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14話・お手伝いの申し出
しおりを挟むダンジョンの階層には明らかな違いがある。
入口から第二階層までは自然にできた洞窟にしか見えないけど、そこから先はだんだんと人工的な造りになっていくのだ。壁や床も、ゴツゴツした土や岩から規則正しく石を積み上げたものに変わっていく。
一番謎が多いのは宝箱の存在だ。
ダンジョンに入る度に置かれる位置と中身が変わる。誰かが何らかの意図で定期的に置きに来ているのだろうか、と勘繰ってしまう。これはダンジョンを管理しているギルド側もよく分かってないみたい。探索の度にアイテムが手に入るわけだから文句はないんだけど、不思議。
「そろそろ休憩しますか」
「ああ」
第三階層の終盤、あらかたモンスターを倒したあたりで休憩を提案すると、ゼルドさんはふうと小さく息をついて同意した。
ここまでモンスターとの戦闘は十回。
うち一回は他の冒険者が追われているところに遭遇し、ゼルドさんが代わりに撃退した。ほとんどの冒険者は第三階層の途中で探索に行き詰まって帰還していく。ダンジョンの奥に行くに従ってモンスターが強くなっているからだ。
ゼルドさんは第三階層の終盤までは全く苦戦しない。でも、第四階層のモンスター相手だと倒すのにやや時間が掛かる。本来の彼なら楽勝だろうけど、左耳が聞こえづらいせいで視覚に頼るしかなく、どうしても後手に回ってしまう。モンスターの動きが速くて僕のサポートが追いつかないのも理由のひとつだ。
「うしろ、失礼しますね」
「頼む」
床に座るゼルドさんの後ろに膝をつき、背中に手を伸ばす。鎧の下の服と肌の間にもう一枚差し込んである布を外すためだ。鎧の首元から出ている布の端を掴んでゆっくり引き抜く。前側に差し込んだ布はゼルドさんが自分で取っている。
「どうです、サッパリしました?」
「ああ、まるで着替えたようだ」
汗で湿った布を取り払うだけの手軽さで着替えと同じくらいの効果がある。前回、無理やり鎧の隙間に手を入れて身体を拭くしかできなかったことを考えるとかなりの進歩だ。
「それと、ライルくんが縫ってくれた服が良い。今までより隙間があるから涼しい」
「わあ、良かった!」
鎧の下に着る厚手のキルト生地製の長袖は熱がこもりやすい。脱ぎやすいようにパーツごとに切り分け、新たに留め具をつけた状態にしたので隙間ができて通気性が良くなった。従来よりは汗で蒸れずに済む。
「軽く食べたら先に進みますか」
「そうしよう」
リュックの中から携帯食を取り出し、ゼルドさんに手渡す。
木の実がたくさん混ぜ込まれたパンは大きさの割に食べ応えがある。堅めに平たく焼いてあるから、かさばらないし日持ちもする。ダンジョン探索には欠かせない食糧だ。パン屋のおばさんに頼んで木の実を多めに入れてもらったから食べごたえがあり、腹持ちが良い。
食事をしながら耳を澄ませ、周囲の気配を探る。とりあえず感知できる範囲にモンスターはいない。
「第四階層に入ったら着替えなんてできないですよね。また汗取り用の布を挟んでおきますか」
「ああ、済まないが頼む」
こんな時のために何枚も作っておいた。
しかし、この布を肌とキルト生地の服との間に突っ込まねばならない。鎧の隙間に手を突っ込み、ぐいぐいと布を奥へと押し込むのがなかなか大変な作業なのだ。
「ん~、もうちょっとなんだけど……」
「……ッ」
鎧の首元からは手首までしか入らない。地面に座っているゼルドさんの足の間に潜り込み、下腹側から腕を入れていく。なんとか肘まで入り、後は上から布の端を引っ張り出すだけ。
腕を抜くために身体を捩らせると、ゼルドさんが気まずそうに顔をそらしていた。
「あ」
これはマズい。
僕のすぐ目の前に勃ってるゼルドさんのモノがある。今までは気付かないフリができたが、今回はアウトだ。
鎧の下に腕を突っ込む際、反対側の腕で体勢を支えていたんだけど、その手が完全に硬くなったソレに触れてしまっている。
「……ライルくん、退いてくれ」
「え、あ、はい」
どうしたものかと悩んでいたら、視線を外したままのゼルドさんが僕の肩を掴んで身体を離した。いつものように離れた場所へ行き、ひとりで何とかするつもりなのだろう。
第三階層はまだ良い。
モンスターはそこまで多くないし強くもないから、短時間なら離れていても危険はない。
でも、この先は?
第四階層以降のモンスターの数や強さは不明、どんな環境なのかまだ判明していない。そんな中で同じようなことがあったらどうしよう。僕は戦えないし、左耳が聞こえづらいゼルドさんも安全とは言えない。
ずっと不快を我慢してもらうしかないのか。
僕はゼルドさんの支援役なのに。
「あの、ここで済ませてください」
「えっ」
「なんならお手伝いしましょうか」
「は???」
ゼルドさんの目が点になった。
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