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6話・一緒にお風呂
しおりを挟む石造りの風呂には既に湯が張られていた。浴室内は白い湯気で満たされ、むわっとした蒸気に全身が包まれる。
ブーツを脱ぎ、ズボンを膝上まで捲り上げてから、僕は後ろに立つゼルドさんを振り返った。
「さ、脱いでください!」
「…………」
服を脱ぐように促すと、ゼルドさんは微妙な表情で黙り込んだ。あんなに身体を洗いたがっていたのに気乗りしないみたい。どうしたんだろう。
「あっ、僕が見てたらイヤですよね!じゃあ中庭に出るんで、服を脱いだらそこの窓枠にかけてください。あとで洗濯しますんで」
「すまない」
「いえ、湯に浸かったら呼んでください」
いくら男同士でも裸体を晒すのは抵抗があるのだろう。過去に僕が関わった冒険者の人たちはみな豪快で、恥じらいなど皆無だった。よく考えてみれば、そっちのほうが普通じゃないか。
特に、ゼルドさんは礼儀正しくてきっちりしている。見た目は怖いし腕っ節も強いけど、なんかこう庶民的ではないんだよね。
すぐに浴室から中庭へと出る。中庭に面した壁には木製のドアと小窓がついていて、汚れた衣服を外に出せるようになっている。中庭には井戸と物干し場があり、洗濯ができるのだ。
中庭で洗濯用の木桶に井戸水を溜めていると、小窓にゼルドさんのズボンや下履きが置かれた。
許可を得てから浴室に戻ると、ゼルドさんは石造りの浴槽の中に腰を下ろし、湯に浸かっていた。鎧は脱げないから下半身だけ裸。この姿を僕に見せたくなかったんだろう。一応腰には手拭いが巻かれ、湯の中の股間がみえないように配慮されている。
数日ぶりにあたたかい湯に浸かり、ゼルドさんの表情はゆるんでいる。深く息を吐き出し、リラックスしているようだ。
「背中から洗っていきますね」
「頼む」
まず袖まくりをしてから手拭いを小さくたたみ、手のひらに収まるように掴む。それを鎧の首元から背中に向けてズボッと突っ込み、垢をこすり落としていく。時折手拭いを別の桶ですすぐと、水はすぐ濁った。
「力加減どうですか」
「ちょうど良い」
「良かった」
背中側はすぐ終わった。
次は胸と腹部だ。
「正面失礼します」
「ああ」
向かいあって洗おうとしたが、手が届かない。
それもそうだ。ゼルドさんは浴槽の中でお尻を底につけ、足を折り曲げた状態で座っている。だから、背中側と違い、外から腕を伸ばしただけでは鎧の中まで洗えないのだ。
「じゃあ、後ろから洗いますね」
再び先ほどの位置に戻り、ゼルドさんの背中にぴったりおなかをくっつけた。肩越しに腕を伸ばし、首元の隙間から胸元へと手を差し込む。みぞおちの辺りまでならこのやり方で何とか洗える。
「ンッ」
不意に、ゼルドさんがくぐもった声を上げた。手拭いが胸の先を強くこすってしまったようだ。慌てて腕を引き抜こうとしたら余計に力が入ってしまい、更にビクッと身体が揺れた。
「ごめんなさい、痛かったですよね」
「大丈夫だ」
失敗しても怒らないんだよなあ、この人。
肩越しではお腹が洗えないので、膝立ちをしてこちらに向いてもらうことにした。僕も浴室の床に膝をついているので、こうするとちょうど目の前に洗う部分がくる。
今度はおへその下辺りから手を差し込んでいく。角度が悪いと腕に鎧のふちが当たって痛い。下側から覗き込むようにして洗っていくと、ゼルドさんの腹筋が小刻みに震えているのが分かった。くすぐったいのかもしれない。
下腹から腰骨、脇腹まで数回に分けて手拭いでこすり、最後にお湯を流しかけて汗と砂埃をすべて洗い流した。
「はい、お疲れ様でした。あとは鎧から出ている部分だけですね」
「ありがとう、あとは自分で洗う」
「じゃ、僕は中庭で洗濯してきますね」
そう言って立ち上がり、浴室から出ようとした僕の腕をゼルドさんが掴んだ。驚いて振り返ると、ゼルドさんと超至近距離で目があった。
「君はまだ湯に浸かってないだろう」
「え、だって、先に洗濯済ませたいし、僕は後で入らせてもらいますから」
「洗濯は宿の者に頼めばいい」
「でも、お金がもったいない……」
宿屋にはさまざまなサービスがあるが全て有料。湯沸かしも洗濯も無料ではない。今日はお湯を使ったし、少し節約しなければ。
しかし、僕の身体は宙を舞い、気付いたら湯船の中にいた。服を着たままの状態で、半裸のゼルドさんの脚の上に乗せられている。
「ちょっと、ゼルドさん!」
「その服も洗濯するのだから濡れても構わないだろう。湯が冷める前に君もあたたまるといい」
「~~っ!」
それからしばらく二人で湯に浸かり、交代で洗い場に出て身体を洗った。
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