上 下
7 / 118

7話・徹夜の成果

しおりを挟む



 窓から差し込む太陽の眩しさで顔を上げる。
 机に突っ伏して寝入ってしまったようで、身体のあちこちからギシギシと音がした。机の上には端切れと糸くずが散らかったまま。ランプは油が切れて消えている。

 昨夜はゼルドさんが眠ってから、鎧の下に着るキルト生地の服を改造していたのだ。

 手持ちの着替え用のものを用い、まず可能な限り縫い糸を外した。
 前身頃まえみごろ、前立て、袖、後身頃うしろみごろ背面切替ヨーク部分に分ける。そして、それぞれのパーツのふちを別の布で包んで補強し、いくつかの留め具を新たに取り付けた。

 本来ならば袖を通して羽織り、前ボタンを閉めるだけで済むが、現在ゼルドさんは鎧が脱げないため普通に着られないし着替えもできない。
 だから、服をパーツごとに分けた。それぞれを鎧の隙間から差し込み、内部でパーツ同士を留められるようにしたのだ。

 ランプの油を消費してしまったが、着替えがないとゼルドさんが困る。これも必要経費と割り切った。

「一度ゼルドさんに着てもらって、問題なさそうなら何着か同じように改造しようかな」

 ちらりと視線を横に向ければ、ベッドで眠るゼルドさんの姿が見えた。ダンジョン探索で疲れていたのだろう。昨夜は食事を終えて部屋に戻った途端、糸が切れたようにベッドに倒れ込んでいた。
 同じ室内で、僕がランプの明かりを頼りに作業していても起きなかったほどだ。

「よく寝てるなあ」

 ベッドのそばに膝をつき、仰向けの体勢で眠るゼルドさんの顔を覗き込む。いつもは背が高い彼を見上げるばかりで、見下ろすことなんてほとんどないから新鮮に思える。

「ふふっ、寝てる時も眉間にシワが寄ってる」

 眉間に深く刻まれたシワに手を伸ばした瞬間、ガシッと手首を掴まれた。

「……そんなに見られたら穴があく」

 僕の手首を掴んだ状態で、ゼルドさんが薄目を開けた。寝起きのかすれた声で抗議してくる。

「すみません、起こしちゃいました?」
「いや、もう起きるつもりだった」

 ゼルドさんはのそりと上半身を起こした。
 脱げない胴鎧と肌の間には古着が雑に詰め込まれている。何も着ずに横になると硬い金属部分が擦れて肌を痛めてしまうからだ。
 少し間の抜けた姿が面白くて笑ったら、ゼルドさんからジト目で睨まれた。

「あ、そうそう。これ着てみてください」
「これは……」

 改造した服を見せると、ゼルドさんは困惑した表情で聞き返してきた。パーツごとにバラバラになってるから、パッと見ただけでは何なのか分からないのだろう。
 説明するより実際に着てもらったほうが早い。

 鎧の間に突っ込まれていた古着を引き抜き、代わりにキルト生地のパーツを差し込む。前身頃を入れ、次に後見頃を入れる。次に鎧の隙間から手を突っ込み、内部で留め具をはめていく。

 金属や木製のボタンは鎧の下に着る服には向かない。組紐くみひもを丸く結んでボタン代わりにして、そこに輪っか状の紐を引っ掛けて留めるようにした。

 しかし、これがなかなか難しい。

「ん~、これかな?」

 まさに手探り状態なので、見えない留め具を探すところから始めなくてはならない。やっと指先で捉えても紐に通すまでが難しい。慣れれば早くできるようになると思うんだけど、初めてだから失敗続きだ。

「ベッドに乗りますね」
「ああ」

 今までベッド脇に立って作業をしていたんだけど、角度的にやりづらい。ベッドに乗り、ゼルドさんに密着したほうがやりやすい。

「……ッ」

 脇腹部分の留め具を探っているうちにゼルドさんの膝の上に乗ってしまい、思わず動きを止める。

「す、すみません。重いですよね」
「やりやすい体勢で構わない」

 相変わらず寛容だ。
 お言葉に甘え、膝の上にまたがるようにして座り、腕まわりの鎧の隙間から手を突っ込んで作業を続ける。時間はかかったけど、脇腹と肩、背中側も全て留め、最後に袖を取り付けた。

「どうでしょう。違和感ありませんか」
「すごいな。布切れを見た時は何なのか全く分からなかったが……」

 ゼルドさんは感心したように自分の身体を見下ろし、腕を回したり腰を捻ったりして服の感触を確かめている。

「大丈夫だ、問題ない」
「これならダンジョンでも鎧の下の服を着替えることができますよ」
「それは助かる」

 嬉しそうに口元をゆるめる顔を見て、頑張って良かったと心から思う。そして、役に立てたと安心した途端に気がゆるみ、ものすごい睡魔に襲われた。降りてくるまぶたを持ち上げることもできず、身体から力が抜けていく。

「ごめんなさい、すこし、寝ます……」
「ら、ライルくん?ここで寝るのか?」
「ぐう」

 戸惑うゼルドさんの声を耳元で聴きながら、僕は意識を手放した。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい

夜乃すてら
BL
 一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。  しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。  病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。  二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?  ※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。  ※主人公が受けです。   元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。  ※猫獣人がひどい目にもあいません。 (※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)  ※試し置きなので、急に消したらすみません。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

処理中です...