上 下
2 / 118

2話・強面の凄腕冒険者

しおりを挟む



 四日間のダンジョン探索を終え、僕たちは拠点の町へと帰還した。

 本来の予定より二日も帰還を早めたのは、脱げない鎧のせいでゼルドさんが辛そうだったからだ。こまめに身体を拭くようにはしてたけど、鎧の下に着ている服が着替えられないから不快な状態が続いている。

 冒険者の中には十日以上着替えなくても平気な猛者もいるが、彼はそういうタイプじゃない。ヒゲはこまめに剃るし、ダンジョン内の軽食でもきちんと聖句を唱えてから口にする。たぶん育ちが良いんだと思う。

「僕は戦利品と依頼品をギルドに持っていきますから、ゼルドさんは防具屋さんで鎧を外してもらってきてください」
「わかった」
「終わったらギルドに来てくださいね~!」

 そう言って、ギルドの建物の前で別れる。

 オクトはごく普通の田舎町だった。
 半年前に新たなダンジョンが発見され、冒険者ギルドの支部が建てられた頃から栄え始め、武器や防具の店、宿屋、飲食店など冒険者向きの店が少しずつ増えてきた。
 僕もギルドができた頃にやってきたクチだ。

「ライルくん、おかえりなさい」
「ただいま帰りました、マージさん」
「あれ、予定より早くない?トラブル?」
「……色々あったんです……」

 ギルド内に入ると、奥のカウンターにいた受付嬢のマージさんがニッコリ笑って話しかけてくれた。ゆるく編まれた長い金髪と丸メガネの綺麗な女性ひとだ。

 冒険者はダンジョン探索に出る前に『探索計画書』を提出する決まりがある。帰還予定日から数日過ぎても戻らない場合、ギルドは捜索隊を派遣する。その目安にするためだ。
 無茶な計画を提出すると受付の段階でダメ出しを食らう。だから、みんな必死になって計画を練り、準備を整える。おかげでこの町オクトのギルドに所属する冒険者の生還率はかなり高い。

「これ、今回の依頼品です」

 背負っていた大きなリュックを床に下ろし、中から小瓶を取り出してカウンターに並べる。中身は薬草。種類ごとに小分けして密閉容器に詰めている。マージさんは種類と数を確認してから報酬の大銅貨と銅貨を数枚手渡してくれた。

「助かるわ。薬草採取引き受けてくれる人、あんまりいないのよね」
「探索のついでですから」

 常設依頼は地味な上に報酬もごく僅かで、日々の生活費にやっと届くかどうか。僕はダンジョン内にしか生えない薬草を中心に採取しているから、これでも報酬は少し高いほうだ。

「ハハッ、見ろよ!薬草採って小遣い貰ってるヤツがいるぜ」
「ヒョロいガキにゃ丁度いい依頼だよなァ」

 フロアを溜まり場にしていたガラの悪い冒険者の男たちからバカにするような言葉を投げかけられた。すぐにマージさんが「アンタたちが世話になる傷薬の材料でしょうが!」と言い返してくれたけど、僕は何も言えずに黙り込む。

 僕がヒョロいのも弱いのも本当だ。モンスターの討伐なんてしたこともない。自分にできる範囲で頑張ってはいるけれど、あんな風にからかわれたらやっぱり傷付く。

 愛想笑いでやり過ごそうとした時、急にフロア内の空気が固まった。さっきまで笑っていた男たちが真っ青な顔で僕の背後を見て、ガタガタと震えている。

 振り返ると、すぐ後ろにゼルドさんが立っていた。

「──私の仲間に何か用か」

 低い声でゼルドさんが問うと、ガラの悪い男たちは「なんでもありませ~ん!」と情けない悲鳴をあげながらギルドから出て行った。
 それを見たマージさんがおなかを抱えて笑う。

「アッハハ!ひと睨みでゴロツキを退散させるなんて流石ね!」
「…………」

 ゼルドさんは無言で否定するが、笑い転げているマージさんはまったく聞いていない。

 ていうか、ギルド所属の冒険者をギルド職員がゴロツキ呼ばわりするのはどうかと思う。確かに素行が良くない人が多いけど。

 ゼルドさんの見た目はちょっと怖い。背も高いし、見るからに強そうな体格をしている。左の額から頬にかけて大きな傷痕があって、目つきの鋭さと相まって凄みがある。

 そして、一番の要因は無口なこと。

 黙って立っているだけで威圧感がハンパなく、何もしなくても周りは勝手に怯えて逃げていく。僕は彼が無口な理由を知ってるから怖くないけど、最初に対面した時は正直怯んだ。

「あれ、ゼルドさん、鎧脱げてない!防具屋さんに行かなかったんですか?」
「ダメだった」
「ええ~!?」

 落ち着いてから彼を見れば、さっきギルド前で別れた時と変わらぬ鎧姿のままだった。工具で留め金を外してもらえば済むと思っていたのに。

 うろたえる僕を見下ろし、ゼルドさんは無言で立ち尽くしている。

 どうしよう、なんとかしなきゃ!


 
しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

触れるな危険

紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。 毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。 「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」 俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。 バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。 15話にて本編(なれそめ)が完結。 その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。

竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。 溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。 みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。 囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。 サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。 真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。 ☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正 ⭐残酷表現あります。

銀の森の蛇神と今宵も眠れぬ眠り姫

哀木ストリーム
BL
小さな国に、ある日降りかかった厄災。 誰もが悪夢に包まれると諦めた矢先、年若い魔法使いがその身を犠牲にして、国を守った。 彼は、死に直面する大きな魔法を使った瞬間に、神の使いである白蛇に守られ二十年もの間、深い眠りに付く。 そして二十年が過ぎ、目を覚ますと王子は自分より年上になっていて、隣国の王女と婚約していた。恋人さえ結婚している。 そんな彼を大人になった王子は押し倒す。 「俺に女の抱き方教えてよ」 抗うことも、受け止めることもできない。 それでも、守ると決めた王子だから。 今宵も私は、王子に身体を差し出す。 満月が落ちてきそうな夜、淡い光で照らされた、細くしなやかで美しいその身体に、ねっとりと捲きつくと、蛇は言う。 『あの時の様な厄災がまた来る。その身を捧げたならば、この国を、――王子を助けてやろう』 ユグラ国第一王子 アレイスター=フラメル(愛称:サフォー)(28) × 見習い魔術師 シアン = ハルネス(22)

処理中です...