【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
42 / 93

第42話 気になる情報

しおりを挟む

 仮設拠点を中心に、夜明けまで交代で見張りをしながら体を休める。索敵が得意なヴェントは当然のように見張り役に任命された。風魔法で周囲の音を集めるだけで済むので、ヴェントは普通に天幕の中でゴロゴロとくつろいでいる。

 今回はレイディエーレ隊とヒューリオン隊の合同作戦。柵に囲われた野営地が狭いため、建てられた天幕の数も少ない。よって、サイラスとリアンが二人きりになることはなかった。ラドガンがわざと二人を別の天幕に割り振ったからだ。ヒューリオン隊がいる時に先日のような状況に陥らないようにするための配慮である。当のサイラスは渋っていたが、これ以上エルガーがリアンに関心を持つよりはマシだと考え直したようだ。

「いやあ、サイラス隊長があんなに魔法ぶっ放すとこ初めて見ましたよ。すごかったですね、雷槍」
「リアンさんがいれば魔力の残量を気にせず魔法が撃てるんですもんね。さすがッス!」

 昼間のサイラスの活躍を嬉々として語るレイディエーレ隊の隊員たち。特に熊の魔獣を仕留めた雷槍の連撃は凄まじく、全員が感嘆の息を漏らしている。

「オレたちは魔法の威力が弱いぶん消費魔力も少ないんで、リアンさんに補充してもらう機会なさそう」
「一度くらい魔力付与されてみたいけどなぁ」
「ホントホント。隊長だけズルい」

 先ほどからリアンを囲んで騒いでいるのは、同じ天幕に割り振られたステインとダンテ、エルネストである。

 ヴェントは隅に転がっているが、時折風魔法を用いて外に待機している見張り役に何かを伝えていた。索敵で見つけた魔獣の位置を教えているのだ。目視より精度が高く見落としがない。そのぶん疲れが出やすいため、見つけた魔獣を倒す役目を他に任せて体を休めている。

 そんなヴェントに、リアンが声を掛ける。

「ヴェント様、魔力要りますか」
「うーん。まだいいかな」

 目を閉じたまま、ヴェントは申し出を断った。魔力の残量は半分ほど。見張りを交代して睡眠を取れば朝までに回復する程度だ。

「必要があればいつでも仰ってくださいね」
「ありがと。頼りにしてるよ」

 ひらひらと手を振り、ヴェントは再び風魔法で索敵を続ける。魔獣の森の周辺に流れる風が拾う音を全て頭の中で仕分けているのだ。もちろんこの天幕だけでなく、仮設拠点内の別の天幕の会話も拾っている。その中で重要そう又は面白そうな内容だけを収集していた。

 ヒューリオン隊の天幕は全員無言で横になっている。エルガーの方針で、休める時に休んでおくつもりなのだろう。真面目でつまらない隊だな、とヴェントは密かに思う。

 もう一つの天幕では、昼間に調子に乗って魔法を連発したサイラスが爆睡していた。起きていたら絶対リアンのいる天幕に来ていたはずだ。他の隊員たちは隊長を起こさぬよう、ヒソヒソと小さな声でやり取りしている。こちらも昼間の隊長の活躍ぶりを語り合うだけの他愛のない会話ばかりだった。

 そんな時、ヴェントが異変に気付いた。サイラスが眠る天幕から一人が抜け出し、拠点の柵の外に出て行ったからだ。それが誰なのか、ヴェントには分かっていた。

 仮設拠点の四隅に焚かれたかがり火がパチパチと弾ける中、外套が風にはためく音がする。人目を忍んで柵のそばまで近寄った誰かが何もない場所に向かって「報告を」と呟いた。すると、先ほどまで何の気配もなかったはずの場所に何者かが現れる。地面に片膝をつき、外套を羽織る青年にこうべを垂れた様子がわずかな衣擦れの音で伝わる。

「ウラガヌス伯爵家の見張りから、嫡男ゲラートがいなくなった、と。王都に出掛けた後ソルトンの屋敷に戻っていないと報告がありました」

 現れた『何者か』は壮年の男である。男は青年……ラドガンの前に跪いた姿勢のまま報告を続けた。

 キャリーの話によれば、ゲラートは王都にあるヴァーテイル男爵邸に何度も押し掛けてきたという。その後の足取りが掴めなくなっているらしい。そろそろ貴族の間で噂が広まりきった頃。醜聞を恥じて身を隠し、ほとぼりが冷めるまで表舞台に出ないつもりかもしれない、とヴェントは予想した。

「あと、アリエラ様の行方はまだ不明です。近隣の集落にそれらしいご婦人はおりません。引き続き捜索いたします」 

 その後も幾つかの報告をし終えた男は再び気配を消し、ヴェントには感知出来なくなった。夜の闇の中、一人残されたラドガンがついた溜め息が風に乗って暗い空へと掻き消えていった。叔母ドロテアから頼まれているリアンの母親アリエラ捜索がまったく進まず気落ちしているのだろう。

 男はアルカンシェル公爵家の間諜である。毎晩の定期報告とはいえ半端な調査をするはずがない。本職が探しても見つからないということは、アリエラの痕跡はどこにも残されていないということになる。

「……あなたの魔法なら探せるかもしれませんが」

 独り言のように呟かれた言葉が誰に向けられたものか、ヴェントはすぐに理解した。苦笑をこぼしてから「やだよ」とだけ風魔法に乗せて返す。そして、見張り交代の時間まで大人しく周囲の索敵に専念した。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...