【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
13 / 118

13話・支援役が必要な理由

しおりを挟む



「今回も準備ばっちりね!言うこと無しよ」
「ありがとうございます、マージさん」

 ギルドの受付カウンターで荷物を広げて見せる。
 持参する水や食糧の不足や野営道具に不備がないかの最終確認だ。一度ダンジョンに潜れば外に出るまで一切補給できないため、出発前のチェックは欠かせない。

 何組かのパーティーがダメ出しを喰らい、涙目で追加の食糧などをリュックに詰め込んでいる。早朝のギルドのフロアは大体こんな感じだ。
 後から来た僕たちのほうが先にマージさんの厳しいチェックに合格したものだから、周りから恨みがましい目で見られながら出発することになった。

 ダンジョンはオクトの町のすぐそばの森の中にあり、徒歩十五分くらいで着く。
 今まで何ヶ所か行ったことがあるけど、ダンジョンは全て人里からほど近い場所に出現している。探索に向かう立場としては行き来が楽で助かる。

「行きましょう!」
「ああ、今回も頼む」

 地面に開いた大きな穴が入り口だ。
 アリの巣のように無数の通路が大きな部屋のような空間を繋げている。至る所に生えた光る苔が内部をぼんやりと照らしてくれるので、松明たいまつやランプは必要ない。

 ダンジョン内では、僕は必ずゼルドさんの右隣に付く。モンスターに遭遇して戦闘に入るまでは常にこの位置だ。横並びで周囲を警戒しながら進む。

「……ゼルドさん、足音が聞こえます。四つ足の中型モンスターが三、いえ四体」
「位置は?」
「たぶん、次の角を曲がってすぐ」
「分かった」

 僕の言葉に頷き、ゼルドさんは背中に担いでいた大剣をすらりと抜いた。研ぎ直したばかりの幅広の刃が苔の光を反射して煌めく。歩みを止めて耳をすませると、獣の足音と息遣いが近付いてきた。

 ここまで来れば、ゼルドさんにもモンスターの位置が分かる。

「ライルくん、下がって」
「はい」

 ゼルドさんから離れ、一定の距離を取る。
 モンスターが曲がり角から顔を覗かせ、こちらを視認する前にゼルドさんの大剣が風切り音を立てて振り下ろされた。吼える間もなく先頭のモンスターの首が落ち、身体がその場に崩れ落ちる。後続のモンスターが三体一斉に飛びかかってきたが、横薙ぎに一閃して倒し、戦闘を終えた。

 たった二回剣を振るっただけで四体の狼型モンスターを倒してしまった。相変わらずゼルドさんの戦闘力は桁外れだ。今まで彼がモンスター相手に手こずっているところは見たことがない。

「この先しばらくモンスターはいません」
「分かった、ありがとう」

 再び定位置へと戻り、先へと進む。
 何度かモンスターに遭遇したけど、会敵する前に僕がおおよその位置を伝え、それを元にゼルドさんが全て倒した。

 僕が気配を察知し、ゼルドさんが倒す。
 別に僕の耳が特別良いというわけではない。
 だけ。


──これが『ゼルドさんが単独ソロで探索ができない』最大の理由。


 聴力は相手との間合いを測るために必要不可欠な感覚。いくら強くても、モンスターの気配を察知できなければダンジョン内では命取りとなる。だから、マージさんは僕をゼルドさんの支援役サポーターにと勧めた。足りない聴力を補うためだ。
 本人にはとても聞けないけど、恐らく顔の左側にある大きな傷を負った際に耳も損傷したのだろう。

 ゼルドさんと組んで一ヶ月と少し経つ。

 ダンジョン内でも町中でも、他人の目がない宿屋の部屋の中でもゼルドさんの態度は変わらない。手助けする度に感謝を伝えてくれる。僕が失敗しても怒らないし、八つ当たりもしてこない。それどころか、当たり前のように報酬を半々にしようとする。

 正直なところ、冒険者と組むのは嫌だった。最初は良くても、うまくいかない日が続いたり余裕がなくなれば戦力外の僕は真っ先に切り捨てられる。憂さ晴らしに八つ当たりされたことなんて珍しくもなかった。

 でも、『本当に支援を必要としている人』なら酷い扱いをしないんじゃないか。人として、仲間として扱ってくれるんじゃないかと期待した。

「ライルくん、次の階層だ」
「今回も順調ですね」
「君が助けてくれるおかげだよ」
「いや、ははは……」

 それを差し引いても優しすぎてちょっと怖い。


 
しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

ラストダンスは僕と

中屋沙鳥
BL
ブランシャール公爵令息エティエンヌは三男坊の気楽さから、領地で植物の品種改良をして生きるつもりだった。しかし、第二王子パトリックに気に入られて婚約者候補になってしまう。側近候補と一緒にそれなりに仲良く学院に通っていたが、ある日聖女候補の男爵令嬢アンヌが転入してきて……/王子×公爵令息/異世界転生を匂わせていますが、作品中では明らかになりません。完結しました。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

処理中です...