【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

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第21話 素直になれない

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 ドロテアの家に転がり込んでから数日後、リアンは同じルセイン内にある孤児院に顔を出した。

 門を潜れば、庭で遊んでいた子どもたちがすぐに気付いて笑顔で駆け寄ってくる。その中にはもちろんミリーの姿もあった。

「リィにいちゃん、ひさしぶりー!」
「いっしょにあそぼ!」

 両手どころか両足や腹、背中にまでまとわりつき、遊ぼうとせがむ子どもたちを何とか宥める。院長への取り次ぎを頼むと、年長の数人が建物内へと駆けていった。玄関先で待つ間、みんなと話をする。なにしろ一ヶ月近く来ていなかったのだ。子どもたちはリアンに詰め寄り、もっと頻繁に来てほしいと切に訴えてくる。

「実はしばらくの間ルセインに住むことになったんだ。だから、前よりは遊びに来れると思う」

 リアンの言葉に、子どもたちは「やったー!」と声を上げた。周りを飛び跳ね、全身で喜びを表す姿にリアンも笑う。

 さほど時間が経たないうちに、建物の奥から老婦人が現れた。孤児院の院長である。彼女は一人の青年を連れており、その見覚えのある姿にリアンは思わず小さな悲鳴を上げた。

「さ、サイラス、様」
「リィ!」

 略式の騎士服を着たサイラスが院長の後ろから顔を出し、リアンに笑顔を向けてくる。

「そういえば、サイにいちゃんも来てたんだった」
「おしえるの忘れてたー」

 驚きのあまり二の句が継げずに立ち尽くすリアンに対し、周りにいた子どもたちは無邪気に笑う。

「リィとサイは大事なご用事があるの。みんな、しばらく外で遊んでらっしゃい」
「ええ~、あそんでほしかったのに!」
「院長せんせいだけズルい!」

 抗議を受け、院長は苦笑をこぼした。

「あとで遊んでもらうといいわ。ね?」

 目配せで同意を求める院長に、二人は頷いた。了承しなければ離してもらえそうにない雰囲気だったからである。後で遊び相手を務めることを条件に、リアンとサイラスは子どもたちから解放された。

 応接室に通されたリアンは、サイラスが座るソファからやや離れた位置に木製の丸椅子を置いて座った。分かりやすく距離を置かれたサイラスは勢いよくソファから立ち上がり、部屋の隅にあった別の丸椅子を持ってリアンの真隣にやってくる。ムッとしたリアンは自分の丸椅子を移動させるが、その度にサイラスが追いかけてきた。

 見兼ねた院長から「それくらいにしておきなさい」とたしなめられるまで意味のない追いかけっこは続いた。

「リィ。サイは貴方と話をするために何度も訪ねてきてくれたのよ。意地を張らずに少しは相手をしてあげなさい」
「でも、僕は院長先生と話があって来たんですよ」
「そうは言ってもねえ……」

 リアンとサイラスを交互に眺め、院長は呆れたように肩をすくめた。子どものケンカの仲裁みたいだと思っているに違いない。

「私との話はサイの後にしましょうか」
「どうしてですか?」

 問われた院長はニッコリと笑ってこう答えた。

「何事も早い者勝ちよ。サイのほうが訪ねてくるのが早かったんだもの」

 話が終わったら呼びに来なさいと言い残し、院長は応接室から出て行った。もうすぐ午後のお茶の時間。子どもたちのおやつを用意するために厨房へと向かったのだ。

 急に二人きりにされ、リアンは気まずくて黙り込んだ。

 以前ケンカをした際より状況は悪くなっている。今更どの面さげて話せと言うのか、と院長に訴えたい気持ちでいっぱいになった。

 一方、サイラスはようやく二人きりになれて表情を綻ばせていた。肩が触れ合うくらい近くに丸椅子を寄せ、腰を下ろしている。

「元気そうで良かった。あの後どうしてるか、ずっと気になっていたんだ」
「……」

 先日の郊外演習時に起きた断罪劇により、リアンの日常は全てひっくり返った。それほど大きな事件だった。隊を仕切る立場のサイラスは部外者のリアンに付き添うわけにもいかず、結局演習場では挨拶すら出来ないまま別れるしかできなかった。

「ラドガンから、リィがルセインに引っ越したと聞いた。だから、絶対孤児院に顔を出すだろうと思って時間を作って待ち構えていたんだ」

 ラドガンの名前を聞き、リアンは顔を青くした。彼には初めて会った時に秘密を握られて脅された。その上、養い親であるグラニスを目の前で完膚なきまでに叩きのめされている。見た目が穏やかで美しい反面、中身は非常に恐ろしい。そのラドガンの叔母ドロテアの家でお世話になっている以上、彼との縁は切れないのだ。

 そんなリアンの心情に気付きもせず、サイラスは無邪気に再会を喜んでいる。

「なあ、リィ。オレはおまえがどこの誰なのかとか、特殊な能力の有無とかはどうでもいいんだ」
「サイラス様」
「二人だけの時は様付けすんなって言っただろ!」
「申し訳ありま……、いや、ごめん。サイ」 

 リアンが呼びかたと口調を改めると、サイラスは満足そうにニカッと笑った。そして、ほんの少し表情を曇らせる。

「でも、前と同じには出来ない」

 その言葉を聞いて、やっぱり、とリアンは思った。

 最初から分かっていたことだ。高位貴族の跡取り息子だと知った時、自分とは違う世界で生きている存在なのだと感じた。孤児院にいる間だけは対等な関係でいられたけれど、それは相手のことを何も知らなかったから。身分や立場の差を知れば知るほど今までのようには振る舞えない。

 それに、セレーネを魔力付与能力者に仕立ててサイラスを騙そうとしたのだ。グラニスから命じられたとはいえ罪は罪。騙されたサイラスはリアンに怒る権利がある。

 だから、今日は別離の挨拶をするために来たのだと思い込んでいた。

「オレ、しばらく孤児院に来れなくなる」

 予想していたはずなのに、リアンの頭は真っ白になった。
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