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10話・ギルド長の憂鬱

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 マージさんのいるカウンターを後にして、ゼルドさんと共に奥の部屋へと向かう。

 室内は薄暗く、相変わらず物であふれていた。
 珍しくアルマさんは起きていて、その向かいのソファー……僕たちに背を向ける位置に大柄な男の人が座っている。男の人は顔だけこちらに向け、にやりと口の端を上げた。

「よぉ、おふたりさん」
「らっしゃ~い」
「こんにちは、メーゲンさん、アルマさん」

 男の人の名はメーゲンさん。
 褐色の肌と後ろに撫で付けた短い髪、無精髭がトレードマークの、この町オクトのギルド長。ゼルドさんと同じくらい背が高くて強そうな人だ。

「はあ、やっと静かになったな~。表がうるさくて寝られなかった~」
「起きてたのはうるさかったからですか」
「メーゲンと話をしていたからでもあるんだけどな~」

 アルマさんはチョイチョイと空いてるソファーを指で示し、僕たちに座るよう促した。テーブルを囲むように置かれた三つのソファーが埋まる。

「ダンジョンが踏破されたそうですね」
「ああ。今朝知らせが来たとこだ」

 メーゲンさんは憂鬱そうに頭を掻いている。

「ダンジョンが踏破されれば役目を終えたギルドは撤退、冒険者たちも潜る先がなくなるわけだから他に拠点を移す。これからスルトは寂れるだろうな」
「でもさ~、ダンジョン自体は残るんだから、観光とかで何とかなるんじゃないか~?」
「辺境だぞ?多少は観光客も来るかもしれんが、まあ微々たるもんだろ」

 複雑な気持ちでメーゲンさんの言葉に頷く。

 近隣にダンジョンがある村や町は探索にくる冒険者たちで賑わい、関連の店が増える。いわゆるダンジョン景気、ダンジョン特需と呼ばれるものだ。
 しかし、肝心のダンジョンが踏破されてしまえば冒険者は別の場所に移り、商売が成り立たなくなる。あらゆる店が撤退して活気は失われる。スルトは交通の便が悪過ぎるから観光地には向かない。

「そのうちオクトここにも冒険者が流れ込んでくるぞ~。新しいアイテムが見つかる可能性が上がるなら大歓迎だ~」
「はぁ……今から気が重いぜ」

 ニヤニヤ笑うアルマさん。
 渋い顔のメーゲンさん。
 この件に対する二人の反応は真逆。

「真似して無茶をする冒険者が増えるんじゃないかって、マージさんが心配してました」
「増えるだろうな。もし単独ソロで踏破すりゃ戦利品は独り占めだ。仲間が多けりゃ成功率が上がる代わりに取り分が減るからな」
「でも、死んでしまったら意味ないですよね」
「ちまちま稼ぐのを嫌う連中は多いよ~。大半の冒険者はそうだよな~?メーゲン」
「認めたくはないが、その通りだ」

 アルマさんの言葉に、渋い顔で頷くメーゲンさん。

 僕も昨日常設依頼を受けていたことをバカにされたばかりだ。もちろん、そんな人ばかりじゃないけれど。

「俺も若い頃は冒険者だった。危険と隣り合わせの稼業だとよぉく知ってる。だからこそ、若いヤツらに生き急いでほしくねぇ」
「オマエは甘いな~。いいじゃないか、自分の命を担保にしたデッカい賭けだ。夢くらい見させてやればさぁ~」

 若手冒険者を心配するメーゲンさんとは違い、アルマさんはこの状況を楽しんでいるみたい。

「んで、おふたりさんは何しにきた?俺に会いに来てくれたのか?うん?」

 暗い雰囲気を自ら壊すように、メーゲンさんが話題を変えた。急に話の矛先を向けられ、僕は一瞬用件を忘れてしまった。

「えーと、えーと、あっそうだ!戦利品の買い取りの件で来たんです。査定終わりました?」
「終わってるよ~。短杖ロッドとコインと人形、あと金属片だったよな~」

 アルマさんがソファーからピョンと飛び降り、座面を外した。中は収納スペースになっていて、高価な品やお金などを隠しているのだ。そこから昨日預けた戦利品を取り出してテーブルに並べている。

「さっきメーゲンにも見せたんだがな~、この短杖は今は亡き文明の聖具らしいから買い取り価格を倍にしといたぞ~。あとはまあ相場通りだな~」

 言いながら、今度はお金が入った布袋の紐を解いて中身を取り出した。

「金貨十枚、おまけで大銀貨三枚でどうだ~?」
「うわお」

 予想外の高額!ゼルドさんの表情は変わりなく見えるが、前回の十倍近い買い取り金額に驚いている。
 ちなみに、一般の冒険者が町での買い物で使う硬貨はせいぜい銀貨まで。装備品を買う時に大銀貨を数枚使うかどうか。金貨は商売の取り引きで使われるくらいで、使う機会はほとんどない。

「遠慮せずに受け取れ」
「どうぞ、ゼルドさん」

 メーゲンさんに促され、隣に座るゼルドさんに受け取るよう勧める。すると、ゼルドさんは手を伸ばし、金貨五枚と大銀貨一枚を手に取った。

「残りはライルくんに」
「は???」

 何考えてるんだこの人。
 テーブルに残ってるほうが多いんですけど?

「ダメですゼルドさん、前回も言いましたよね?支援役サポーターは探索を補助するだけなんですから!山分けなんてとんでもない!」
「そうか。では……」

 僕の剣幕に押され、ゼルドさんは手にした金貨を一枚そっとテーブルの上に戻した。

「違う!逆!!」

 僕たちのやりとりを見て、メーゲンさんとアルマさんがおなかを抱えて笑い転げた。


 
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