【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

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第11話 魔力付与の実演

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 二度目の顔合わせ当日。

 リアンはグラニスとセレーネと共に馬車でレイディエーレ侯爵領であるアルタンに出向いた。ドロテアの指導により魔力操作が可能になり、セレーネとの打ち合わせも済ませている。

「リアン頼むぞ。失敗は許さんからな」
「……はい、分かってます」

 馬車を降りる前にグラニスから念を押され、リアンは小さく頷いた。

 前回は本邸内にある応接の間に通されたが、今回は庭園の片隅にある四阿あずまやに案内された。季節の花が美しく咲き誇るエリアではなく、芝生に覆われた広場のような場所だった。四阿にはレイディエーレ侯爵とサイラス以外に先客がおり、遅れて到着した三人を出迎えた。

「はじめまして。私はラドガン・アルカンシェルと申します。貴女がセレーネ嬢ですね。サイラス隊長から可愛らしい令嬢だと聞いておりました」

 穏やかな微笑みを浮かべたラドガンがセレーネに歩み寄り、胸に手を当てて軽く頭を下げて挨拶をした。銀髪の美青年から褒められ、セレーネは頬を染めながらドレスの裾をつまみ、礼をして応える。

 続けて、ラドガンの背後から亜麻色の髪の青年が顔を出した。

「俺はヴェント・レクサンドール。隊長のお相手がどんな子か気になって来ちゃいました! いやあ、ホント可愛いお嬢さんですねぇ」

 ヴェントは無邪気な笑顔をセレーネやグラニスに向け、最後にサイラスを揶揄うように小突く。

「騒がせて済まない。彼らはオレの隊の部下なのだが、どうしても同席すると言って聞かなくて」

 サイラスの謝罪に、グラニスは「とんでもない!」と首を横に振った。

 この場には王都を囲む三つの衛星都市を治める三家の貴族が揃っている。田舎街の領主に過ぎないウラガヌス伯爵家からすれば、レイディエーレ侯爵家だけでなくアルカンシェル公爵家やレクサンドール侯爵家との繋がりを持つまたとない好機である。

「サイラス様は慕われておられますな。これもお優しい人柄によるものでしょうか、閣下」

 グラニスが声を掛けるが、レイディエーレ侯爵は片眉を上げて笑い飛ばした。

「優しさなんぞで人を従えさせられるか。アレは貴族学院時代からの馴れ合いに過ぎん。重要なのは他者より強い力を持つことだ」

 父侯爵の厳しい言葉を聞き、サイラスが一瞬表情を曇らせる。しかし、すぐさまヴェントが「お茶冷めちゃいますよ!」と声を掛けて場の空気を変えた。サイラスのための行動だと気付き、リアンはヴェントに好感を持った。

 単なる側付きに過ぎないリアンはセレーネが座る椅子の背後に立って控え、全体を見渡した。この場にいるのはレイディエーレ侯爵家当主とサイラス、ラドガン、ヴェント、そしてウラガヌス伯爵家当主グラニスとセレーネである。給仕係は邪魔にならない位置まで下がって待機。侯爵の護衛が数名庭園の各所に散らばっており、部外者の侵入を阻んでいた。

 それにしても、とリアンが再び視線を四阿に戻す。燃えるような赤い髪のサイラスとは異なり、父親であるレイディエーレ侯爵の髪は白髪混じりの金色。この場にはいない侯爵夫人がきっと赤い髪をしているのだろう、とぼんやりと考える。

 髪色が異なる父子を見て、リアンは昔一度だけ見た肖像画を思い出していた。今はもう外され、屋敷のどこかに仕舞い込まれてしまったが、リアンの母親の髪はグラニスやゲラート、セレーネと同じ栗色。リアンの翡翠色とは似ても似つかない色で、自分だけが仲間はずれにされたようで悲しかった。サイラスも同じ気持ちを抱えているのかもしれない、と思い至る。

 ふと視線を感じ、リアンは顔を上げる。すると、対面の椅子に座るラドガンと目が合った。彼は目を細めて微笑むと、何事もなかったかのようにヴェントとの会話に戻っていった。

「さて、そろそろ見せてもらう」

 お茶を飲み終え、給仕係を下がらせてから、レイディエーレ侯爵はグラニスに向けて目配めくばせをした。今日の顔合わせの目的である『セレーネの能力の証明』をしろ、ということだ。

 場所を屋外に指定した理由は魔法の使用を想定しているため。四阿周辺は開けており、多少暴発しても問題はない。

 まずサイラスが庭園の中央に立ち、数歩離れた位置にセレーネも立つ。他の者は椅子に腰掛け、体だけ二人のほうへと向けていた。リアンは四阿の隅で直立不動の体勢で控えている。

「それでは、始めさせていただきますわ」

 仰々しく両手を天に掲げるセレーネ。その動きに合わせ、リアンは深呼吸をしてから念を込めた。注目されている対象はセレーネで、リアンではない。予想より緊張せずに済んでいるからか魔力の操作は順調だった。

 遠隔でセレーネの周囲に生成した魔力を集めていく。まるでセレーネ自身が大きな魔力の塊を生み出したように見えていることだろう。レイディエーレ侯爵が感嘆の息を漏らし、グラニスが安堵する様子が見えた。

 次に、サイラスに視線を移す。彼は今までに見たことがないほど強張った顔をしており、拳は震え、額には脂汗をかいていた。何故そんなに緊張しているのだろうと疑問を抱きつつも、リアンは魔力の操作を続ける。

 事前の打ち合わせ通り、セレーネは天に掲げた両手をサイラスへと向けた。同時に魔力の塊を移動させる。

「う、わ」

 魔力の塊がぶつかった途端、サイラスは声を上げた。魔力が体内に取り込まれ、消える。そして、次の瞬間、彼を囲むように何本かの火柱が上がった。燃え盛る炎が発する熱が周囲の気温を上げていく。おそらく急激な魔力供給により魔法の制御ができなくなったのだろう。咄嗟にヴェントが風を起こして熱波の向きを変え、一番サイラスの近くにいたセレーネを炎から守った。

「──サイラス」

 騒然とする中、レイディエーレ侯爵が立ち上がる。怒気を孕んだ低い声で名前を呼ばれたサイラスはびくりと肩を震わせ、炎の柱の威力を少しずつ弱めてから跡形もなく消し去った。庭園の芝生は焼け焦げており、白い煙が上がっている。

「ヤケドとかしてないですか、お嬢さん」
「先ほど風魔法で守ってくださったのはヴェント様でしたのね。おかげでなんともありませんわ」
「いやいや、無事でなにより」

 やや放心気味のサイラスに代わり、ヴェントがセレーネに声を掛けた。守られたセレーネは媚びた笑みをヴェントに向け、大袈裟にお礼の言葉を繰り返している。

 人前での魔力付与能力の証明はできた。グラニスは上機嫌でレイディエーレ侯爵に話し掛けている。見合い話の進展は間違いないだろう。

 とりあえず無事に終わったというのに、リアンはサイラスの様子が気になって仕方がなかった。彼の意図しない形で魔法が発動した原因は付与した魔力が多過ぎたからか、そもそも魔力の質に問題があったからか。

 サイラスの様子を確かめようと視線を彷徨わせると、いつのまにかすぐそばにラドガンが立っていた。にこりと微笑み、周りに聞こえないくらいの小さな声でリアンに話し掛ける。

「少しお話よろしいですか?」
「は、はい」

 公爵家の人間に逆らえるはずもなく、リアンは困惑顔で頷くことしかできなかった。
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