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第27話 大人気ない嫉妬心 2

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 キャリーが帰った後、リアンは遠征の支度をするために買い物に出掛けた。なぜかサイラスも一緒だ。

「なんでついてくるの」
「オレも買い出ししたかったから」
「ふうん、別にいいけど」

 ルセインの中心街には様々な店が軒を連ね、日用品から服飾、雑貨などが売られている。通りを歩きながら、リアンは気になる店を覗いていった。

 ドロテアと同居する際に私服や下着類は買い足している。必要なものといえば、それらの個人的な荷物を入れて運ぶためのカバンくらいである。

「荷物って自分で持ち歩くの?」
「いや、まとめて荷馬車に積んでいく。個々で持つのは携帯食や地図、金銭だな。小型のカバンを肩掛けにしたり腰帯に取り付けたりする」
「僕も買おうかな」

 最寄りの革製品の店で着替えなどを入れる大型の旅行カバンと斜めがけできる小さなカバンを購入した。リアンが安いものを選ぼうとするたび、サイラスは「それは耐久性が低い」「こっちにしろ」と上質な製品を勧めてくる。騎士団からの支度金のおかげで賄えたが、自分用のものを買うという経験がほとんどないリアンにとっては贅沢な買い物となった。

「君といると金銭感覚が狂いそう」
「粗悪品は安いが壊れやすい。良いものは多少値が張るが長く使えるから却って安い」
「それは元手がないと言えない言葉だよ」

 荷物を持とうとサイラスが手を差し出したが、リアンは無視して自分で抱えた。些細なことでも頼りたくはないという意思表示だ。大きな革製のカバンはそれなりに重く、運びにくそうに見える。

「リィ、喉が渇いた。休憩しよう」
「じゃあ家に帰る?」
「近くに茶店がある。奢るから付き合え」
「……いいけど」

 休憩したいサイラスに付き合ってあげる代わり、という大義名分があればリアン的には構わないらしい。

 立ち寄った茶店は通り側にテラス席、店内には半個室の席が幾つかあった。大きな荷物があるため、二人はテラス席についた。注文をサイラスに任せたらお茶だけでなく菓子まで頼まれてしまい、またしてもリアンは金銭感覚のずれを感じた。

「なあ、リィ。聞きたいことがあるんだが」

 注文したものが届いてから、サイラスは話を切り出した。

「キャリーとかいう令嬢、どうするつもりだ」

 思わぬ問いに、リアンは飲みかけていた紅茶をこぼしそうになった。てっきり遠征任務に関する注意事項やら何やらの話をすると思って身構えていたのだが全く関係のない話をされて困惑する。

「どうするもなにも、あちらは貴族のお嬢様だよ? ゲラート様との婚約を破棄したからって、僕みたいな平民の男と交際するとか有り得ないよ」
「彼女は本気みたいだが」
「ご実家に帰るって言ってたし、ご両親から諭された後に次の縁談が来るんじゃないかなあ」

 ゲラートとの婚約破棄も本人がその場で宣言しただけで親同士の話はついていない。現在のウラガヌス伯爵家の状況や、キャリーの気持ちが離れているため、婚約破棄が成立する見込みは高い。

「縁談を蹴ってリィを選ぶかもしれん」
「あはは、まさかぁ」

 笑い飛ばされたサイラスは溜め息をついた。

 誰かがリアンの良さに気付いたこと自体は喜ばしいが、まさか可愛らしい令嬢から好かれているとは思ってもいなかった。告白されているリアンを見て、サイラスは自分の気持ちを初めて自覚した。同時に、ものすごく焦りを感じた。

 今思えば、魔力付与能力があると発覚する前からサイラスはリアンに惹かれていた。ラドガンやヴェントに対する気持ちとは明確に違う。

 友情だけではない、もっと特別な何か。

「僕より君のほうはどうなんだよ。セレーネ様との話はダメになったわけだし、また次のお見合いとかするの?」
「いや、しばらくはないと思う。遠征もあるし」
「それもそっか」

 次の見合いの話を振られてすぐさま否定したが、これはサイラスの希望でもある。忙しくしていれば見合いをする暇はなくなるからだ。だが、孤児院に遊びにいく余裕もなくなる。父親からの重圧や仕事の責任感から解放され、リアンにも会える。サイラスにとって孤児院は数少ない安らげる場所なのだ。通えなくなっては意味がない。

 最後に残った焼き菓子を互いに譲り合い、仲良く半分に分けて食べる。席を立つ際、サイラスはさりげなく重いほうの荷物を持って茶店を出た。

「買い物に付き合ってくれてありがとう、サイ」
「いや、オレも楽しかったから」

 ドロテアの家に帰り、部屋まで荷物を運んでもらったリアンは素直に礼を言った。

「明後日の朝、馬車で迎えに来るから待ってろ」 
「え、いいよ。君の家はアルタンだろ?」

 レイディエーレ侯爵家の屋敷は隣の衛星都市アルタンにある。さほど離れてはいないが、ルセインに寄るより直接王都に向かったほうが早い。リアンは遠慮したわけではなく効率的に考えて断ったのだが、サイラスは食い下がった。

「騎士団の都合で同行してもらうんだ。隊長のオレが迎えに来るのは当たり前だろ」
「そう? そうかぁ」

 リアンが納得しかけたその時。

「リアンさんはアルカンシェル公爵家の馬車でお送りするつもりですが」

 ──と、ラドガンが割り込んできた。

 先ほどまで客間でドロテアと談笑していたが、リアンたちの帰宅に気付いて出てきたらしい。彼の後ろにはヴェントもおり、「俺は寝坊するから前日から宿舎に泊まるけどね!」と堂々と宣言している。

「ラドガン様、いいんですか」
「構いませんよ。叔母上からも頼まれておりますし、私も行かねばなりませんからね」

 サイラスにわざわざ立ち寄ってもらうより、ルセインに住むラドガンの馬車に乗せてもらうほうが無駄がない。畏れ多いのはどちらも同じなので断る理由もない。

「では、お願いします」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いいたします」

 軽く頭を下げ合う二人の姿に、サイラスは面白くなさそうに顔をしかめた。その様子を見たヴェントはまた(隊長、やっぱ大人気おとなげないなぁ)という感想を持った。

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