【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
50 / 118

50話・重い話

しおりを挟む


 翌日、仕切り直して探索に出ることにした。
 朝イチで携帯食の不足分を買い足し、ギルドに向かう。少し出遅れたからか、受付カウンターに並んでいる冒険者はいなかった。

「ふたりとも、ちょっといい?」
「?はい」

 マージさんに奥の部屋へと通される。室内には難しい顔をしたメーゲンさんとアルマさんがいた。テーブルを囲むソファーの一つに座るよう促され、ゼルドさんと並んで腰掛ける。

「悪いな、出発前に時間もらっちまって」
「構わない。昨日の件だろうか」
「ああ、一応おまえたちも当事者だ。報告だけはしておこうと思ってな」

 向かいに座るメーゲンさんは疲れた顔をしていた。
 昨日ダンジョン内で発見した遺体をギルドに送り届けた後すぐ辞したため、僕たちはまだ何も知らない。気にはなっていたので、教えてもらえるなら聞いておきたい。

「まず、今回死んだ奴は探索計画書を提出していなかった」

 メーゲンさんは眉間に刻まれた深いシワを伸ばすように指で揉みながら事情を話し始めた。

「ここ半月どこのパーティーにも加わっていない。多分、その頃から一人でこっそりダンジョンに潜ってたんだろうな」
「彼が泊まっていた宿屋にも確認したんだけど、時々二、三日留守にしていたらしいのよね」

 補足するようにマージさんが情報を付け足す。ギルドの受付嬢として、今回の無許可での単独ソロ探索は許容できなかったのだろう。丸眼鏡の奥の瞳に、事件を未然に防げなかったことへの後悔をにじませている。

「そんで、これを見てくれ~」

 重苦しい表情のメーゲンさんとマージさんに代わり、アルマさんがいつもと変わらぬ調子で口を開いた。
 彼女がテーブルに置いたのは一振りの長剣。これは昨日現場から回収したものだ。

「検死の結果、遺体の足の甲に剣による刺し傷があったんだ~。当初はモンスターと戦ってるうちに誤って自分で刺しちまったのかと思ってたんだけどな~」

 長剣を手に取り、僕たちによく見えるように掲げるアルマさん。口調は普段通りだけど、眼帯に覆われていないほうの眼は笑っていない。彼女の指先が剣身を這い、剣先でぴたりと止まる。

「ところが、この剣で刺しても遺体にあるような傷痕にはならない。この剣以外……つまり、他の誰かがやった可能性が高いんだ~」

 僕とゼルドさんが同時に「えっ」と声を上げると、アルマさんはニヤリと笑って更に説明を続けた。

「念のため第一発見者のパーティー四人の武器も調べてみたが、全然合わなかったんよな~」

 昨日の四人がやったわけではないと知り、ホッと安堵の息がもれる。彼らはわざわざ探索を切り上げて遺体を運んでくれたのだ。僕を気遣ってくれたし、悪い人たちじゃない。

「じゃあ、傷は一体誰が?」

 僕が問うと、今度はメーゲンさんが口を開いた。

「誰かは知らねえが、わざと奴の足を刺して逃げられないようにしたんだろう。そこをモンスターに襲わせた。昨日の四人とおまえらはその後現場に駆けつけた、というワケだ」
「えぇ……なんでそんな酷いことを」
「冒険者の間では『ハイエナ』は忌み嫌われてる存在だから、彼を懲らしめるためにやったんじゃないかしら」

 マージさんの言葉に血の気が引いた。
 確かに、昨日の四人も遺体の男が『ハイエナ』ではないかと思い至った瞬間、心底軽蔑したような眼差しを向けていた。真っ当に冒険者活動をしている者が、こっそり後をつけて宝箱をかすめ取ろうとする輩を良く思うはずがない。

「ま、憶測に過ぎん話だ。犯人探しをしても仕方がねえ。現行犯か自白でもなきゃ捕まえられねえしな。そもそも死んだ奴はギルド規定を破ってダンジョンに潜ったんだ。言い方はキツいが自業自得だ」

