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おまけ

小話:赤朽葉の系譜 1

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 年が明けてしばらく経った頃、北部にあるアデルの屋敷にアシオンがやってきた。かなり慌てた様子である。通常片道五日は掛かる王都から北部までの道程を、高速馬車を乗り継いで僅か三日で移動してきたという。

 前回王都に帰った際に会ったばかりだ。何事かとアデルが問えば、彼は顔を青くしてこう答えた。


「アデル君が殺されちゃう!」と。






 暗殺者といえば、北部に到着した日のパーティーで狙われたことがある。その時はアシオンが占いで未来を見てくれたおかげで余裕をもって対処出来た。それ以降も何かある度に王都から手紙で危機を知らせてくれた。今回も事前に教えてもらえたのだから十分撃退は可能なはずだ。

 しかし。


「それが駄目なの。どんなに占ってもアデル君が死んじゃう未来しか見えなくて」

「……って、コイツが泣きついてくるから俺たちも北部まで来たんだよ」

「そうだったんだ」


 今回アシオンと共に王都からやって来たのはカナンとラグロ、そしてディレンの三人。そして、彼らの来訪を知ったアルタリオも同席している。アデルの危機とあらば何をおいてもまず対処せねばならないからだ。


「いつまでも泣いてないで最新の情報を占いなさい。現場にいれば王都にいる時より精度が高くなるでしょう」


 占いは未確定の未来を見通す力である。状況が変われば容易く結果は変化する。こうして危機を知らされたことで警戒レベルを上げれば、それだけで回避出来る場合もある。

 アルタリオに促され、アシオンは応接室のテーブルのひとつを使って占いを始めた。彼が一番得意とするのはカードとダイスを併用した方法だ。規則的に並べられたカードを捲り、その上に転がしたダイスの目を読んで未来を占う。


「あ!」


 最後のカードを捲ったアシオンの表情が緩んだ。何度もカードを確認し、パッと笑顔を向ける。


「アデル君が狙われる未来が消えてる!」

「それは良かった」

「……なんだよ、心配させやがって」


 その結果にアルタリオは胸を撫で下ろし、ラグロは悪態をついた。カナンはホーッと深く息を吐き、ディレンは無表情のままラグロの後ろに控えている。


「僕が殺される未来は無くなったってこと?」

「うん。王都で占った時は絶望的だったけど、ここで占ったら大丈夫になった!」

「何が違うんだろうね」

「俺たちが来たからか?」

「そうかも。ボク達がアデル君のそばにいることで未来が変わったみたい!」

「そんな都合の良い話があるか? 大方アデルに会いたくてそんなこと言ってるんだろ」

「いや、アシオンの言ってることは本当だ。確かにコイツは最悪の未来を見た。そんでもって、ここで占った結果、アデルの危機が去ったのも真実だ」


 訝しむカナンに対し、ラグロがそれを否定した。ラグロには人の心を読む能力がある。無差別に他人の感情に触れてしまうと体調を崩してしまうため、今はディレンの抗術によって管理されているが。

 理由は分からないが、占いの結果が覆ったのならば素直に喜ぶべきだ。張り詰めていた空気が霧散し、全員が安堵した。


「だが、万が一のことがあったら困る。取り敢えず防御の魔術をフルで掛けておくか」


 そう言ってラグロが手をかざした。
 ディギウム家は防御魔術を得意としている。見た目には何も変化はないが、防御盾が何重にも掛けられているらしい。
 その後、アシオンがアデルに抱きつこうとしたら何かに弾かれた。


「ちょっと! アデル君に触れないんだけど?」

「ラグロ君、魔術が強過ぎるみたい」


 アデルがテーブルの上のカップを持とうとした瞬間バチッと弾かれ、お茶が全部こぼれた。フル防御だと何も触れなくなるようだ。


「悪い、やり過ぎたか」


 指摘されたラグロは渋々魔術のレベルを下げた。なんだかんだ言って彼もアデルの身が心配だったのだ。つい行き過ぎた守りを与えてしまったようだ。


「しかし、暗殺を企てた者の正体が判らぬうちは油断できません。警戒しておかなくては」

「ボク、しばらく北部に残るよ。絶対大丈夫ってなるまで毎日アデル君のこと占う!」

「王宮にいなくて大丈夫なの?」

「引退したけど父様もいるし、何かあったら王都に手紙送るから平気」


 王宮お抱え占い師となった今でもアシオンの一番はアデルだ。危険度で言えば国土の中央に位置する王都より北部の方が高い。より迅速に対応するためにも、アシオンは北部に居たほうが都合が良い。


「じゃあウチに泊まってよ。勿論みんなも。たまにしか会えないからやっぱり寂しくて」

「やったぁ! 一緒に寝ようね~!」

「じゃあ私も」

「アルタリオ君は近所に家があるじゃん! 夜は帰りなよ」

「抜け駆けはさせませんよ!」





 牽制というか直接ライバルを蹴落とすような発言の応酬に、ひとり蚊帳の外のディレンはぼんやりと窓の外を眺めた。
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