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本編

20話:恋する占い師 1

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 近頃、アシオンは焦りを感じていた。
 ここ数日の間に一番の友達アデル苦手な同級生アルタリオの距離が明らかに縮まっていたからだ。


「食堂で見掛けないと思ったら、こんなところで食べていたんですね。私もご一緒してよろしいですか?」

「もちろん。人数が多い方が楽しいし。いいよね? アシオン君」

「……う、うん」


 二人だけで過ごす憩いのランチタイムにも乱入されたが、さすがに拒否する勇気はない。
 向かい合って座るアデルの隣にはアルタリオが陣取っているから嫌でも視界に入ってしまう。


「アデル君、口元に付いてますよ」

「……ん、ありがとう」


 甲斐甲斐しく世話を焼くアルタリオはまるで保護者のようだ。だが、時折甘えるような素振りを見せ、それにアデルも応えている。

 知らないうちに親密度が増している二人を前に、アシオンは動揺を隠せなかった。

 放課後、司祭の務めがあるアルタリオは居残ることなく帰宅する。それを確認してから、アシオンはいつものようにアデルを図書室へと誘う。

 道すがら、気になっていたことを尋ねてみた。


「この前の休みに大聖堂に遊びに行ったんだ。普段は見られない場所を見せてくれたりして、それで仲良くなったんだよ」

「え、アルタリオ君のうちに?」

「その時にアルタリオ君のおじい様にも会って挨拶したんだ。お土産に大聖堂せんべい貰っちゃった」

「えっ、大司教様からせんべいを!?」


 そもそも余程好意を抱いていなければ自宅には招かないと思うが、その辺りはアデルは気付いているのだろうか。

 しかし、これで二人が仲良くなった理由が判明した。自分も同じことをやればいいのだ。


「じゃあ、ボクの家にも遊びに来てくれる? 占いの道具がいっぱいあるから、見るだけでも楽しいと思うよ」

「え、ホントに? 行く行く!」


 好奇心旺盛なアデルを商売道具で釣り、約束を取り付けることに成功した。アシオンは無邪気に喜ぶ友達の姿を見て目を細めた。







 次の週末。
 アデルは馬車で王都の郊外へと向かった。オラーティオ家の屋敷がある場所だ。周囲にはのどかな田園風景が広がり、近くに他の建物は一切見当たらない。
 門の前で待ち構えていたアシオンに招かれるまま、アデルは屋敷内へと入った。


「ボクの部屋に来て。面白いもの見せてあげる」


 屋敷の最奥、人気のないエリアに向かう。
 廊下の突き当たりにある扉を開くと、日中だというのに室内は薄暗かった。重いカーテンが閉じられていて、陽の光を遮っているからだ。壁一面に造り付けられた棚が目に入った。棚には大小様々なサイズの水晶玉やカード、占星盤などが綺麗に飾られていた。日光を遮っているのは、それらの道具を劣化から守るためなのだろう。

 膨大な数の道具を見て、アデルは息を飲んだ。


「これ、全部占いの道具?」

「そうだよ。占いの内容で道具を変えるんだ。道具との相性もあるから、ぜんぶ使えるわけじゃないんだけど~」

「すごい、ホントに占い師って感じ……!」

「ボクなんて父様に比べたらまだまだだよ。もっと腕を磨かなきゃ」


 アシオンの父親は王宮お抱え占い師だ。国の行く末は元より、天災や人災などが起きる時期や規模まで読む。国の運営を左右する重要な役職である。
 その後継者として幼少期から周囲の期待を一身に受け、アシオンはすっかり萎縮してしまっていた。

 弱気な言葉をこぼす友人の肩に手を触れ、アデルは笑顔を向ける。


「そんなことないよ。だって、僕にはここにある道具をどうやって使うのかすら分からないんだよ? それに、いつもたくさん本を読んで勉強してるでしょ。きっとすぐ国一番の占い師になれるよ」

「ア、アデル君……」


 入学以来、アシオンはアデルにくっついて行動していた。きっかけは、何故か女性から避けられるアデルを利用して安全地帯を確保するという自分本位のものだった。それなのに、アデルは嫌がることなく受け入れ、ずっと一緒に居てくれた。困っている時は助けてくれた。
 そればかりか、共に過ごす時間の中でアシオンが努力する姿をちゃんと見て認めてくれた。


 ──アデル君が好き。大好き。


 友情などではない。
 もっと深いところで彼に惹かれている。
 アルタリオに対するモヤモヤも全て嫉妬だったのだと考えれば納得できる。

 向けられた期待も、アデルからのものなら心地良い。彼のためなら国で一番、いや世界で一番の占い師になってみせる。そう誓った。


「良かったら何か占ってあげようか?」

「え、いいの!?」

「うん。練習にもなるし」

「嬉しい。じゃあお願いしようかな」


 そういえば、今までずっと一緒にいたのにアデルから『占って』と頼まれたことはなかった。話したこともない女生徒たちは何度断っても気安く頼んでくるというのに。
 そんなところも含めて、アシオンにとってアデルは得難い存在であった。


「何を占ったらいい~?」

「えーと、逆にどんなことが占えるの?」

「なんでも、だよ。恋愛、学業、子宝、病気や怪我の時期、あと金運とか。あくまで『占い』だから細かいとこまでは分からないけど」

「おお……!」


 アデルはしばらく悩んだ後、占ってほしい事柄をアシオンに伝えた。
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