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本編

11話:深まる執着

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「ねェお願い、ちょっとだけ」

「減るものじゃないし構わないでしょ?」


 少女たちが猫なで声で何かをねだっている。その声は甘く、蠱惑的な空気をまとっていた。
 彼女たちに迫られているのはブカブカのローブを着た小柄な少年だ。彼は壁際に追い込まれながらも、か細い声で何度も何度も断っていた。しかし少女たちは聞く耳を持たず強引に詰め寄る。

 少年が今にも泣きそうになった、その時。


「君たち、何やってるの」


 偶然通り掛かった金髪の少年が声を掛けた。
 少女たちは振り返ってその少年の姿を見るなり、小さく悲鳴をあげて走り去っていった。

 後に残された少年は壁にもたれかかったまま、その場にズルズルとへたりこんだ。目には涙が浮かんでいる。


「あ、アデルくぅん……!」

「アシオン君、大丈夫? ごめん、一緒に居れば良かったね」

「ううん、ボクがハッキリ断れないのがいけないんだ。……助けてくれてありがと」

「御礼なんて要らないよ。友達でしょ」


 手を差し出して立たせると、アシオンはアデルに抱き着いた。よほど怖かったのか、小さな肩が震えている。アデルはその背中をポンポンと軽く叩いて宥めてやった。

 アシオンは常に狙われている。
 それは彼が王宮お抱え占い師の息子で、類稀なる占いの才を持っているからだ。彼に占ってもらいたいと願う女の子は後を絶たない。ひとりで居れば必ず声を掛けられてしまう。

 でも、アデルが側に居れば女の子は近付いて来ない。アデルと一緒に居る時だけは安心して過ごせる。
 入学以来、アシオンが助けてもらったのは一度や二度ではない。


 ──ボクから離れないで。


 アデルを抱きしめる腕に力を込める。
 こうしてアシオンは友情とはまた違う執着を深めていった。







 王都の外れには兵士養成学校がある。

 兵士を志す平民の子を受け入れて教育を施す、国立の教育機関である。学費や学生寮の費用を国が全て負担するため非常に人気があり、その分倍率も高い。試験をクリア出来るのは素質のある者だけだ。入学後は兵士としての訓練以外にも基礎的な学問や礼節などを学ぶ。

 その兵士養成学校に行く機会がやってきた。
 社会見学である。

 貴族学院の生徒は一年の時に見学に行くのが恒例行事となっている。兵士の卵たちが努力する姿を実際に見ることで、国を背負って立つ貴族としての責任と覚悟を再確認させるのが貴族学院側の狙いだ。


「楽しみだね、社会見学」

「え、でも怖くない~? 校内どころか教室にも剣を持ちこんでるんでしょ」

「常に武器を携帯することで身体に感覚を覚え込ませるのが狙いなんだって。武器は木製の複製品レプリカらしいから、そんなに危なくないんじゃないかな」

「へぇ、そうなんだ~! よく知ってるねアデル君」


 それをアデルに教えてくれたのは騎士団長のカインだ。『快楽に慣らすための訓練』後の寝物語に聞いたなどとは言えず、アデルは笑って言葉を濁した。

 騎士と兵士。
 身分や所属が異なるため、一見繋がりがなさそうに見えるが、有事の際は騎士団と王国軍は連携を取る。故に割と密接な関わりがあるのだ。騎士団から兵士養成学校に指導員を派遣したり、定期的に合同演習をおこなったりしている。


「おや、アデル君は軍に興味があるのですか」


 アシオンと二人で話しているところに割り込んできたのはアルタリオだ。アデルの隣に腰掛け、顔を寄せてくる。


「もちろん。国を守る要だからね」

「でも、我が国は長らく戦争をしておりませんよ。軍など果たして必要なのでしょうかねえ」


 どうやらアルタリオは王国軍廃止派に意見が傾いているようだ。
 確かに、ここ百年ほど他国との戦争はない。騎士団と王国軍、両方を維持するには莫大な国費が掛かる。使わぬ剣を磨き続ける意味はあるのか。そういう論調が巷で出ているのは確かだ。

 しかし、アデルはこれを真っ向から否定した。


「必要だからあるんだよ。これまでの百年の平和は王国軍が変わらず研鑽を積み、強さを保持していたからこそ得られたものだと僕は思う」


 笑顔でそう答えるアデルを見て、アルタリオはフッと笑った。


「……君がそう言うと、そちらが正しいと思いたくなりますね」

「正しいかどうかはともかく、国を守ろうと努力してくれている人たちを簡単に不要とは言いたくないな」

「ふふ、君らしい意見ですね」

「そうかな」


 言うだけ言って、アルタリオは去っていった。
 そのやり取りを間近で見ていたアシオンは、大きな溜め息をついて肩の力を抜いた。


「……はあ~、怖かった」

「そう?」

「ボク、アルタリオ君とはほとんど喋ったことないもん。大人っぽいし、雰囲気が少し冷たいし」


 人見知りのアシオンには近付き難い人物である。
 だが、アデルにとってはそうでもない。一度恥ずかしいところを見られ、彼に対して格好を付ける必要がなくなったからかもしれない。


「ああ見えて優しいところもあるんだよ、アルタリオ君って」


 その言葉に、アシオンの胸がちくりと痛んだ。
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