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7話・徹夜の成果
しおりを挟む窓から差し込む太陽の眩しさで顔を上げる。
机に突っ伏して寝入ってしまったようで、身体のあちこちからギシギシと音がした。机の上には端切れと糸くずが散らかったまま。ランプは油が切れて消えている。
昨夜はゼルドさんが眠ってから、鎧の下に着るキルト生地の服を改造していたのだ。
手持ちの着替え用のものを用い、まず可能な限り縫い糸を外した。
前身頃、前立て、袖、後身頃、背面切替部分に分ける。そして、それぞれのパーツのふちを別の布で包んで補強し、いくつかの留め具を新たに取り付けた。
本来ならば袖を通して羽織り、前ボタンを閉めるだけで済むが、現在ゼルドさんは鎧が脱げないため普通に着られないし着替えもできない。
だから、服をパーツごとに分けた。それぞれを鎧の隙間から差し込み、内部でパーツ同士を留められるようにしたのだ。
ランプの油を消費してしまったが、着替えがないとゼルドさんが困る。これも必要経費と割り切った。
「一度ゼルドさんに着てもらって、問題なさそうなら何着か同じように改造しようかな」
ちらりと視線を横に向ければ、ベッドで眠るゼルドさんの姿が見えた。ダンジョン探索で疲れていたのだろう。昨夜は食事を終えて部屋に戻った途端、糸が切れたようにベッドに倒れ込んでいた。
同じ室内で、僕がランプの明かりを頼りに作業していても起きなかったほどだ。
「よく寝てるなあ」
ベッドのそばに膝をつき、仰向けの体勢で眠るゼルドさんの顔を覗き込む。いつもは背が高い彼を見上げるばかりで、見下ろすことなんてほとんどないから新鮮に思える。
「ふふっ、寝てる時も眉間にシワが寄ってる」
眉間に深く刻まれたシワに手を伸ばした瞬間、ガシッと手首を掴まれた。
「……そんなに見られたら穴があく」
僕の手首を掴んだ状態で、ゼルドさんが薄目を開けた。寝起きのかすれた声で抗議してくる。
「すみません、起こしちゃいました?」
「いや、もう起きるつもりだった」
ゼルドさんはのそりと上半身を起こした。
脱げない胴鎧と肌の間には古着が雑に詰め込まれている。何も着ずに横になると硬い金属部分が擦れて肌を痛めてしまうからだ。
少し間の抜けた姿が面白くて笑ったら、ゼルドさんからジト目で睨まれた。
「あ、そうそう。これ着てみてください」
「これは……」
改造した服を見せると、ゼルドさんは困惑した表情で聞き返してきた。パーツごとにバラバラになってるから、パッと見ただけでは何なのか分からないのだろう。
説明するより実際に着てもらったほうが早い。
鎧の間に突っ込まれていた古着を引き抜き、代わりにキルト生地のパーツを差し込む。前身頃を入れ、次に後見頃を入れる。次に鎧の隙間から手を突っ込み、内部で留め具をはめていく。
金属や木製のボタンは鎧の下に着る服には向かない。組紐を丸く結んでボタン代わりにして、そこに輪っか状の紐を引っ掛けて留めるようにした。
しかし、これがなかなか難しい。
「ん~、これかな?」
まさに手探り状態なので、見えない留め具を探すところから始めなくてはならない。やっと指先で捉えても紐に通すまでが難しい。慣れれば早くできるようになると思うんだけど、初めてだから失敗続きだ。
「ベッドに乗りますね」
「ああ」
今までベッド脇に立って作業をしていたんだけど、角度的にやりづらい。ベッドに乗り、ゼルドさんに密着したほうがやりやすい。
「……ッ」
脇腹部分の留め具を探っているうちにゼルドさんの膝の上に乗ってしまい、思わず動きを止める。
「す、すみません。重いですよね」
「やりやすい体勢で構わない」
相変わらず寛容だ。
お言葉に甘え、膝の上にまたがるようにして座り、腕まわりの鎧の隙間から手を突っ込んで作業を続ける。時間はかかったけど、脇腹と肩、背中側も全て留め、最後に袖を取り付けた。
「どうでしょう。違和感ありませんか」
「すごいな。布切れを見た時は何なのか全く分からなかったが……」
ゼルドさんは感心したように自分の身体を見下ろし、腕を回したり腰を捻ったりして服の感触を確かめている。
「大丈夫だ、問題ない」
「これならダンジョンでも鎧の下の服を着替えることができますよ」
「それは助かる」
嬉しそうに口元をゆるめる顔を見て、頑張って良かったと心から思う。そして、役に立てたと安心した途端に気がゆるみ、ものすごい睡魔に襲われた。降りてくるまぶたを持ち上げることもできず、身体から力が抜けていく。
「ごめんなさい、すこし、寝ます……」
「ら、ライルくん?ここで寝るのか?」
「ぐう」
戸惑うゼルドさんの声を耳元で聴きながら、僕は意識を手放した。
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