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13話・支援役が必要な理由
しおりを挟む「今回も準備ばっちりね!言うこと無しよ」
「ありがとうございます、マージさん」
ギルドの受付カウンターで荷物を広げて見せる。
持参する水や食糧の不足や野営道具に不備がないかの最終確認だ。一度ダンジョンに潜れば外に出るまで一切補給できないため、出発前のチェックは欠かせない。
何組かのパーティーがダメ出しを喰らい、涙目で追加の食糧などをリュックに詰め込んでいる。早朝のギルドのフロアは大体こんな感じだ。
後から来た僕たちのほうが先にマージさんの厳しいチェックに合格したものだから、周りから恨みがましい目で見られながら出発することになった。
ダンジョンはオクトの町のすぐそばの森の中にあり、徒歩十五分くらいで着く。
今まで何ヶ所か行ったことがあるけど、ダンジョンは全て人里からほど近い場所に出現している。探索に向かう立場としては行き来が楽で助かる。
「行きましょう!」
「ああ、今回も頼む」
地面に開いた大きな穴が入り口だ。
アリの巣のように無数の通路が大きな部屋のような空間を繋げている。至る所に生えた光る苔が内部をぼんやりと照らしてくれるので、松明やランプは必要ない。
ダンジョン内では、僕は必ずゼルドさんの右隣に付く。モンスターに遭遇して戦闘に入るまでは常にこの位置だ。横並びで周囲を警戒しながら進む。
「……ゼルドさん、足音が聞こえます。四つ足の中型モンスターが三、いえ四体」
「位置は?」
「たぶん、次の角を曲がってすぐ」
「分かった」
僕の言葉に頷き、ゼルドさんは背中に担いでいた大剣をすらりと抜いた。研ぎ直したばかりの幅広の刃が苔の光を反射して煌めく。歩みを止めて耳をすませると、獣の足音と息遣いが近付いてきた。
ここまで来れば、ゼルドさんにもモンスターの位置が分かる。
「ライルくん、下がって」
「はい」
ゼルドさんから離れ、一定の距離を取る。
モンスターが曲がり角から顔を覗かせ、こちらを視認する前にゼルドさんの大剣が風切り音を立てて振り下ろされた。吼える間もなく先頭のモンスターの首が落ち、身体がその場に崩れ落ちる。後続のモンスターが三体一斉に飛びかかってきたが、横薙ぎに一閃して倒し、戦闘を終えた。
たった二回剣を振るっただけで四体の狼型モンスターを倒してしまった。相変わらずゼルドさんの戦闘力は桁外れだ。今まで彼がモンスター相手に手こずっているところは見たことがない。
「この先しばらくモンスターはいません」
「分かった、ありがとう」
再び定位置へと戻り、先へと進む。
何度かモンスターに遭遇したけど、会敵する前に僕がおおよその位置を伝え、それを元にゼルドさんが全て倒した。
僕が気配を察知し、ゼルドさんが倒す。
別に僕の耳が特別良いというわけではない。
ゼルドさんの左耳が聞こえづらいだけ。
──これが『ゼルドさんが単独で探索ができない』最大の理由。
聴力は相手との間合いを測るために必要不可欠な感覚。いくら強くても、モンスターの気配を察知できなければダンジョン内では命取りとなる。だから、マージさんは僕をゼルドさんの支援役にと勧めた。足りない聴力を補うためだ。
本人にはとても聞けないけど、恐らく顔の左側にある大きな傷を負った際に耳も損傷したのだろう。
ゼルドさんと組んで一ヶ月と少し経つ。
ダンジョン内でも町中でも、他人の目がない宿屋の部屋の中でもゼルドさんの態度は変わらない。手助けする度に感謝を伝えてくれる。僕が失敗しても怒らないし、八つ当たりもしてこない。それどころか、当たり前のように報酬を半々にしようとする。
正直なところ、冒険者と組むのは嫌だった。最初は良くても、うまくいかない日が続いたり余裕がなくなれば戦力外の僕は真っ先に切り捨てられる。憂さ晴らしに八つ当たりされたことなんて珍しくもなかった。
でも、『本当に支援を必要としている人』なら酷い扱いをしないんじゃないか。人として、仲間として扱ってくれるんじゃないかと期待した。
「ライルくん、次の階層だ」
「今回も順調ですね」
「君が助けてくれるおかげだよ」
「いや、ははは……」
それを差し引いても優しすぎてちょっと怖い。
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