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本編
46話:王子の口付け
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*若干無理やりな描写があります*
突然サロンに現れた銀髪の青年は自分を第二王子フィリクスだと名乗った。それを聞いて、金髪の少女は首を傾げる。
「あら、王族のかたは御前会議に全員ご出席されると聞きましたけど」
「退屈だから抜けてきたんだよ。さっさと送り出せばいいものを、わざわざ何度も会議なんか開いて馬鹿馬鹿しい」
「まあ!」
イライラした様子で愚痴をこぼすフィリクスに、少女は呆れたように笑ってみせた。
その笑顔が愛らしく映ったのだろう。フィリクスは不機嫌そうな表情をすぐに消して少女の隣に腰を下ろし、その小さな肩を抱くように腕を回した。
「君、可愛いね。あのアラン・ヴィクランドの娘だなんて信じられないな」
「お父さまをご存知なの?」
「あの男を知らない奴なんかいるもんか! 数多の女を籠絡して侍らせ、国を裏から支配する悪徳貴族。みんなそう言ってる」
「……むずかしいことはよく分かりませんわ」
「そうかい? 奴は君を兄上に差し出して王族と姻戚関係を結び、王家を手中に収めるつもりだ。君は父親の野望に利用されてるんだよ。ああ、かわいそうに!」
わざと芝居掛かった言い方をしながら、ぐっと腕に力を入れて少女の細い身体を引き寄せる。フィリクスの顔が近付いたことに驚いた少女が離れようとするが、彼の拘束から逃れることは出来ない。
か弱い乙女の抵抗を愉しみながら、更にフィリクスは吐息が掛かるくらい顔を近付けた。
「アラン・ヴィクランドの娘ってとこは嫌だけど、君はなんだか気に入ったよ。ねえ、私と付き合わないかい?」
「で、でも、お父さまはレグルス様に会わせるって」
か細い声でそう言い返す少女に、フィリクスの顔から笑みが消えた。
先程までのにこやかな笑顔から見下すような冷たい表情へと変わる。そして、少女の髪を掴んで軽く後ろに引っ張った。突然乱暴に扱われ、少女は思わず顔をしかめ、小さく悲鳴を上げた。
「──おまえも兄上の方がいいのか」
「な、なにをなさるの」
「レグルス、レグルス、レグルス! 家臣どもはみな兄上のことばかり! 母上もそうだ!! 馬鹿にしやがって。私と兄上、何が違うというのだ。アイツが一年先に生まれたというだけで!!」
「フィリクス様、痛い」
頭を庇いながら少女が涙目で訴えると、フィリクスは再び笑顔になり、髪を掴んでいた手をパッと離した。
「ああ、ごめんね。綺麗な髪がぐちゃぐちゃになってしまった。整えてあげよう」
「い、いえ、大丈夫です」
「私がやってやると言ったんだ。従え」
「……は、はい……」
優しいかと思えば急に威圧的な態度を取る。
怯えた目をして小さく頷く少女を見て、フィリクスは口の端を大きく吊り上げた。乱れた金の髪を手櫛で梳きながら、彼は猫撫で声で囁く。
「ねえ、兄上なんかやめて私にしなよ。君だって、王妃になれるなら相手はどっちでも構わないんだろう?」
「え?」
「兄上はこれから隣国との戦に出陣する。万が一あっちで何かあったら次の王になるのは第二王子のこの私だ」
「レグルス様の御身になにかあるなんて。たくさんの方々が守りにつくのですから、そんなことは有り得ませんわ」
「それが『有り得る』んだよ」
「よく分かりませんけれど、もしそうなら出陣自体をお止めしなくては。わたし、御前会議の場に参ります!」
少女が立ち上がろうとした時、フィリクスは大きく舌打ちをして彼女の腕を乱暴に掴んで引き戻した。そのままソファーの上に仰向けの状態で転がされる。冷たく見下すような目をしたフィリクスが覆い被さるように少女を組み敷いた。
「え、エルマ、アルマ、たすけて」
