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本編
3話:貴族学院入学
しおりを挟むこの王国における貴族学院とは、王都中心部に建つ貴族の子供が通う事を義務付けられた学び舎である。十二から十五歳までの三年間、領地経営に必要な知識や国内外の情勢、式典の儀礼などを身に付ける。ちなみに、基本的な語学や算術などは入学前に家庭教師から学び終えているのが前提条件だ。
アデルには、この三年の間に一生使える人脈を築くという確固たる目的がある。そのため入学前に貴族学院で学ぶべきものは全て習得済みである。学業に時間を取られていては本末転倒だからだ。
当然、入学試験の成績はトップ。
入学式典では新入生代表として舞台の上で挨拶もした。多くの者に優秀さを見せつける良い機会となった、とアデルは内心ほくそ笑んでいた。
だが──
「アデル君て賢いんだね~」
「くそっ、初日から負けた! 次は負けんぞ!」
「口惜しいが、君の優秀さは本物みたいですね」
「良かったら見直しに付き合ってくれないか」
女子からチヤホヤされるかと思いきや、何故か男子生徒達に取り囲まれていた。繰り返す、男子生徒だけだ。
しかし、ここで蹴散らす訳にはいかない。
アデルの目的は人脈作り。その対象は女性だけではない。将来有望そうな者には全員唾をつけておくべきだ。
「ありがとう。試験当日は体調が良かったから、実力以上に力を発揮出来たみたいだ」
決して傲らず、且つ嫌みに取られないよう控えめに笑って応える。すると、教室中から「おお~……」と感嘆の声が上がった。掴みは上々。
このまま『優秀さを鼻にかけない素敵な男性』という好感度の高いイメージを定着させ、ゆくゆくは全員と仲良くなり、出来れば支配下に置く。今日はその第一歩だ。
ほとんどのクラスメイトがアデルに関心を持ち、その優秀さを認めた。
しかし、一人だけ無関心な者がいた。
一番後ろの窓際の席に座り、分厚い本を読んでいる少年だ。黒く艶やかな髪は長く、目元を覆い隠してしまっているため、その表情は確認できない。
アデルは彼にも自分をアピールする為、さりげなく近付いて話し掛けた。
「やあ、難しそうな本だね。何を読んでいるの?」
「……」
しかし、黒髪の彼は答えない。
返事をしないばかりか、顔を上げもしない。
入学初日からこの状態という事は、恐らく彼は元々他人と関わるのが苦手なのだろうとアデルは予想した。あまり邪魔をしては悪印象を与えてしまいそうだったので、その場はすぐに引いた。
「あいつ、無愛想だろ。王宮お抱え魔術師の息子で、ラグロっていうんだ。いっつも小難しい本ばっか読んでる」
離れた場所で教えてくれたのは、さっき負けず嫌いな発言をしていた背の高い白髪ツンツン頭の少年で、法務部長官の息子カナンだ。物事を勝ち負けや善悪の二極でしか考えられないようで、一方的にアデルをライバル視しているが、同時にその実力を認めてくれている。
「教えてくれてありがとう、カナン君」
「おっ、おう」
笑顔でお礼を言うと、カナンは何故か頬を赤く染め、顔をそらした。感謝される事に慣れていないタイプとみた。これは後々利用できる。
「ラグロ君とも仲良くなりたいな」
「それは難しいかもな。親同士が知り合いだから何度か会ったことあるけど、何回話しかけてもああだし、あいつが誰かと喋ってるとこなんか見たことないぞ」
「そうなんだ……」
そんなシャイな人物に人前で話し掛けたのは失敗だった。次は誰もいない時にしよう、アデルはそう記憶した。
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