【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
9 / 93

第9話 頼れる部下

しおりを挟む

 他人の目がない隊室内で、サイラスは二人に詳しく事情を話し始めた。

「オレが時々ルセインの孤児院に通っていることは知っているだろう?」
「ええ。あそこは我が家が運営しておりますから」

 心無い噂話や跡取りの重圧に疲れ果てたサイラスが、身分や立場を忘れて過ごせる唯一の場所がルセインにある孤児院だった。貴族学院卒業後から行き始め、現在に至るまで休みのたびに通うようになった。

 その衛星都市ルセインを治めるアルカンシェル公爵家がラドガンの家だ。貴族が出入りする場所では気が休まらないだろうと、ラドガンが勧めたことが切っ掛けで孤児院に通うようになったという経緯だ。ちなみに、もう一つの衛星都市ブルケンを治めているのはヴェントの家であるレクサンドール侯爵家である。

「孤児院でたまに会う友人がいるんだが」
「以前も仰ってましたよね。『久しぶりに会えた』とか『楽しかった』とか嬉しそうに話していたことを覚えておりますよ」

 休み明けは毎回その友人に会えたか会えなかったかでサイラスが一喜一憂するため、ラドガンもヴェントも記憶している。

「昨日の見合い相手の側付きがその友人だったんだ。令嬢とどういう関係か尋ねたら、遠縁なのだと」

 孤児院で会う時だけの友人と別の場所で会えた嬉しさで、サイラスは見合いどころではなくなった。自分の素性も知られた今、なんとしても彼との繋がりを持たなければと考えた。

「……もし伯爵家に雇われているだけならレイディエーレ侯爵家うちに来ないかと誘ったら、めちゃくちゃ怒らせてしまって……」

 懺悔を聞き、ラドガンとヴェントは呆れ顔で溜め息をつく。サイラスは愚かではないが不器用で、時々言葉選びを間違える。意図せず相手を怒らせたり、誤解を招いたり。友人が怒った理由もそのせいだろうと簡単に予想できた。

「気持ちは分からないでもないですけれど、勤めている家から買収するような言いかたは感心しませんね」
「お、オレはそんなつもりでは」
「実際ご友人は気分を害されたのでしょう?」

 ラドガンの言葉に、サイラスはうなだれる。

「そんな誘いに二つ返事で応じるような者に貴族の側付きが務まるとは思えません。職務を軽く見られたと誤解されて当然です。しかも、実績などを認めての引き抜きならともかく、顔見知りの気安さから来る軽い誘いですよ。普通の神経をお持ちの方なら承諾するわけないでしょう」
「……ッ」

 厳しい指摘に、サイラスの脳裏に昨日のリアンの姿がよみがえる。レイディエーレ侯爵家に来ないかと誘った途端、リアンは怒りを露わにして『僕に対する侮辱だ』と言った。

「重く考え過ぎじゃないですかぁ? 友だちなら次に会った時に『ごめん』って謝りゃ済む話でしょ」
「ああ。もちろんその場で謝罪したし、許してもらえるまで謝り続けるつもりだ」

 孤児院で見せた笑顔とは真逆の冷めた表情を思い出すたび、サイラスは後悔の念に襲われた。リアンの矜持を傷付けてしまったことを誠心誠意詫びて許しをもらうまで胸のつかえは取れそうにない。

「ていうか、見合い相手の令嬢とケッコンしたらその友だちも自動的に付いてくるんじゃないですか? だったらワザワザ引き抜かなくてもいいと思うんですけど」
「それは……なんか嫌だ」

 ヴェントの提案にサイラスは眉をしかめる。

「お相手の令嬢が気に入らないとか?」
「いや、好みの問題では」

 記憶の中の見合い相手セレーネは姿も声もおぼろげで、何を話したかすら覚えていない。覚えているのは、彼女の後ろに控えるリアンの姿。自分を見つけて驚き、目を見開いた時の表情の変化は一瞬も見逃さなかった。セレーネよりリアンのほうが気になって仕方がなかった。

 しかし、セレーネとの縁談は普通の見合い話ではない。

「おまえたちには隠しても意味がないから正直に言うが、見合い相手の令嬢には『魔力付与』の能力があるらしい。次に会う時に能力を見せてもらうことになっている。もし彼女の能力が本物ならば、父は結婚話を進めるだろうな」

 決定権はレイディエーレ侯爵にあり、当事者のサイラスにはない。せめて少しでも一緒にいて安らげる相手を選んでくれるようにと願うばかりだ。

「お相手って、たしかウラガヌス伯爵家の令嬢でしたっけ。そんな能力を持っていたのなら貴族学院で話題になってそうだけど、俺は知らないですよ」
「私も聞いたことがありませんね」

 ヴェントは風魔法を操る。攻撃や防御だけでなく、音を遮断したり遠くの話し声を拾ったりと様々な使いかたがある。情報を得るために噂話を収集することも多い。珍しい能力を持つ者がいれば、ヴェントの耳に入らないはずがない。

 ラドガンは『魔力付与』という言葉に引っ掛かりを覚えた。記憶を手繰り、ふと思い出す。

「そういえば、少し前に孤児院の子どもが魔力中毒を起こしたと報告がありました。魔力を持たないはずなのに不思議なこともあるものだと疑問に思っていたのですが」

 ルセインの孤児院はラドガンの家からの出資で運営しており、問題が起こればすぐ報告が上がってくる。孤児院で保護されている子どもたちは平民のみ。今回の件を受けて改めて調査したが、子どもたちの中に魔力を持つ者は存在しなかった。

「ルセインの孤児院によく出入りする貴族といえば貴方しか浮かびませんが、他者に魔力を受け渡すなんて真似は出来ませんよね」
「そもそも魔力が少ないからな」

 サイラスは高位貴族だが、魔力を作り出す機能に難があるらしく強力な魔法を使うことが出来ない。だからこそ父親であるレイディエーレ侯爵は格下であるウラガヌス伯爵家からの見合い話に応じた。セレーネの魔力付与能力が本物ならば魔力不足を補えると期待して。

「貴方のご友人はウラガヌス伯爵家の遠縁。つまり貴族の血を引いているのですよね?」
「ああ、おそらく」
「では魔力を持っている可能性がありますね」
「リィが魔法を使うところは見たことはないが、有り得ん話ではない」

 仲直りする方法を相談していたはずが質問責めにされ、サイラスは首を傾げる。更に幾つか尋ねたラドガンはにっこり微笑みながらこう告げた。

「ご友人との仲を取り持って差し上げますから、次の顔合わせには必ず私たちを同席させてください」と。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...