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第54話 将英学園文化祭
しおりを挟むあれから特に何事もなく、クラスの出し物の準備も着々と進み、無事に文化祭当日を迎えた。
「あはは、みんな可愛い~!」
「記念に写真撮ろ、写真!」
うちのクラスの出し物は『男装&女装カフェ』だ。全員が男装または女装をして客引きから調理、給仕まで行う。男女別で空き教室を借りて衣装に着替えて教室に戻り、撮影大会が始まった。
僕は亜衣から借りた肩が出るオフショルダーのニットに膝丈のスカートという恥ずかしい格好をし、ビジューとかいう大粒のアクリル製パーツ付きのヘアピンで髪を留めている。前にメイド服を試着した時にも思ったけど、スカートの中がスカスカして心許ない。女の子ってこんな服で外歩いて平気なの?
土佐辺くんはお姉さんから借りたスーツ。ワインレッドのスタンドカラーフリルブラウスに膝上丈の黒いタイトスカート、黒ストッキング。細身の高身長な彼にぴったりの、大人っぽい衣装だ。髪型はいつも通りだけど、何のこだわりなのか色付きリップを付けている。これでハイヒール履いてたら完璧なキャリアウーマンだ。
駿河くんは檜葉さんから借りたドルマンスリーブのワンピース。ゆったりめサイズを腰の辺りを紐ベルトで締めている。下はスキニーとかいう細身のズボンを履いていた。落ち着いた色合いで、真面目な駿河くんによく似合っている。
檜葉さんは駿河くんから借りた男モノのスーツ。長い髪を後ろで一つに括り、ピシッとしたモノトーンのスーツに身を包んだ彼女は男装の麗人という言葉がぴったりの凛々しさ。女性客から人気が出そう。
他のクラスメイトたちは、女子は学ランや甚平、男子は浴衣やスカートなど。みんな見た目も服のジャンルもバラバラだけど、苦労して選んだ衣装がよく似合っている。
一般のお客さんが入るまでの時間、カフェの会場となる教室の飾り付けや売り物の最終確認を行う。
四つ合わせた机にテーブルクロスを敷き、手作りのメニュー表を置く。
室内の壁には手のひらサイズの長方形にカットした段ボールを不規則に並べて貼り付け、レンガ造りのような内装にした。入り口に置く看板もデザインが得意な子が頑張って作ってくれた。
廊下には謎が多いファッション専門用語を写真やイラスト付きで簡単に解説したポスターを何枚か展示し、中の席にも同じ内容のものをファイルに綴じて見れるようにしてある。
「将英ファイッ!」
「「「おーッ!!」」」
スポーツ推薦組が音頭を取って全員で円陣を組み、威勢の良い掛け声で気合いを入れる。
文化祭が始まり、一般のお客さんの入場が始まった。
僕と土佐辺くんは午後から実行委員のパトロールの予定が入っている。みんなが接客や給仕に慣れるまではクラスの手伝いをする予定だ。シフトに入っている人は店員の目印として全員腕に腕章を付け、首から名札を提げている。
「いらっしゃいませー!」
廊下にいる呼び込み係がお客さんを連れてくる。ちぐはぐな格好をしている店員を見て驚く人、喜んで写真を撮る人など反応は様々。みんな帰る頃には笑顔になっていた。
飲食のほうも、ホットプレートで手軽に用意出来るものばかり。メニューは工科高校の文化祭を参考にさせてもらった。
「瑠衣~、遊びに来たよ~」
「亜衣、それに迅堂くんも来てくれたんだ!」
オープンから一時間ほど経った頃、二人が一緒にやってきた。亜衣は僕と色違いの服を着ている。小学生の頃以来の双子コーデだ。盛り上げるためにわざと同じデザインの服を着てきたな。
「安麻田くんの妹さん? そっくりね!」
「ツーショット写真撮ってあげる!」
「ありがとーっ! 撮って撮って~!」
接客そっちのけでクラスの女子がスマホを向けた。亜衣はお客さんの立場なんだけど、居合わせた他のお客さんからも余興のひとつだと勘違いされている。本人はノリノリで応じているからいいか。
「……気合い入ってるなぁ」
「オレは学校行事でも手は抜かねーからな」
仁王立ちで出迎えたタイトスカートの土佐辺くんを見て、迅堂くんはやや引いていた。すぐに僕と亜衣のほうに向き直り、他のお客さんたちに混じってスマホを構える。
「うん、可愛い可愛い」
「でしょー! もっと撮って晃!」
「おい、オレも撮れよ」
「割り込むな土佐辺」
亜衣に腕を組まれ、苦笑いを浮かべて撮影に応じる。適当なところで切り上げ、二人を席に案内して注文を取る。
「ワッフルとパンケーキ、どっちにしよう」
「俺がワッフル頼むから亜衣はパンケーキにすれば? 分けてやるから」
「ありがと晃!」
今までは二人のやり取りを見て胸が痛くなったけど、今日はほとんどなにも感じなかった。
諦めると決意したからだろうか。溜め込んできた想いが先輩や土佐辺くんに知られたことで解放され、少しずつ気持ちが薄れているのかもしれない。
「オレが運ぶから、安麻田は新規のお客さんを案内して」
「う、うん」
さりげなく土佐辺くんが亜衣たちの対応を代わってくれた。僕がツラい想いをしないように、という気遣いだ。
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
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