52 / 118
52話・捨てられた剣
しおりを挟む第四階層を真っ二つに分断する大穴に降り、底で再び休憩をとる。
穴の底にはモンスターはおらず比較的安心して過ごせるので、ゼルドさんに仮眠してもらうことにした。完全には油断できないので僕は眠らず見張りをする。
「君も少し寝たほうがいい」
「大丈夫です」
「宿でも眠れていなかっただろう」
「いえ、本当に平気ですから」
僕の言葉に、ゼルドさんは眉間にシワを寄せた。あんまり納得してなさそう。
確かに、発見した遺体をギルドまで運んだ日の夜はなかなか寝付けなかった。ゼルドさんに添い寝してもらったから怖くはなかったけど、考え事をしていたら目が冴えてしまったのだ。結局眠れたのは横になってしばらく経ってからだった。
「私のそばから離れないように」
「分かってます」
ゼルドさんは壁に背を預けて目を閉じ、しばらくして小さな寝息を立て始めた。
ダンジョン内では休める時に休むのが鉄則だ。疲労で体の動きが悪くならないよう適度に休息をする。眠れなくても、じっとしているだけで多少は体力が回復する。
また院長先生からの手紙を読み返そうかと隣に置いたリュックに手を伸ばした時、視界の端に何かが光った。
目をこらして見てみれば、少し離れた場所に何かが落ちている。そばから離れないようにと言われているけれど、見える範囲だから問題ないだろう。ゼルドさんを起こさないよう立ち上がり、忍び足でそちらに向かう。
落ちていたのは一振りの剣だった。
ダンジョンの宝箱から出てくるものとは明らかに意匠が違う、ごく普通の長剣が打ち捨てられていた。前回大穴越えをした時には無かったものだ。
「誰かが落としちゃったのかな」
と言っても、現在第四階層に到達している冒険者パーティーは僕たちとタバクさんたちくらいだろうか。知らないだけで、他にも何組かいるかもしれない。
しかし、先ほど会った際、彼らは全員武器を所持していた。
じゃあ、これは一体誰の剣だろう。
剣の柄を掴んで持ち上げる。しゃら、と剣身が岩に擦れて音を立てた。鞘はない。使い込まれたからか、それとも大穴に落ちた時に欠けたのか、僅かに刃こぼれしていた。拵えも悪くないし研ぎ直せば十分使えそう。捨てていくには勿体ないように思えた。
「うーん、どこかで見たような……」
オクトの武器屋に並べてあった品と同じ型だろうか。ゼルドさんの大剣の研ぎ直しに同行した際に見かけて記憶に残っていたのかもしれない。際立った特徴のないその剣がなぜか気になった。
「ま、いっか」
考えても仕方がない。
鞘のない抜き身の剣は持ち歩きに向かない。元あった場所に剣を置き、ゼルドさんの傍らに戻った。
「……ライルくん?」
「まだ寝ててください」
「では、君もこちらへ」
眠そうな目をわずかに開け、ゼルドさんが僕の姿を確認してから手招きしている。隣に腰を下ろし、毛布の中に潜り込む。そのまま肩を抱かれて身動き取れないようにされてしまった。
次にゼルドさんが目を覚ます頃には、僕はすっかり剣のことを忘れていた。
大穴を乗り越えて対岸に渡り、モンスターを倒しつつ『対となる剣』を探す。
発見した宝箱からは連続して小瓶が出てきた。美しい装飾が施されたガラス瓶の中にとろりとした桃色の液体が入っている。
「また媚薬!」
「この辺りは媚薬だらけだな」
以前アルマさんに鑑定してもらったものと同じ装飾の小さな瓶だ。鑑定結果は昔の媚薬。意外と高値で買い取ってもらえるから捨て置くわけにもいかない。
そんなものばかりを引き当ててしまい、深い溜め息をつく。
「……早く見つけたいのに」
割れないように手拭いで包んだ媚薬の瓶をリュックに詰めながら、小声でボヤく。
ゼルドさんの鎧が脱げなくなって、どれくらいの日々が過ぎただろうか。こんなに探しているのに見つけられないなんて思わなかった。
『対となる剣』は本当にあるのか。
このまま見つからなかったらどうしよう。
ゼルドさんは僕を責めることなく宥めてくれる。僕に気を遣ってくれる。彼の優しさに甘えてばかりの自分に嫌気がさす。
「ライルくん、そろそろ帰ろう」
「……、……はい」
何の成果も得られぬままタイムリミットがやってくる。この瞬間は何度経験しても慣れない。
後ろ髪を引かれながら第四階層を後にして、真っ直ぐ出口に向かう。誰かが代わりに見つけてくれますようにと願いながら、僕たちはオクトに帰還した。
23
お気に入りに追加
1,030
あなたにおすすめの小説
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい
夜乃すてら
BL
一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。
しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。
病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。
二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?
※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。
※主人公が受けです。
元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。
※猫獣人がひどい目にもあいません。
(※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)
※試し置きなので、急に消したらすみません。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる