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2話・強面の凄腕冒険者
しおりを挟む四日間のダンジョン探索を終え、僕たちは拠点の町へと帰還した。
本来の予定より二日も帰還を早めたのは、脱げない鎧のせいでゼルドさんが辛そうだったからだ。こまめに身体を拭くようにはしてたけど、鎧の下に着ている服が着替えられないから不快な状態が続いている。
冒険者の中には十日以上着替えなくても平気な猛者もいるが、彼はそういうタイプじゃない。ヒゲはこまめに剃るし、ダンジョン内の軽食でもきちんと聖句を唱えてから口にする。たぶん育ちが良いんだと思う。
「僕は戦利品と依頼品をギルドに持っていきますから、ゼルドさんは防具屋さんで鎧を外してもらってきてください」
「わかった」
「終わったらギルドに来てくださいね~!」
そう言って、ギルドの建物の前で別れる。
オクトはごく普通の田舎町だった。
半年前に新たなダンジョンが発見され、冒険者ギルドの支部が建てられた頃から栄え始め、武器や防具の店、宿屋、飲食店など冒険者向きの店が少しずつ増えてきた。
僕もギルドができた頃にやってきたクチだ。
「ライルくん、おかえりなさい」
「ただいま帰りました、マージさん」
「あれ、予定より早くない?トラブル?」
「……色々あったんです……」
ギルド内に入ると、奥のカウンターにいた受付嬢のマージさんがニッコリ笑って話しかけてくれた。ゆるく編まれた長い金髪と丸メガネの綺麗な女性だ。
冒険者はダンジョン探索に出る前に『探索計画書』を提出する決まりがある。帰還予定日から数日過ぎても戻らない場合、ギルドは捜索隊を派遣する。その目安にするためだ。
無茶な計画を提出すると受付の段階でダメ出しを食らう。だから、みんな必死になって計画を練り、準備を整える。おかげでこの町のギルドに所属する冒険者の生還率はかなり高い。
「これ、今回の依頼品です」
背負っていた大きなリュックを床に下ろし、中から小瓶を取り出してカウンターに並べる。中身は薬草。種類ごとに小分けして密閉容器に詰めている。マージさんは種類と数を確認してから報酬の大銅貨と銅貨を数枚手渡してくれた。
「助かるわ。薬草採取引き受けてくれる人、あんまりいないのよね」
「探索のついでですから」
常設依頼は地味な上に報酬もごく僅かで、日々の生活費にやっと届くかどうか。僕はダンジョン内にしか生えない薬草を中心に採取しているから、これでも報酬は少し高いほうだ。
「ハハッ、見ろよ!薬草採って小遣い貰ってるヤツがいるぜ」
「ヒョロいガキにゃ丁度いい依頼だよなァ」
フロアを溜まり場にしていたガラの悪い冒険者の男たちからバカにするような言葉を投げかけられた。すぐにマージさんが「アンタたちが世話になる傷薬の材料でしょうが!」と言い返してくれたけど、僕は何も言えずに黙り込む。
僕がヒョロいのも弱いのも本当だ。モンスターの討伐なんてしたこともない。自分にできる範囲で頑張ってはいるけれど、あんな風にからかわれたらやっぱり傷付く。
愛想笑いでやり過ごそうとした時、急にフロア内の空気が固まった。さっきまで笑っていた男たちが真っ青な顔で僕の背後を見て、ガタガタと震えている。
振り返ると、すぐ後ろにゼルドさんが立っていた。
「──私の仲間に何か用か」
低い声でゼルドさんが問うと、ガラの悪い男たちは「なんでもありませ~ん!」と情けない悲鳴をあげながらギルドから出て行った。
それを見たマージさんがおなかを抱えて笑う。
「アッハハ!ひと睨みでゴロツキを退散させるなんて流石ね!」
「…………」
ゼルドさんは無言で否定するが、笑い転げているマージさんはまったく聞いていない。
ていうか、ギルド所属の冒険者をギルド職員がゴロツキ呼ばわりするのはどうかと思う。確かに素行が良くない人が多いけど。
ゼルドさんの見た目はちょっと怖い。背も高いし、見るからに強そうな体格をしている。左の額から頬にかけて大きな傷痕があって、目つきの鋭さと相まって凄みがある。
そして、一番の要因は無口なこと。
黙って立っているだけで威圧感がハンパなく、何もしなくても周りは勝手に怯えて逃げていく。僕は彼が無口な理由を知ってるから怖くないけど、最初に対面した時は正直怯んだ。
「あれ、ゼルドさん、鎧脱げてない!防具屋さんに行かなかったんですか?」
「ダメだった」
「ええ~!?」
落ち着いてから彼を見れば、さっきギルド前で別れた時と変わらぬ鎧姿のままだった。工具で留め金を外してもらえば済むと思っていたのに。
うろたえる僕を見下ろし、ゼルドさんは無言で立ち尽くしている。
どうしよう、なんとかしなきゃ!
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