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本編
52話:後始末
しおりを挟む談話室に現れた銀髪の可憐な少女。
彼女はさきほど捕まったフィリクスの妹、第一王女リアーナだった。
「リアーナ様のアドバイス通り、お兄さまのドレスを淡い色合いにしましたの。それと、できるだけ従順に振る舞うように、と」
「フィリクス兄様は絶対に逆らわないようなか弱い女性が好みなんですの」
「まんまと釣れましたわね!」
「ええ! 流石はアリス様のお兄様ですわ!」
キャッキャと笑い合う二人の少女を、周りにいた男性陣は若干引いた目で見ていた。
今の話が本当ならば、リアーナは実の兄を罠に嵌めたということだ。兄が捕まって悲しむどころか笑っているとは。
「以前のフィリクス兄様はとても優しかったのに今では人が変わったようになってしまって。昔の兄様に戻すためなら、わたくし何でもやりますわ!」
リアーナにも動く理由があったというわけだ。間違いを正し、本来の兄に戻ってもらうために。
ちなみに、フィリクスが王宮内に流れる噂を聞き損ねた場合に備え、彼女から直接『談話室にヴィクランド家の娘がいる』『レグルスの正妃の座を狙っている』旨の情報を流してもらう予定だった。
「っていうか、アリスはリアーナ殿下と知り合いだったの?」
「知り合いもなにも、クラスメイトですわ」
「えっ」
「わたくし、アリス様のお勉強道具をお運びする栄誉に浴しておりますの」
「アッそういえば……」
自慢げに語るリアーナを見て、アデルは思い出した。アリスの隣で教科書や筆記用具を持たされていた女生徒はこの少女であった、と。
本来ならば王女が皆の中心であるべきなのに。
「リアーナ様が目立つことがお嫌いだと仰るから、私が代わりに上に立ったんですの」
「アリス様のおかげで変に周りから気を使われることもなく、平穏な学生生活が過ごせてます」
真っ先に王女を従えたからこそ、初日から一年生は全員アリスに傅くようになったのだ。
「それに、アデル様が身代わりになってくださらなかったら、フィリクス兄様はアリス様に手を出したかもしれないのでしょう? 幾ら兄様とはいえ、汚い手でアリス様に触れられたくありませんわ!」
やはり、この王女は少々おかしい。
大混乱のまま御前会議は幕を閉じた。
落ち着いてから、とりあえずの顛末をヴィレオの父親であるヴィンセントが説明しに来た。
「隣国には使者を出した。これで戦争は終結に向かうだろう」
「そんな単純に済めばいいのだがなあ」
「アラン! 子供たちの前で不安を煽るようなことを言うんじゃない!」
「ははは、すまんすまん」
嘘や誤魔化しが出来ないアランを、ヴィンセントは慌てて叱りつけた。
そもそも、戦況悪化自体が第一王子レグルスを国境に連れ出すための嘘だった。ディレンに言われるがままに、マギエリア卿が情報を曲げて報告していたらしい。これにはアデルも安堵した。
「とにかく、君たちのおかげで元凶を捕まえることができた。これ以上状況が悪くなることはないだろう」
「後始末は大人に任せてゆっくり休むといい」
しかし、決して楽観できる状況でもない。
兵の数や拠点の位置などは全て隣国に知られているからだ。きっかけはディレンの策略だったが、両国の兵は既に剣を向け傷付け合っている。戦火に巻き込まれた民もいるだろう。はい終了、というわけにはいかない。
「アデルぅ、着替え持ってきたぞー!」
そこにヴィレオがやってきた。
アリスと女装姿のアデルを見比べて「おお~」と感嘆の声を上げる。あらゆる角度からソファーに座るアデルをまじまじと見ながら、持参した着替えをパッと後ろに隠した。
「もうこのままで良くね?」
「……早く服くださいよヴィレオ先輩」
数日後、フィリクスの悪行の調査が完了した。
第一王子レグルスの過去の婚約者候補の令嬢たちをリストアップし、辞退した理由やその後を調査したのだ。
これはカナンとその父親、兄にも協力してもらった。その結果、やはりフィリクスによる圧力や暴行が原因だと判明した。
ザプリエンド卿は厳格な法務部長官である。罪を犯したフィリクスに対し、何らかの厳罰を下すだろう。
「今回の件で、父さんから初めて褒められた」
放課後の生徒会室で書類仕事を片付けながら、カナンがぽつりと呟いた。
彼はずっと父親から認められたくて努力してきた。しかし、自分に厳しく他者にも厳しいザプリエンド卿は易々と褒めてはくれない。それ故にカナンは承認欲求が満たされず、アデルに縋っていた。
「兵士養成学校の奴らを勝手に王宮に入れたのだけは怒られたけどな」
そう言うカナンの顔は少し緩んでいる。
兵士養成学校の女生徒たちの活躍で、不敬罪で有無を言わさず捕まるところを免れることができた。彼女たちと、秘密裏に王宮内に手引きしたカナンの功績は大きい。
父親から認められればカナンの心の隙間は埋まる。
それは、カナンが支配下から抜けるということだ。アデルは彼を手放さなくてはならない。
「もう僕のために働かなくてもいいよ」
「……なんでそうなる」
「だって」
「約束しただろ。『卒業してからもずっと』褒めてくれるって」
「……ふふ、じゃあ仕方ないかぁ」
カナンの言葉に、アデルは目を細めて笑った。
愛情や友情、主従とも違う不思議な繋がりではあるけれど、カナンとの関係はこれからも続いていくだろう。
「じゃあ僕はこれで」
「帰るのか?」
「ううん、寄るとこがあるんだ」
御前会議の日からラグロは貴族学院を休んでいたが、数日経った今日、登校を再開した。あの日別れてからまだ話をしていない。
図書室の奥に向かえば、いつものように真っ暗な本棚の迷路の先でラグロが本を読んでいた。アデルの来訪に気付き、すぐに顔を上げる。
「もう大丈夫?」
「うん。何日か寝てたら治った」
「……いっぱい無理させてごめん」
「気にすんな」
少し離れた場所で立ったまま、アデルは俯いていた。
確かに無理はしたが、それはアデルから頼まれたからではない。言われなくても勝手に動くつもりだったからだ。
「……それで、……君にこんなことお願いするの、悪いなって思ってるんだけど……」
もじもじしながら口籠もるアデルに、ラグロは呆れたように小さく息をついた。
「分かってるから早く出せよ」
「病み上がりにホントごめん……!」
申し訳なさそうに出されたたくさんのプリント類。これをまとめるのはクラス委員の仕事だ。
「ごめんとか言いながら、俺が来るまで溜め込んでたんじゃねーか」
「あはは、バレてた?」
「視なくても分かるよ、おまえのことは」
「……そ、そんなに分かりやすい?」
「うん」
ラグロはすぐに作業スペースと明かりの光球を作り出した。向かい合って作業しながら、アデルの嬉しそうな顔を見て無意識に口元に笑みを浮かべた。
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