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本編

1話:アデルの野望

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「アデル。おまえは我がヴィクランド家の跡取り。次代を担う人材を見つけ、取り入り、支配下に置くように」

「お任せください父上」


 貴族学院入学一ヶ月前。
 屋敷の書斎に呼び出されたアデルは笑顔で頷いた。

 ヴィクランド侯爵家は何代も前から国を裏から操る影の存在である。人々を説き伏せ、魅了し、時には傀儡にする事で政治を意のままに動かしてきた。

 目の前の豪奢なソファーに座っているのは現在のヴィクランド侯爵家当主、アラン・ヴィクランド。アデルの父親である。背はすらりと高く、目元は涼やか。ランプの明かりを受けて輝く金色の髪は後ろに流すように撫で付けられている。三十代後半ではあるが、一目で女性の腰を砕くような色香を漂わせている。この外見的な魅力と巧みな話術で人脈を築いてきたのだ。


「私の人脈をそのまま継がせたいが、おまえが跡目を継ぐ頃には発言力を失っている可能性が高い。故に、同年代の有望な人材を探すのが一番良いだろう」


 父侯爵の人脈のほとんどが熟年の女性である。まだ十二歳のアデルに制御出来るような容易い相手ではない。熟女ばかりを任されても持て余すだけだ。


「しかし……おまえの見た目は幼い。これで数多の令嬢を籠絡出来るかどうか、やや心配だが」


 容姿を指摘され、アデルはムッとした。
 小柄で童顔な母親に似て身長が低く、顔立ちも少女のよう。全て本人が気にしている事だ。父親譲りなのは輝く金髪だけ。一つ下の妹と間違われる事も少なくない。


「……お言葉ですが、背はこれから伸びますし、顔立ちもいずれは父上に似てくると思います。それに、最初はこれくらいの見た目の方が相手の油断を誘い、懐に入りやすいのでは?」

「ふむ。一理あるな」

「ご心配には及びません。必ずや人脈を築き、僕の代でも王国を牛耳ってみせます」

「頼もしい言葉だ。期待しているぞ、アデル」


 いつもなら話はここで終わるのだが、この日はまだ続きがあった。


「他者を魅了し籠絡する者が快楽に弱くては話にならん。入学までの間に経験を積み、慣れておくように」

「は、はい」


 驚きつつも、内心でアデルは期待していた。
 貴族の男子は大体これくらいの時期に閨の作法を教わるという話だけは知っている。相手は侍女であったり高級娼婦であったりと様々だが、とにかくそういった体験が後腐れなく出来るのだ。一体だれが相手をしてくれるのかと気持ちを逸らせる。

 父親のハーレムは平均年齢高めだが、一番若いエリアーナは男爵夫人で二十代半ば。お淑やかで童顔、それにアデルにも優しい。初めての相手は彼女がいいと密かに思っていた。
 それ以外にも、ヴィクランド家には年若い侍女が数人いる。

 しかし。


「アデル君、久しぶりだね」

「か、カイン様……!?」


 現れたのは騎士団長のカインだった。父親と同じ三十代後半で、もちろん男性だ。それがどうしてこの話の流れで部屋に呼ばれたのか。


「本当はエリアーナに頼もうと思っていたのだが、今妊娠中で悪阻が酷いらしくて……アッ、私の子じゃないぞ、男爵の子だ。かといって我が家の侍女達は身持ちが固くて全員から断られてしまってな。花街の女達からも何故か拒否されて、ほかに丁度いい相手が見つからなかったのだ。……ま、快楽に慣らすだけなら男同士でも問題なかろう」

「そういうわけだ。よろしく頼むよアデル君」

「……ええ~……」


 いや、問題ありまくりだろ。

 そういった理由で、アデルは閨の作法を騎士団長カインから教わることになった。
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