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第90話 初めての夜 3 *
しおりを挟む挿入してしばらくは馴染ませるために動かぬようにした。リアンの体を慮っているだけではなく、早々に気をやらないためである。サイラスのこめかみから汗が流れ、リアンの肩や胸に落ちた。乱れた呼吸の合間に漏れ聞こえる耐え忍ぶような喘ぎ声が耳に届き、どうしようもないくらいに気持ちを昂らせていく。
ずっと止まっているわけにもいかず、サイラスは顎を伝う汗を手の甲で雑に拭ってからリアンの頬に触れた。リアンもうっすらと汗をかいている。密着している部分は熱いのに露出した肌はひんやりとして心地良い。きっと相手がリアンだからそう感じるのだろう。
「ん~……」
「どうした、リィ。痛いのか?」
「ううん、痛くはないけどヘンな感じ」
しっかり慣らしておいたおかげで痛みはない。ただ、初めての感覚に戸惑っているだけ。
「いま、サイが中にいるんだよね。不思議」
リアンは自分の下腹部を撫でながら、眉を下げて笑った。その言葉と仕草に、サイラスが盛大な溜め息を漏らす。
「おまえなぁ、オレが必死に我慢してるってのに煽るようなこと言うな!」
リアンはきょとんとした顔で首を傾げ、サイラスの首に回していた腕をぐっと引いた。腰だけでなく胸元まで密着し、つられて挿入も深くなる。互いに短く呻いてから、リアンは目を細めて笑った。
「我慢する必要なくない?」
「っ、この……!」
超至近距離で煽られたサイラスは口元を引きつらせ、リアンの首筋に歯を立てた。痕が残るくらいに噛みつきながら、途中で止めていた腰を一旦退いてから打ち付ける。
「ふぁ、っ?」
突然の衝撃に、リアンの視界に星が散った。体の中心を抉られ、苦しいはずなのに快楽のほうが勝っている。抽送を繰り返すうちに次第に奥へと入り込んでいった。先ほど指で慣らした箇所など、とうに通り過ぎている。
「あっ、あっ、や、待って」
「っ我慢、しなくていいんだろ?」
「ば、ばかぁ!」
にやりと口角を上げ、サイラスはリアンの体を抱き寄せた。全身がぴったりくっつく頃には根元まで全部飲み込まれており、互いの体と心にこの上ない充足感が芽生えてくる。荒い呼吸を繰り返すうちに体の芯が痺れるような感覚を覚えた。
最初に出してから一度も触れていないにも関わらず、リアンのものも勃ち上がっていた。先端からはとろとろと蜜が流れ落ち、腹の上に滴っている。なんとはなしにそれをサイラスが撫でてやると、リアンが体を跳ねさせた。
「ひゃん、やだ、そこ触んないで」
「触るなって、腹だぞ?」
「ばかぁ! いっ今はダメぇ」
くすぐるような触りかたはしていない。意味が分からず、サイラスは更にするりと撫でてみた。すると、再びリアンの体が大きく跳ね、連動して内部がきつく締まる。たまらずサイラスは動きを止め、襲いくる射精感を必死に堪えた。
「んん~……ッ!」
触るのをやめた後も、リアンはびくびくと体を痙攣させている。先端からはとめどなく蜜があふれ、横腹を伝って敷布へと落ちていく。
「っく、はぁっ、はぁっ、はぁ…っ」
息を乱したリアンがようやくひと心地つけたのは数分経ってからだった。翡翠色の瞳は潤み、目の端が赤くなっている。
「大丈夫か、リィ」
「もう、僕だけ先にイカせてどうすんのさ」
「え、いつの間に」
「サイのばかぁ!」
よほど恥ずかしかったのか、リアンはそばにあった枕を掴んで投げる。甘んじて枕攻撃を受けながら、サイラスは喜びでニヤけそうになる顔を必死に我慢していた。リアンを気持ち良くさせられた上に、先に達するという情けない姿を見せずに済んだのだ。この先はもう何の遠慮もなく抱ける、と勝手に喜んでいる。
「続きしてもいいか?」
「も、もう。いちいち聞かないでよ」
困り顔のリアンが可愛く見えて、サイラスは背を丸めて顔を近付けた。意図に気付いたリアンが顎を上げ、唇を寄せる。軽くついばむような口付けを繰り返してから深く口内を探り合う。舌を絡ませながら、サイラスは動きを再開した。
一度達したとはいえ挿れられたままの状態で、リアンはすぐにまた昇り詰めそうになった。深く繋がれるように腰を上げ、脚でサイラスの胴にしがみついている。
