【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
33 / 93

第33話 からかい甲斐のある相手

しおりを挟む


「サイラス隊長、昨夜はお楽しみでしたね」
「全ッ然楽しくない! 結局見張り役でもないのに明け方まで魔獣を狩る羽目になった」
「いいんじゃない? 俺は見張りの交代要員だったけど楽させてもらったし」

 ラドガンにからかわれ、ヴェントにも笑われて、サイラスは渋い顔で愚痴をこぼした。

 昨夜の騒ぎは他の隊員も把握している。リアンが魔力付与能力者だという件は郊外演習の時から知っていたため、きっと能力の制御を誤ったのだろうと判断されていた。

 ほぼ正解なのだが、制御を誤った原因は精神状態にある。気持ちを自覚して以来、リアンはサイラスと密着すると意識してしまう。ドキドキして落ち着かないだけならともかく魔力の生成を伴うのだから、周りにも気付かれてしまうのだ。昨夜の話をされるたび、リアンは恥ずかしさで逃げ出したくなった。街道のど真ん中で、一人で馬にも乗れないリアンに逃げるすべなどないのだが。

「馬車に乗らない? どうして」
「ええと、馬に乗る練習をしようかと」

 朝食を終えて野営道具を荷馬車に積み直した頃、リアンがサイラスに話を持ち掛けた。昨日と同じく馬車で過ごすと考えていたサイラスは、まさかの申し出に戸惑っている。

「では、オレが教えよう」
「君は昨晩ほとんど寝てないでしょ」
「それはそうだが、じゃあどうやって馬の練習をするつもりだ。まさか……」

 サイラスの視線を向けられた隊員たちが一斉に首を横に振って否定した。必要以上にリアンを構うと理不尽に怒られるのだから、誰も『二人で乗馬』などという暴挙には出ない。

 では誰が、とサイラスが疑問を抱いた瞬間、野営地に風が巻き起こる。反射で閉じた瞼を開けた時、リアンの隣には笑顔のヴェントが立っていた。

「俺が乗馬の先生でぇす!」
「……おまえか」
「俺なら落馬しかけても魔法で助けられるからね。先生役としては適任でしょ?」
「まあ、確かに」

 渋っていた理由は、他の隊員とリアンが親密になるのを阻止したいだけではない。馬に不慣れなリアンが万が一怪我でもしたら、という不安もあった。器用な彼ならそつなくこなすだろうという信頼もあり、サイラスはヴェントに任せることにした。

 サイラスは馬車で仮眠を取り、その間の指揮は副隊長であるラドガンが取る。一晩を明かした野営地から再び街道を東へと進んでいく。

 リアンはヴェントの愛馬に相乗りさせてもらい、馬に乗る感覚を覚える。サイラスが自分の馬に乗せるつもりで二人掛けの鞍を持参していたため、それに付け替えている。ヴェントに背を預けるようにして鞍に跨がり、リアンは馬上から辺りを見回した。いつもより視線が高い。馬が歩を進めるたびに揺れ動き、手綱を握っていても時々ずり落ちそうになった。

「どう? 慣れた?」
「いえ、まだ怖いです」

 しばらく進んだ頃、ヴェントが声を掛ける。

「もう少し太腿に力を入れたほうがいいかも。馬に乗るのって意外とコツが要るんだ。体幹が弱いとすぐヨロけちゃうくらい」
「そうなんですね、分かりましたヴェント様」

 助言を実行すべく奮闘するも、体力的な問題なのかうまくいかない。上達したら一人で乗せようと考えていたが、今日は乗馬の感覚を覚えてもらうだけでいいかとヴェントは思い直した。

「そういえば、ゆうべはなんで魔力生成したの?」

 唐突に尋ねられ、リアンは思いっきり馬から落ちそうになった。即座にヴェントが体を抱え、風魔法で補助しながら元の体勢へと戻す。助けられたリアンが顔を真っ赤にして俯いているので、なんとなく察したヴェントが小さく笑った。

「ほんとにもう、サイラス隊長には困ったもんだよね。天幕の割り振りもさあ、いつもなら天幕二つで五人ずつ使ってるのに一つ増やしてさあ」
「え、そうだったんですか」
「毎回予備含めて三つ持ってくけど、ぜんぶ使ったのは今回が初めてじゃないかな? 幾らリアンさんと一緒にいたいからって、ねえ?」

 同意を求められても、リアンには何も答えられない。ただ黙って手綱を握りしめ、前を向いているだけ。その様子を見て、ヴェントはハッと息を飲んだ。

「まさか隊長、ゆうべリアンさんに不埒な真似を?」
「されてないです!」

 思わぬ疑惑に、リアンがすぐさま否定した。あまりにも大きな声を出すものだから、前後にいた隊員たちから怪訝な視線を向けられてしまう。咳払いと愛想笑いで誤魔化してから、リアンはヴェントを振り返った。

「さ、昨夜は、魔獣の遠吠えにびっくりしちゃって。サイラス様は僕を安心させようとしてくれただけで」

 恥じらいで真っ赤になった顔を見て、ヴェントは口の端を上げた。からかい甲斐のある存在を見つけて嗜虐心が刺激されたのである。ただ、リアンをいじめれば例えヴェントが相手でもサイラスは容赦なく制裁を加えるだろう。故に、ヴェントがからかうべき相手はサイラス一択となる。

「へえ、ふうん、そっかあ。ちなみに、どうやって安心させてくれたか聞いてもいい?」
「えっ? ええと」

 サイラスをからかうネタを集めるべくリアンに聞き込みを始めたが、見兼ねたラドガンによって止められた。


しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...