上 下
63 / 65

第63話 もっと前から

しおりを挟む

 昨日の今日だ。こんなことを言われても信じてもらえないとは思う。
 今はまだ迅堂じんどうくんに対する気持ちほどではないけれど、土佐辺とさべくんを好きだという気持ちはこの先きっともっと強くなる。そう確信していた。

「……ッ」
「うわっ」

 しばらく無言で立ち尽くしていた土佐辺くんが突然手を伸ばし、僕の身体を抱き寄せた。
 身長差のせいで彼の肩口に顔を埋める状態となる。びっくりし過ぎて何も抵抗できずにいたら、抱き締める腕の力が更に強くなった。身動きひとつできなくて、彼が今どんな顔をしているのか全然見えない。

「──安麻田あまた、好きだ」

 昨日聞いたばかりの告白にはまだ慣れなくて、その上こんな風に抱き締められては、どうしたってドキドキしてしまう。

「ずっと好きで、好きで、諦められなかった」

 頭のすぐ上から降ってくる言葉は普段の土佐辺くんからは考えられないくらいに弱々しかった。制服越しに伝わる体温が熱い。彼の声が耳に届く度に、つられて僕まで熱くなる。

「ずっと、って……いつから」
「小学校の頃から」

 返答に驚いて思わず顔を上げると、至近距離で目が合った。照れて真っ赤になっているのに、土佐辺くんは目をそらさない。

「双子が珍しいからってからかわれた時、安麻田は毎回妹をかばってただろ。同じ顔で同じ背丈なのに、自分だって泣きそうなくせに、ちゃんと『お兄ちゃん』してるなって思ってた」

 からかわれた経験は何度もある。同級生も双子の存在に慣れたのだろう。二年生になる頃にはなんにも言われなくなった。
 つまり、土佐辺くんはそれ以前から認識していたのだ。双子の片割れとしてではなく、僕自身を。

「騒がしいのが苦手で、外で遊ぶより教室で本を読んでいるほうが好きで、友だちと話す時も聞き役に回ってただろ。オレとは真逆過ぎて、なんて声をかけたらいいかすら分からなかった」

 仲良くなりたくてもどうしたらいいか分からず、なにもできなかったのだと彼は言う。

「なのに、二人そろって迅堂に惚れて。あの時ほど自分の慎重な性格を恨んだことはない」

 遠足で迷子になった時に探しにきてくれた迅堂くんに、僕と亜衣あいは惹かれた。当時の土佐辺くんには任された班を放り出す決断ができず、今でも悔やんでいる。

「安麻田が迅堂を見る目が自分に向けばいいのにって、ずうっと思ってたよ」

 僕と亜衣が迅堂くんを好きになった理由は助けに来てくれたことだけじゃない。騒がしくて苦手だった彼が意外と情に厚くて優しいというギャップとか、仲間にだけ見せる屈託のない笑顔とか、小さなことの積み重ねだ。もちろん遠足の件は大きな切っ掛けではあったけれど。

 あの時に助けに来たのが土佐辺くんだったら、僕たちはどうなっていただろう。

「待って。じゃあ、土佐辺くんは遠足の前から僕が好きだったの?」
「うん」
「全然知らなかった……」
「気付かれないようにしてたから」

 感情を隠すのが下手な僕と違い、土佐辺くんは上手く隠せていたと思う。小中高と同じ学校だというのに、ほとんど接点がなくて分からなかった。むしろ嫌われていると思っていた。

 それを踏まえて今回の件を思い出すと、色々と腑に落ちる。

「前に『好きな人が目の前にいれば触りたくなる』って言ってたの、それも僕?」
「二人きりの教室であんな話題になって、抑えるのにどれだけ苦労したか」
「ご、ごめん」

 それだけじゃない。土佐辺くんにはエロ本話でからかわれたり、部屋で二人きりになったりしている。あの時から彼はずっと僕を意識していたのか。かなり際どい話をしていたような気がする。

「あれ、僕、もしかして鈍い……?」
「安麻田は鈍いままでいい。でないと、オレに余裕ないのがバレちまう」

 ここまで暴露した癖にまだ取り繕おうとする姿が可愛く思えて、僕は彼を抱き締め返した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

好きか?嫌いか?

秋元智也
BL
ある日、女子に振られてやけくそになって自分の運命の相手を 怪しげな老婆に占ってもらう。 そこで身近にいると宣言されて、虹色の玉を渡された。 眺めていると、後ろからぶつけられ慌てて掴むつもりが飲み込んでしまう。 翌朝、目覚めると触れた人の心の声が聞こえるようになっていた! クラスでいつもつっかかってくる奴の声を悪戯するつもりで聞いてみると なんと…!! そして、運命の人とは…!?

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

処理中です...