「リィ、リィ。出していいか」
「うんっ、中に出してぇ」
限界が近くなり、サイラスの動きが早くなる。揺さぶられながら、リアンは嬉しそうに微笑んでみせた。全てを受け入れられたような気がして、サイラスの胸がぎゅうと締め付けられる。寂しさや劣等感ではない。幸福と充足感でいっぱいになった。
「リィ……ッ!」
サイラスが果てると同時にリアンも絶頂を迎え、二人は抱き合ったまましばらく動けずにいた。しばらくしてサイラスが自身を引き抜こうとすると、リアンが慌てて止める。
「だっだめ、抜かないで!」
「休憩したほうがいいんじゃないか」
「やだ!」
先ほどから胴に絡ませていた脚に力を込め、リアンはサイラスが腰を下げないようにした。
「せっかくナカに出してもらったのに、いま抜いたら出ちゃう……」
出された子種を無駄にしたくない、と言う理由で嫌がっていたのだと知り、サイラスは目を丸くした。あまりにも可愛らしい恋人の言動に、思わず笑いが込み上げる。が、可笑しさより性欲のほうが勝った。
「一回で終わると思ってんのか?」
「え? あ、ちょ、また大きく……?」
「確実に孕むまで抱くから安心しろ」
「えええええ」
一度も抜かないまま、サイラスは再び腰を動かし始めた。中に出したもののおかげで滑りが良くなっている。先ほどより更に奥へと捩じ込まれ、リアンは悲鳴を上げた。
「やっ、あ、だめ、またイッちゃう」
「さっき見れなかったからイクとこ見たい」
「やだー! サイのばか……あ、あ、っ」
サイラスはリアンがもう無理だと白旗を上げるまでやめなかった。
窓の外が白み始め、近所の家々から朝の煮炊きの煙が上がる頃、サイラスとリアンは軽く身を清めてから眠りについた。
「腰が、重いぃ……!」
初体験にも関わらずほぼ一晩中交わっていたせいで、リアンの細い腰は限界を迎えていた。移動も難しい有り様である。元凶のサイラスは嬉々としてリアンを抱きかかえて運び、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
「リィ、今日はオレが食事の支度をするからな」
「いいの?」
「任せとけ!」
いつものようにサイラスが炎魔法を用いてかまどに火を入れようとするが、何故か魔法が発動しない。あれ?と思いつつ、昨夜から灯したままだったランプの火を貰い、薪に火をつけた。
湯が沸くまでの間、リアンは食堂の椅子に座らされていた。尻が痛くないように、と座面に畳んだ毛布が敷かれている。サイラスが気遣って用意してくれたものだ。大事にされていると分かり、リアンは幸せを噛み締める。
「リィ」
「ん?」
呼ばれて顔を上げると、サイラスが緊張した面持ちで目の前に立っていた。首を傾げるリアンの足元に片膝をつく。
「ど、どうしたの、サイ」
目線の高さを合わせ、真剣な表情でじっと見つめてくるサイラスに、リアンがたじろぐ。
「リアン・ユニヴェール」
「はっ、はいっ」
初めてサイラスからちゃんと名を呼ばれ、リアンは思わず背筋を伸ばす。
小さな家の食堂。かまどで薪がはじける音、鍋の湯がふつふつと煮える音、窓の外からは通りの喧騒が微かに聞こえてくる。そんなありふれた日常の中、向き合う二人の間だけ違う空気が流れていた。
「受け取ってくれ」
「え……」
サイラスは懐から何かを取り出して、リアンの手に握らせた。革張りの上質な箱は、リアンの手のひらにすっぽり収まるほど小さく軽い。なんだろう、と留め具を外して開けてみると、中には指輪が入っていた。地金は金。精緻な彫刻がされ、中央には鮮やかな赤と翡翠色の石が並んで嵌め込まれている。既製品ではなく、この時のために特別にあつらえられたものだとすぐに分かった。
顔を上げると、サイラスと目が合った。見慣れた顔のはずなのに、妙な緊張に襲われる。どきどきと高鳴る心臓の音が相手に聞こえてしまうのでは、と不安になった。
「改めて、リアン・ユニヴェールに結婚を申し込む。……オレと家族になってくれ」
返事の代わりに、リアンは愛しい恋人の胸に飛び込んだ。
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