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55話・さわって

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 身体を洗い終え再度湯舟に浸かって温まった後、脱衣所で身体を拭く。濡れた髪から滴る水を手拭いに吸わせながら手早く服を着た。ゼルドさんはまだ熱いようで、鎧の下には何も着ていない。宿屋内では不審に思われないよう、ゆったりとした上衣を肩に掛けている。

 浴室の鍵を返す際に女将さんから水差しとグラスを受け取り、階段を登って二階へと向かう。

 部屋に入り、内鍵を掛け、水差しをテーブルの上に置いた途端、後ろから抱きしめられた。湯上がりのせいか互いの身体が熱く感じる。緊張と期待で高鳴る心臓の音がやけに頭に響いた。

「……触れてもいいか」

 熱のこもった声が耳をくすぐり、反射で肩がびくりと揺れる。改めて確認を取られると何と答えていいか分からない。

 黙り込む僕の態度をどう受け取ったのか、身体に回された腕の力が少し抜けた。嫌がっていると思われたかもしれない。ゼルドさんに触れられるのは恥ずかしいけど、嫌だと思ったことなんか一度もないのに。

 離れようとするゼルドさんの腕を咄嗟に両手で掴む。指先は震え、全然力が入っていないけれど、この場に留めようとする意志だけは伝わったようで、再度腕に力が込められた。

「ライルくん」
「……っ」

 耳元で名前を呼ばれ、身体が強張る。
 早く何か言わなくてはと思うほど口は言葉の紡ぎ方を忘れ、不規則な呼吸を繰り返すだけの器官と成り果てた。

 抱きしめられたのは初めてじゃない。口付けも、もう数え切れないほど交わした。それなのに、何故こうも緊張してしまうのだろう。

「……君が許しを与えてくれないと、私はこれ以上何もできない」

 切なげな言葉が胸に刺さった。
 僕なんてどうにでもできるだろうに、ゼルドさんは決して無理強いをしない。嫌がることをしない。それは、自分の欲より僕の気持ちを優先しているからだ。

「ゼルドさん」

 やっとの思いで口を開き、掠れた声で名前を呼ぶと、ゼルドさんの腕がぴくりと動いた。背後から抱きしめられているから表情は見えないけれど、きっと彼も緊張しているのだろう。そう思った途端、少しだけ身体から力が抜けた。

「さわって」

 僕の言葉に、ゼルドさんは首筋に唇を押し当てることで応えた。回されていた腕が一旦離れ、肩から二の腕、肘を伝い、手首から指の先までゆっくり撫でていく。優しい手付きの裏に隠しきれない衝動を感じ、僕は小さく身震いをした。

「こちらを向いて」

 両肩を掴まれ、身体の向きを変えられた。うつむく僕の顎をゼルドさんの指先が捉え、そっと持ち上げる。言葉を発する間もなく唇が重ねられ、すぐに舌が挿入された。分厚くて熱い舌が僕の口内を味わうようにゆっくりと舐め上げてゆく。
 深い口付けは何度かしたけれど全然慣れなくて、毎回呼吸が苦しくなる。今回も息つぎのタイミングが分からず戸惑うばかり。僅かな隙間ができた時を狙って息を吸おうとしても、呼気ごとゼルドさんに奪われてしまう。

「……っ、はぁ、はぁ」

 酸欠状態で耐えているうちにようやく唇が離されて安堵したのも束の間、今度は服の上から腹部に触れられた。大きな手のひらがおなかから脇腹にかけてゆっくりと動き、そのまま後ろに回されて背筋に沿って撫で上げていく。

「うぅ……く、くすぐったい、です」

 変な声が出そうになるのを必死に堪え、誤魔化すように話しかけると、再び唇が塞がれた。執拗に口内を嬲られ、足腰から徐々に力が抜けていく。

「っ、あ」

 身体をゼルドさんに預けるようにもたれさせた時、何か硬いものがおなかに当たった。ギョッとして腕をつっぱねようとしたけれど離してもらえなかった。息継ぎの隙をついて顔を横に向ける。

「あ、あの……」
「うん?」

 視線を下に向け、おなかに当たるそれを指すと、ゼルドさんは目を細めて素知らぬふりを決め込んだ。勃ち上がったそれをわざと僕に押しつけ、反応を窺っているようだった。
 身を捩るほどに先端が腹部を抉る。今までは勃起しても僕に悟られないようにしていたのに、もう隠す気はないらしい。

「君も反応している」
「だって、ゼルドさんが触るから」

 首の後ろから背骨を伝うように下に降りた手が僕の下腹部に触れた。ズボンの布越しに僅かに膨らんだ部分を撫でられ、びくりと肩が揺れた。

 そんなところを誰かに触られた経験なんてない。ズボンの上から形をなぞるようにゼルドさんが指先を動かすたび、僕のものが硬くなっていく。羞恥で逃げ出したくなる気持ちを抑え、ゼルドさんの身体にしがみつく。

「んんっ……」

 今の状況に興奮しているのは僕だけではない。先ほどからゼルドさんも熱い吐息を漏らしている。変な声が出ないように手のひらで口元を覆い隠そうとしたら、すぐに空いているほうの手で手首を掴まれ、阻まれてしまった。

「声を我慢しないでくれ」
「でも、隣に聞こえちゃう」

 ここは二階の突き当たりにある角部屋で、隣の部屋には別の客が泊まっている。まだ寝静まる時間帯でもないし、大きな声や音を出せば当然聞こえてしまう。

「隣は今夜は留守だそうだ」
「え、なんで知って……」
「宿に戻った時に女将から聞いた」

 タバクさんがいるかどうか確認した際、ついでに隣の部屋のことも聞いておいたらしい。宿泊客のほとんどは冒険者だ。ダンジョンに探索に出ていれば数日不在になることも珍しくはない。

 今日は何故か積極的だと思ったらそういうことだったのか。分かった上で僕に触れてもいいかと訊ねていたのだ。

「あ、やぁ」

 安堵した隙に股間に触れていた手が再び動き始めた。身体から余計な力が抜けたせいか、より感覚を拾いやすくなっている。

 思わず漏れた情けない声に、ゼルドさんは満足そうに目を細めた。
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