 探索計画書を提出せずダンジョンに潜れば全て自己責任。そう理解をした上で、うまく立ち回れば儲かると踏んで実行したのだ。同情の余地はない。
 でも、やっぱり気の毒に思えてしまう。

「他の地域のダンジョンでも冒険者の不審死が起きてたらしい。それも、一箇所じゃなく転々とな。偶然なのかどうかは知らねえが」

 何それ怖い。

「死んだ男は最初から一人で活動していたわけではないだろう。仲間はどうした」

 これまで黙って話を聞いていたゼルドさんがマージさんに尋ねた。

「もともとはパーティーを組んでたんだけど、一ヶ月くらい前に外されちゃったみたい。その後は他のパーティーを転々としていたんだけど……」
「報酬の分配で毎回揉めてたからな~。あの様子じゃ長続きしないだろ~」
「あんまり役に立ってないのに頭割り以上の取り分を要求してたみたいなのよね」

 仲間は彼を外した後、他に拠点を移したらしい。
 実際揉めている現場を目撃したことがあるのだろうか。アルマさんがあきれたように肩をすくめた。

「そんな人いるんですね」

 何の気なしに呟くと、メーゲンさんが驚いたように顔を上げた。

「なんだライル、死んだ奴の顔見てないのか」
「え?見てないですけど」

 怖かったので、極力遺体を視界に入れないようにしていた。検死の前に防水シートをめくった時にチラッと見えたくらい。すぐに宿屋に帰ったから、しっかりとは見なかったけど。

 そういえば、昨日は動揺していてそれどころじゃなかったけど、どこかで見た覚えがあるような。

「おまえ前に絡まれてただろ。アイツだよ」
「えっ!?」

 メーゲンさんに言われ、初めて気が付いた。

 遺体の男は以前パン屋で絡んできた冒険者だ。
 ゼルドさんと組みたいから自分を後釜に据えろ、と身勝手な要求をしてきた。パン屋の奥さんがメーゲンさんを呼んでくれたおかげで助かったのだ。

「キツく言い聞かせたつもりだったがなぁ……」

 丸腰の支援役サポーターに対して剣を抜いたため、彼はメーゲンさんに性根を叩き直されたはずだった。でも、人間は簡単には変わらない。結局、自分を律することもせずにラクなほうへと流れ、最悪の結果となった。

 僕がパーティー入りを断ったせいだろうか。
 ちょっと責任を感じてしまう。







 話を終え、ダンジョンへと向かう。
 出がけに聞くには重い話だった。こんなに陰鬱な気持ちでダンジョンに潜ることになるとは。隣を歩くゼルドさんも、ギルドを出てからずっと無言だ。ざくざくと土を踏む音と木々の騒めきだけが聞こえる。

 もうすぐダンジョンに着くといった辺りでゼルドさんが立ち止まり、僕のほうに向き直った。

「さっきの話だが」

 表情が険しい。ギルドで聞いた話について考え込んでいたのだろう。僕も同じだ。

「思っていたより大事になりそうですね。単なる無許可探索の事故じゃないかも、だなんて」
「そのことではない。君のことだ」
「ふぇっ!?」

 何故、と疑問に思う間もなくゼルドさんが僕の身体を力強く抱きしめた。太い腕と金属鎧に挟まれてちょっと苦しい。

「絡まれたのは私と組んでからの話だろう。何故すぐに言わなかった」
「えっ」
「先ほど聞くまで知りもしなかった。私ではなくギルド長に助けを求めたのか?……私はそんなに頼りないか」

 そうだ、絡まれた件は内緒にしていたんだった。要らぬ心配をかけたくなかっただけなのに、結局こうして知られてしまった。

「ち、違うんです。確かに絡まれましたけど、パン屋の奥さんがメーゲンさんを呼んできてくれて、特に何事もなく済んだので」
「私はその件について何も聞いていない」
「だ、だって」

 終わったことだ。わざわざ話す必要はないと考えていた。でも、僕の判断はゼルドさんはお気に召さなかったらしい。明らかに不機嫌になっている。

「やはり君をひとりにしてはおけない」
「ゼルドさんたら、心配し過ぎですよ」

 この日以降、ゼルドさんの過保護っぷりが更に酷くなったのは言うまでもない。

しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...