少女は部屋の隅に控えている侍女二人に助けを求めた。だが、エルマとアルマは微動だにしない。主人である少女の危機にも関わらず、表情ひとつ変えず無言でも立ち尽くしている。
「おまえら、扉を塞げ」
「「はい、フィリクス様」」
だが、フィリクスが命じると、二人の侍女はスッと移動した。そして両手を前方に掲げ、サロンの両開きの扉を封印した。半透明で硬質に見える何かで扉自体は固められてしまった。これではサロンへの出入りは出来ない。
不思議な力。これは魔術だ。
「……っ!? エルマ、アルマ、どうして」
自分ではなく第二王子の命令に従った侍女二人に対し、少女は震える声で問い質した。押し黙る彼女たちに変わり、フィリクスが歪んだ笑みを浮かべ、嬉々として口を開いた。
「コイツらは私が送り込んだ魔術師さ。君の侍女として内部に入り込み、ヴィクランド家を内部から探るようにね」
「なんですって?」
「だから、ここに君の味方はいない」
「……そんな」
侍女の裏切り、いや最初から仕組まれていたという事実にショックを受ける少女を見下ろしながら、フィリクスは満足そうに微笑んだ。先程梳いてやった髪を一房手に取り、愛おしそうに指先で弄ぶ。
「このまま君を抱いて傷モノにしてしまえば、兄上に嫁ぐことは出来なくなるね」
「え」
「ねえ、もう一度だけ聞くよ。私を選べ」
「……わ、わたしは、レグルスさまと」
言い終わる前に少女の頬が叩かれた。突然の痛みに呆然とする少女に対し、鬼のような形相のフィリクスが襲い掛かる。
「兄上の名など出すな!」
「やめ、んんッ」
手のひらで無理やり口を塞がれ、ドレスの裾を乱暴な手付きで捲り上げられる。露わになった細く白い脚をするりと撫でるフィリクスの口元が弧を描いた。
「兄上は北の戦場で死ぬ。……だから、今のうちに私に媚びを売っておいたほうがいいぞ。わかったな?」
「……、……」
狂気に浮かされたフィリクスに、少女は手で口を塞がれたままの状態で何度も頷いた。押し退けようとして突っ張っていた腕の力を抜き、恭順の意を示す。
ようやく思い通りになった少女の口元から手のひらを外し、代わりに自分の唇で彼女の唇を塞いだ。
突然サロンに現れた銀髪の青年は自分を第二王子フィリクスだと名乗った。それを聞いて、金髪の少女は首を傾げる。
「あら、王族のかたは御前会議に全員ご出席されると聞きましたけど」
「退屈だから抜けてきたんだよ。さっさと送り出せばいいものを、わざわざ何度も会議なんか開いて馬鹿馬鹿しい」
「まあ!」
イライラした様子で愚痴をこぼすフィリクスに、少女は呆れたように笑ってみせた。
その笑顔が愛らしく映ったのだろう。フィリクスは不機嫌そうな表情をすぐに消して少女の隣に腰を下ろし、その小さな肩を抱くように腕を回した。
「君、可愛いね。あのアラン・ヴィクランドの娘だなんて信じられないな」
「お父さまをご存知なの?」
「あの男を知らない奴なんかいるもんか! 数多の女を籠絡して侍らせ、国を裏から支配する悪徳貴族。みんなそう言ってる」
「……むずかしいことはよく分かりませんわ」
「そうかい? 奴は君を兄上に差し出して王族と姻戚関係を結び、王家を手中に収めるつもりだ。君は父親の野望に利用されてるんだよ。ああ、かわいそうに!」
わざと芝居掛かった言い方をしながら、ぐっと腕に力を入れて少女の細い身体を引き寄せる。フィリクスの顔が近付いたことに驚いた少女が離れようとするが、彼の拘束から逃れることは出来ない。
か弱い乙女の抵抗を愉しみながら、更にフィリクスは吐息が掛かるくらい顔を近付けた。
「アラン・ヴィクランドの娘ってとこは嫌だけど、君はなんだか気に入ったよ。ねえ、私と付き合わないかい?」
「で、でも、お父さまはレグルス様に会わせるって」
か細い声でそう言い返す少女に、フィリクスの顔から笑みが消えた。
先程までのにこやかな笑顔から見下すような冷たい表情へと変わる。そして、少女の髪を掴んで軽く後ろに引っ張った。突然乱暴に扱われ、少女は思わず顔をしかめ、小さく悲鳴を上げた。
