【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

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第31話 愛のある小言

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 隊員たちに気に入られたリアンは積極的に雑用を手伝うようになった。じっとしているより体を動かしているほうが気持ちが楽になるからだ。

 元々ウラガヌス伯爵家で炊事洗濯掃除などを経験し、何でも器用にこなすリアンに隊員たちのほうが教えを乞うている。みな貴族の子息で、自分で炊事洗濯をする機会など遠征任務の時以外にない。全員が見よう見まねで乗り切っていたが、リアンの介入によって全てが劇的に好転した。

「リアンさん、芋の皮剥きがうまく出来ないんだけど」
「ナイフを持つ手は動かさないほうがやりやすいですよ」

「リアンさん、スープの味付け失敗しちゃって」
「大丈夫ですよ。香辛料を足せば美味しくなります」

「リアンさーん! ちょっといいですかぁ」
「はい、今行きますね」

 この状況に憤ったサイラスが隊員たちを叱りつけようとしたが、ラドガンが止めた。少し離れた場所まで引きずっていき、説教を始める。

「駄目ですよ、理由もなく彼の行動を制限しては」
「……だが、あいつらはリィに気安過ぎる」
「いいじゃないですか。遠征任務中はずっと一緒にいるのですよ。親睦を深めるに越したことはありません」
「それは、まあ、そうだが」

 感情を正論で言いくるめられ、サイラスは口籠る。自分でも分かっているのだ。リアンは誰からも好かれる人間であり、少し話をするだけで気に入られる。ドロテアやキャリーが最たる例だが、ラドガンもヴェントも同じようなものだろう。

「彼の世界が広がることが不安ですか」

 優しい顔で厳しい言葉を平気で口にする。ラドガンはにこりと微笑みながら、サイラスが必死になって隠そうとしている心の内側を探っていく。一歩踏み込まれるごとに、サイラスは苦い顔になっていった。

「あなたは私たちの隊長なのですから、余裕をもって構えていてくださらないと示しがつきませんよ」
「……分かっている」

 命令や圧力で行動を制限してはならない。された側は萎縮し、心を開かなくなる。自分自身がそうだったのだから、他者にいるなど論外。そう頭では理解しているつもりでも感情には蓋は出来ない。

 それでも己を律せよ、とラドガンは言っているのだ。

「味方は多いほうがいいんですよ。特に、あなた以外の」
「? どういうことだ」

 意味深な発言に思わず聞き返すと、小さな溜め息で返された。

 ラドガンとの会話には必ず意図がある。ほとんど気付けないサイラスは、きっと物事の表部分しか見えていない。それでも見捨てず支えてくれるのだから、厳しいだけではなく優しいのだろう。

「遠征の先発隊がどの隊か知っているでしょう。あなたのお気に入りがいると分かれば、『彼』がどう出るか」
「そ、れは……そうだな」

 今回の遠征は先に任務にあたっている隊と入れ替わりで任務につく。つまり、現地で顔を合わせて引き継ぎをせねばならない。先発隊の情報はもちろん団長から聞いていた。

「あなたも私も万能ではありませんからね。万が一リアンさんに何か起きても『目』が多ければ役に立つ。そして、『目』の精度は対象に関心があればあるほど高くなる」

 隊員を駒のように考えるあたり、やはりラドガンは支配者層の高位貴族だ。だが、情がないわけではない。むしろ今回は情を優先していると言っても過言ではない。リアンのためというより、リアンを可愛がっている叔母ドロテアのためなのだが。

「そのために、あいつらがリィと仲良くするのを止めるなと言いたいんだな」
「ご理解いただけたようで何よりです」

 にこりといつもの笑みを浮かべるラドガンに、サイラスは苦笑いで返した。

 同じ貴族でも考え方が違う理由は家格の差か、教育の違いか。恐らく目標としているものの違いだろうとサイラスには分かっていた。

 サイラスには目指すものがない。レイディエーレ侯爵家の後継として厳しく教育され、喰らいつくくらいの気持ちで身に付けてきたが、腹の底では家のことなんかどうでも良かった。サイラスは侯爵家の屋敷で安らぎを感じたことが一度もないからだ。

「おまえがオレの味方で良かったと思う」
「どうも」

 気を許せる存在は少ないが、ゼロではない。使えるものは使え、頼れ、と教えてくれる友人がいるのだから。

「それはそうと、関わりを妨害しなければいいんだよな」
「はい?」

 ラドガンが首を傾げている間に、サイラスは隊員たちのもとへと駆けていった。人の輪の中心にはリアンがいる。今は近くに生えていた香草の見分けかたを教えているらしい。

「オレにも教えてくれ」
「隊長、俺の場所取らないでくださいよ!」
「やかましい! そっち詰めろ!」
「横暴だ!」

 一番良い場所を奪われた隊員が抗議するが、サイラスは聞く耳を持たずにリアンに向き直っている。リアンも隊員たちの前で隊長を叱るわけにはいかないので、困り顔で説明を続けていた。

「いやあ、レイディエーレ隊結成当時とは全然違うねぇ雰囲気。騒がしいけど仲良くていいね」
「ええ。やはりサイラス隊長には笑っていてもらわないと」

 騒ぐ隊長+隊員たちを少し離れた位置から見守るヴェント。彼は風魔法で周囲の索敵を行なっていた。

「あなたは輪に入らなくていいんですか? 見張りなら代わりますよ」
「んーん。会話は全部聞いてるし、離れてても問題ないよ。それに俺、基本みんなと仲良いからね。好感度稼がなくても大丈夫」

 ヴェントは無邪気に笑い、ラドガンは苦笑をこぼした。

「私はあなたこそ味方で良かったと思いますよ」
「はは、やだな。裏がありそう」


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