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4話・やっぱり脱げない
しおりを挟む「ろ、失われた技術……?」
「そ。むかし似たヤツ見たことあるよ~」
アルマさんはギルドで鑑定士をやる前は経験豊富な冒険者だったらしく、その時に見たことがあるという。
はるか昔に高度な文明があり、その頃に発明された品が時折ダンジョン内から発掘される。モノによっては一生遊んで暮らせるほどの高値で売れるんだとか。ギルドに所属する冒険者が狙うのはそういうお宝だ。
「じゃ、じゃあ鎧の外しかたも分かります?」
「多分ね~」
僕の問いに答えながら、アルマさんはゼルドさんの周りをぐるぐる回り出した。左右に揺れる赤髪のポニーテールを見下ろしながら、ゼルドさんが困惑した様子で固まっている。いろんな角度から胴鎧を観察してから、アルマさんは左胸部分に刻まれた模様を人差し指でつついた。
「……コレだな。彫られた模様が見えるだろ~?」
「はい、確かに」
アルマさんが指差した位置には浅く彫られた十字の模様があった。ただの装飾だと思っていたんだけど。
「コレが仕掛け。ここに対となるアイテムを当てると仕掛けが解除、つまり鎧が脱げるようになるってワケ~」
要は鍵みたいなものかな?
「形からして剣だろうな~。この模様と同じ細工がされた剣を見つけることだ。宝箱ん中に入ってなかった~?」
「いえ、僕たちが見つけた時には鎧だけで」
ダンジョンの第四階層で発見した宝箱はまだ未開封の状態で、他のアイテムは何ひとつ入っていなかった。
「んじゃ他の宝箱かもな~」
「そ、そんな」
解除するためのアイテム……細工がされた剣を見つけるまで、ゼルドさんの鎧は脱げないってこと?
「あの、誰かが既に発見して鑑定頼んでたりしません?」
一縷の望みをかけて尋ねると、アルマさんは手のひらをパタパタさせて否定した。
「この町のダンジョンで第四階層に到達してんの、現時点でオマエらだけだぞ~。多分だけど、鎧を解除するための剣は第四階層より下にあるんじゃないか~?」
戦利品の買い取りは相場を確認してから後日改めて、ということになった。
ギルドの建物から出て近くの宿屋へと場所を移す。僕たちは二人部屋を長期契約で借りていて、女将さんに鍵をもらって二階へと上がる。四日ぶりに部屋に戻り、ドアを閉めてから、僕は勢いよくゼルドさんに頭を下げた。
「すみません!もう少し探索を続けていれば鎧を外すアイテムが見つかったかもしれないのに」
もともと六日間探索するはずだったが、僕が早く切り上げようと提案した。町に帰りさえすれば鎧が外せると信じていたからだ。
でも、その判断は間違っていた。
僕はまた迷惑をかけてしまった。
半泣き状態で叱責を待つが、ゼルドさんは怒るどころか頭を撫でてくれた。大きな手のひらをガシガシと動かすものだから、顔を上げる頃には僕の髪はぐちゃぐちゃになっていた。
「決定したのは私だ」
低くて穏やかな声には怒りや失望の感情は一切含まれていない。短い言葉の中に気遣いを感じて、僕は胸が苦しくなった。
「私の身体を拭くために、君は自分の飲み水を使っていただろう」
「……気付いてたんですか」
「ああ。どのみち探索は続けられなかった」
確かに、ゼルドさんの汗を拭くために布を水で湿らせ、終わった後で軽く濯いだりした。ダンジョン内には水場はほとんどないから、持参した僕の水筒の水を使った。
気を遣われたくなくて、バレないようにしていたんだけど、ゼルドさんにはお見通しだったみたい。
「でも、これからどうしましょう」
「そうだな……」
ゼルドさんは視線を下に向けた。鎧を外すための仕掛けである模様が彫られた部分を指でなぞる。
「とりあえず身体を洗いたい」
「四日間お風呂に入ってないですもんね」
しかし、ゼルドさんは鎧が脱げない。鎧に覆われていない部分……腕や下半身は洗えるけど、上半身はどうしたものか。
「……鎧自体は錆びないんですよね」
「そうなのか」
「さっきアルマさんが言ってましたよ」
アルマさんによれば、失われた技術で造られた武器や防具の耐久性は非常に高く、劣化はしないんだとか。だから大昔の代物なのに今でも普通に使えるのだ。
「じゃあ、鎧を着たままお風呂に入りますか」
「着たまま!?」
錆びる心配がないのなら着たまま身体を洗ってしまえばいい。僕の提案に、ゼルドさんはやや困惑したように顔を引きつらせた。
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