「──おまえも兄上の方がいいのか」
「な、なにをなさるの」
「レグルス、レグルス、レグルス! 家臣どもはみな兄上のことばかり! 母上もそうだ!! 馬鹿にしやがって。私と兄上、何が違うというのだ。アイツが一年先に生まれたというだけで!!」
「フィリクス様、痛い」
頭を庇いながら少女が涙目で訴えると、フィリクスは再び笑顔になり、髪を掴んでいた手をパッと離した。
「ああ、ごめんね。綺麗な髪がぐちゃぐちゃになってしまった。整えてあげよう」
「い、いえ、大丈夫です」
「私がやってやると言ったんだ。従え」
「……は、はい……」
優しいかと思えば急に威圧的な態度を取る。
怯えた目をして小さく頷く少女を見て、フィリクスは口の端を大きく吊り上げた。乱れた金の髪を手櫛で梳きながら、彼は猫撫で声で囁く。
「ねえ、兄上なんかやめて私にしなよ。君だって、王妃になれるなら相手はどっちでも構わないんだろう?」
「え?」
「兄上はこれから隣国との戦に出陣する。万が一あっちで何かあったら次の王になるのは第二王子のこの私だ」
「レグルス様の御身になにかあるなんて。たくさんの方々が守りにつくのですから、そんなことは有り得ませんわ」
「それが『有り得る』んだよ」
「よく分かりませんけれど、もしそうなら出陣自体をお止めしなくては。わたし、御前会議の場に参ります!」
少女が立ち上がろうとした時、フィリクスは大きく舌打ちをして彼女の腕を乱暴に掴んで引き戻した。そのままソファーの上に仰向けの状態で転がされる。冷たく見下すような目をしたフィリクスが覆い被さるように少女を組み敷いた。
「え、エルマ、アルマ、たすけて」
少女は部屋の隅に控えている侍女二人に助けを求めた。だが、エルマとアルマは微動だにしない。主人である少女の危機にも関わらず、表情ひとつ変えず無言でも立ち尽くしている。
「おまえら、扉を塞げ」
「「はい、フィリクス様」」
だが、フィリクスが命じると、二人の侍女はスッと移動した。そして両手を前方に掲げ、サロンの両開きの扉を封印した。半透明で硬質に見える何かで扉自体は固められてしまった。これではサロンへの出入りは出来ない。
不思議な力。これは魔術だ。
「……っ!? エルマ、アルマ、どうして」
自分ではなく第二王子の命令に従った侍女二人に対し、少女は震える声で問い質した。押し黙る彼女たちに変わり、フィリクスが歪んだ笑みを浮かべ、嬉々として口を開いた。
「コイツらは私が送り込んだ魔術師さ。君の侍女として内部に入り込み、ヴィクランド家を内部から探るようにね」
「なんですって?」
「だから、ここに君の味方はいない」
「……そんな」
侍女の裏切り、いや最初から仕組まれていたという事実にショックを受ける少女を見下ろしながら、フィリクスは満足そうに微笑んだ。先程梳いてやった髪を一房手に取り、愛おしそうに指先で弄ぶ。
「このまま君を抱いて傷モノにしてしまえば、兄上に嫁ぐことは出来なくなるね」
「え」
「ねえ、もう一度だけ聞くよ。私を選べ」
「……わ、わたしは、レグルスさまと」
言い終わる前に少女の頬が叩かれた。突然の痛みに呆然とする少女に対し、鬼のような形相のフィリクスが襲い掛かる。
「兄上の名など出すな!」
「やめ、んんッ」
手のひらで無理やり口を塞がれ、ドレスの裾を乱暴な手付きで捲り上げられる。露わになった細く白い脚をするりと撫でるフィリクスの口元が弧を描いた。
「兄上は北の戦場で死ぬ。……だから、今のうちに私に媚びを売っておいたほうがいいぞ。わかったな?」
「……、……」
狂気に浮かされたフィリクスに、少女は手で口を塞がれたままの状態で何度も頷いた。押し退けようとして突っ張っていた腕の力を抜き、恭順の意を示す。
ようやく思い通りになった少女の口元から手のひらを外し、代わりに自分の唇で彼女の唇を塞いだ。
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