【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

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第19話 仕事内容と這い寄る恐怖

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「魔法省の仕事って何をするんですか?」

 リアンはずっと気になっていたことを尋ねてみた。基本在宅で分析や研究をしていると聞いてはいたが、具体的な仕事内容については何も知らない。しばらく一緒に暮らすのだから、最低限の守らねばならない決まりや注意事項などを確認せねばならないからだ。……というのは建前で、単に興味があるから質問したのである。

「主に古い魔導具の研究をしておりますの。古過ぎて用途が分からなかったり、破損しているものの魔力回路を解明して修繕したりとか」
「魔導具、ですか」

 馴染みのない単語に、リアンは首を傾げた。

「数十年前までは貴族の間で割と流行していたのですよ。でも、魔導具を製作している国で内乱が起きてからはパッタリと出回らなくなってしまって。ですから、我が国にあるものはみな古い物ばかりで」

 説明しながら、ドロテアは仕事用の部屋にリアンを招いた。一番奥の部屋である。重厚な一枚板の四隅には金属板が付けられ、大の男が数人掛かりでも破壊できないと思わせるくらい頑丈な造りをしていた。魔導具とはそれほどまでに危険なのか、はたまた高価過ぎて狙われるのか。扉を見ただけで、リアンは少し怖気付いた。

 しかし、実際に魔導具を見て拍子抜けする。仕事用の机の上に並べられている品物は女性用の装飾品ばかりだからだ。銀製の髪飾り、首飾り、腕輪、指輪。どれも年代物らしく金属部分はくすんで輝きを失っている。

 一方、壁際のガラス棚に飾られているものは綺麗に磨き直されており、王都の一流店で売られていてもおかしくないほど見映えがする宝飾品ばかりだった。

「例えばこちらの髪飾りですけれども、端の細工が壊れたせいで魔導具としての機能が失われてしまっているのです」
「ほんの少し欠けただけで駄目なんですか?」
「壊れた箇所にもよりますわ。高価な魔導具ほど意匠が繊細で、何か一つ、飾り石を別のものに変えたり留める用の金具を取り替えただけでも使えなくなりますから」
「それは、また……」

 女性用の宝飾品として作られているからか、どれも指でつまめるほど小さい。美しい細工は同じものが二つとなく左右対称でもない。欠けた箇所を見つけるだけでも苦労するに違いない。

「わたくしは魔法が使えない代わりに魔力の流れを見ることに関しては自信があります。魔法省から依頼された魔導具を預かって、使える状態にするにはどうすべきかを調査研究しているのです」

 詳しく聞けば聞くほどドロテアの仕事内容は難しい。ひょっとしたら手伝えることがあるのではないかという考えは甘かった、とリアンは肩を落とした。だが、ただ世話になるだけでは気が済まない。

「庭に香草が植えられていましたけど、ドロテアさんが管理しているんですか?」

 この家に入る際に気になった庭について尋ねれば、ドロテアはキョトンとした顔で首を傾げた。

「定期的に管理人さんがお庭の手入れや部屋の掃除をしに来てくれているので、わたくしは全然わかりませんの。綺麗なお花が咲いてるな~とは思いますけれど、植えられている草花や木々がどんなものかは知りませんわ」
「そ、そうですか……」

 やはり、ドロテアは箱入りのお嬢様育ちである。普通の平民が住む家は、依頼しない限り管理人が通いで庭の手入れなんかしないし部屋の掃除もしない。アルカンシェル公爵家からの依頼で……いや、公爵家の使用人が管理人と称して時々様子を見に来ているだけかもしれない。

「じゃあ、食事はどうしているんですか」

 まさか毎食公爵家の料理人が作りに来ていたらどうしよう、と恐る恐る聞いてみると「ほぼ外食で済ませている」という返答だった。立地的にもルセインの中心街に近くて飲食店が多い。自炊をしなくても十分暮らしていけるが、リアンからすると贅沢に思えてしまう。

「あの、僕が食事の支度をしてもいいですか」
「リアンさんが?」
「あんまり上手くはできませんが、毎回外に食べに行くのも大変ですよね。だったら家で作ったほうがいいかなと思いまして」

 リアンの提案に、ドロテアはパァッと表情を明るくした。まるで小さな子どもが綺麗に包まれた菓子を貰った時のような、ワクワクとドキドキが混ざった屈託のない笑顔である。

「ぜひ! ぜひお願いいたしますわ!」

 嬉しそうなドロテアの反応を見て、これなら僕でも役にたてそうだ、とリアンも嬉しくなった。

 早速厨房に行くと、食材の貯蔵庫には大きな燻製肉やパン、卵、チーズ、日持ちのする根菜や芋類などが入っていた。ウラガヌス伯爵家で軟禁されていたドロテアが戻ってきたから補充したのだろう。恐らく、何者かが一緒に住むリアンに期待して材料を置いていったのだ。性格も思考も読まれている、とリアンは冷や汗をかいた。やらないという選択肢はもうない。

「ええと、では、今夜は僕が作りますね」
「まあ、楽しみですわ!」

 リアン特製の根菜と燻製肉のスープ、じゃがいもとチーズのガレット、オムレツを食べたドロテアはいたく感激した様子だった。

「この家で作った食事なんて初めてですわ! リアンさんはお料理の勉強もなさっていたの?」
「いえ、ウラガヌス伯爵家の料理長が作っている姿を見て覚えただけです」
「素晴らしいわ! わたくしも一人で暮らし始めた頃に挑戦してみましたけれど、かまどに火をつけたら危うく火事になりかけてしまって。それからは控えておりますの」

 ほとんど使われていないはずなのに、かまどの周辺だけ黒ずんでいた理由が判明した。

「リアンさん、是非また作ってくださいね」
「これくらいで良ければ喜んで」

 炊事係という役割を得て、リアンはホッと胸を撫で下ろした。が、翌朝使ったはずの材料が補充されていたり種類が増えていることに気付いて怖くなってしまった。

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