いの身体が熱く感じる。緊張と期待で高鳴る心臓の音がやけに頭に響いた。

「……触れてもいいか」

 熱のこもった声が耳をくすぐり、反射で肩がびくりと揺れる。改めて確認を取られると何と答えていいか分からない。

 黙り込む僕の態度をどう受け取ったのか、身体に回された腕の力が少し抜けた。嫌がっていると思われたかもしれない。ゼルドさんに触れられるのは恥ずかしいけど、嫌だと思ったことなんか一度もないのに。

 離れようとするゼルドさんの腕を咄嗟に両手で掴む。指先は震え、全然力が入っていないけれど、この場に留めようとする意志だけは伝わったようで、再度腕に力が込められた。

「ライルくん」
「……っ」

 耳元で名前を呼ばれ、身体が強張る。
 早く何か言わなくてはと思うほど口は言葉の紡ぎ方を忘れ、不規則な呼吸を繰り返すだけの器官と成り果てた。

 抱きしめられたのは初めてじゃない。口付けも、もう数え切れないほど交わした。それなのに、何故こうも緊張してしまうのだろう。

「……君が許しを与えてくれないと、私はこれ以上何もできない」

 切なげな言葉が胸に刺さった。
 僕なんてどうにでもできるだろうに、ゼルドさんは決して無理強いをしない。嫌がることをしない。それは、自分の欲より僕の気持ちを優先しているからだ。

「ゼルドさん」

 やっとの思いで口を開き、掠れた声で名前を呼ぶと、ゼルドさんの腕がぴくりと動いた。背後から抱きしめられているから表情は見えないけれど、きっと彼も緊張しているのだろう。そう思った途端、少しだけ身体から力が抜けた。

「さわって」

 僕の言葉に、ゼルドさんは首筋に唇を押し当てることで応えた。回されていた腕が一旦離れ、肩から二の腕、肘を伝い、手首から指の先までゆっくり撫でていく。優しい手付きの裏に隠しきれない衝動を感じ、僕は小さく身震いをした。

「こちらを向いて」

 両肩を掴まれ、身体の向きを変えられた。うつむく僕の顎をゼルドさんの指先が捉え、そっと持ち上げる。言葉を発する間もなく唇が重ねられ、すぐに舌が挿入された。分厚くて熱い舌が僕の口内を味わうようにゆっくりと舐め上げてゆく。
 深い口付けは何度かしたけれど全然慣れなくて、毎回呼吸が苦しくなる。今回も息つぎのタイミングが分からず戸惑うばかり。僅かな隙間ができた時を狙って息を吸おうとしても、呼気ごとゼルドさんに奪われてしまう。

「……っ、はぁ、はぁ」

 酸欠状態で耐えているうちにようやく唇が離されて安堵したのも束の間、今度は服の上から腹部に触れられた。大きな手のひらがおなかから脇腹にかけてゆっくりと動き、そのまま後ろに回されて背筋に沿って撫で上げていく。

「うぅ……く、くすぐったい、です」

 変な声が出そうになるのを必死に堪え、誤魔化すように話しかけると、再び唇が塞がれた。執拗に口内を嬲られ、足腰から徐々に力が抜けていく。

「っ、あ」

 身体をゼルドさんに預けるようにもたれさせた時、何か硬いものがおなかに当たった。ギョッとして腕をつっぱねようとしたけれど離してもらえなかった。息継ぎの隙をついて顔を横に向ける。

「あ、あの……」
「うん?」

 視線を下に向け、おなかに当たるそれを指すと、ゼルドさんは目を細めて素知らぬふりを決め込んだ。勃ち上がったそれをわざと僕に押しつけ、反応を窺っているようだった。
 身を捩るほどに先端が腹部を抉る。今までは勃起しても僕に悟られないようにしていたのに、もう隠す気はないらしい。

「君も反応している」
「だって、ゼルドさんが触るから」

 首の後ろから背骨を伝うように下に降りた手が僕の下腹部に触れた。ズボンの布越しに僅かに膨らんだ部分を撫でられ、びくりと肩が揺れた。

 そんなところを誰かに触られた経験なんてない。ズボンの上から形をなぞるようにゼルドさんが指先を動かすたび、僕のものが硬くなっていく。羞恥で逃げ出したくなる気持ちを抑え、ゼルドさんの身体にしがみつく。

「んんっ……」

 今の状況に興奮しているのは僕だけではない。先ほどからゼルドさんも熱い吐息を漏らしている。変な声が出ないように手のひらで口元を覆い隠そうとしたら、すぐに空いているほうの手で手首を掴まれ、阻まれてしまった。

「声を我慢しないでくれ」
「でも、隣に聞こえちゃう」

 ここは二階の突き当たりにある角部屋で、隣の部屋には別の客が泊まっている。まだ寝静まる時間帯でもないし、大きな声や音を出せば当然聞こえてしまう。

「隣は今夜は留守だそうだ」
「え、なんで知って……」
「宿に戻った時に女将から聞いた」

 タバクさんがいるかどうか確認した際、ついでに隣の部屋のことも聞いておいたらしい。宿泊客のほとんどは冒険者だ。ダンジョンに探索に出ていれば数日不在になることも珍しくはない。

 今日は何故か積極的だと思ったらそういうことだったのか。分かった上で僕に触れてもいいかと訊ねていたのだ。

「あ、やぁ」

 安堵した隙に股間に触れていた手が再び動き始めた。身体から余計な力が抜けたせいか、より感覚を拾いやすくなっている。

 思わず漏れた情けない声に、ゼルドさんは満足そうに目を細めた。
しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

専属【ガイド】になりませんか?!〜異世界で溺愛されました

sora
BL
会社員の佐久間 秋都(さくま あきと)は、気がつくと異世界憑依転生していた。名前はアルフィ。その世界には【エスパー】という能力を持った者たちが魔物と戦い、世界を守っていた。エスパーを癒し助けるのが【ガイド】。アルフィにもガイド能力が…!?

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

処理中です...