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16話・絶対の信頼
しおりを挟む探索はあまり捗らなかった。
宝箱の数が少な過ぎるのだ。第三階層までと違って内部の構造がかなり人工的になっているからか、宝箱がありそうなポイント自体が少ない。たまに見つけても、価値があるかどうか分からないガラクタにしか見えないものばかり。アルマさんが高値で買い取ってくれるかもしれないので、一応ぜんぶ持ち帰る。
「ないですね」
「……ああ」
探しているのは高価なお宝ではない。
鎧を外すための鍵、『対となる剣』。
前回の探索中に脱げなくなって以降、ゼルドさんの上半身は鎧に包まれたままで、着替えやお風呂に支障が出ている。下に着る服を改造したり身体を拭いたりと、僕はできる限りゼルドさんが快適に過ごせるように手を尽くしている。
鎧が脱げなくなってから約一週間。
そろそろ何とかしなければ。
「あ、あった!宝箱」
天井付近にあるくぼみに気付き、壁をよじ登って確認したら宝箱を発見した。通路を歩いているだけでは見えない位置だ。いわゆる隠し宝箱。これは中身に期待が持てる。
「ライルくん、無理はするな」
「だっ大丈夫です!なんとか開けます」
下からゼルドさんが心配そうに見上げている。
ダンジョンの通路は天井が高い。床面から天辺まで、二階建ての建物くらいの高さがある。壁の僅かな凸凹に手やつま先を引っ掛けているが、体勢を維持するだけで精一杯で、くぼみの奥にある宝箱に手が届かない。
「もう少し……!」
限界まで手を伸ばすと、ようやく宝箱に指先が触れた。あとは留め具を外して蓋を開けるだけ。
グオオオオォン!!
突然背後から複数の獣の咆哮が響いた。
慌てて下を見ると、いつの間にか四体のモンスターがゼルドさんの周りを取り囲んでいた。
まずい、目先の宝箱に気を取られて周囲への警戒を怠ってしまった!
「ゼルドさんッ!」
「大丈夫だ。君はそのまま上に」
先手をモンスターに取られ、ゼルドさんは攻撃を躱しながら何とか背中の大剣を抜いた。利き足を軸にして剣を振り回し、一撃ずつ浴びせる。だが、この程度で第四階層のモンスターは倒せない。続けて斬りかかるが、四体はゼルドさんの攻撃を警戒して距離を取り、再び周りをぐるりと取り囲む。
俯瞰した場所から見るとよく分かる。
ゼルドさんはものすごく強いけど無敵じゃない。死角にいるモンスター相手にはどうしても反応が遅れてしまう。乱戦状態で外野から何か言っても対応は後手に回るだけ。戦いに関しては任せるしかない。
──ああ、僕が油断したせいだ!
ゼルドさんが脱げない鎧を装備したのは僕のせい。
あの時、もう油断はしないって誓ったのに。
ふと、一体のモンスターが後退した。逃げるのかと思いきや、低く身を屈めている。他の三体が気を引いている隙に背後から助走をつけて体当たりするつもりのようだ。ゼルドさんはまだ気付いていない。
考えるより先に身体が動いた。
手を離し、天井近くの高さの位置から地面に飛び降りる。身を屈めていたモンスターが驚いて顔を上げ、こちらを見た。
「ライルくん、何を……」
「ゼルドさんはそっちを先にお願いします」
「だが、」
四方を囲まれれば一方は必ず死角となる。
四体のうち一体を僕が引き付けておけば、三体だけならゼルドさんが何とかしてくれる。
僕は地面を蹴ってモンスターに駆け寄り、眼前で跳躍してその背中を飛び越えた。
「おまえの相手は僕だよ」
挑発されて怒ったか、モンスターは雄叫びをあげながら僕に向かって突進してきた。何度か同じように跳躍して突進を躱す。その間に、ゼルドさんが他の三体を片付けてくれた。
僕に気を取られた残りの一体は、背後からの斬撃に気付かず、まともに喰らって絶命した。
「何故あんな無茶な真似をした」
「僕、身軽さだけが売りなので。倒せないけど、モンスターの注意を引くのは得意なんですよ」
四体を倒し、大剣を背中の鞘に収めてから、ゼルドさんは苦々しい表情で口を開いた。上にいろと指示されたのに、言うことを聞かなかったから怒らせてしまったのかもしれない。
「一度に相手する数が減れば絶対何とかしてくれるって信じてましたから」
僕の言葉に、ゼルドさんは大きな溜め息をつき、眉を下げる。安堵と心配、そして呆れが混じったような複雑な顔をしていた。
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