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第47話 ベッドの上の攻防
しおりを挟む先輩から届いたメールに添付されていたのは、あの日撮られた二枚の写真。『僕と迅堂くん』そして『僕と土佐辺くん』が隠し撮りされたものだ。
『好きな人とのツーショット、嬉しい?』
煽るようなメールの文面。
先輩はどういうつもりで写真を送ってきたんだろう。なにか思惑があるのか。それとも、本当に僕を喜ばせるために?
スマホ画面には太陽のような眩しい笑顔の迅堂くんと僕が映し出されている。わざわざ休憩時間に声を掛けてくれたことが嬉しくて、いつもより感情が表に現れてしまったのかもしれない。この表情を見れば、聡い人には僕が迅堂くんのことが好きだと分かってしまう。
「安麻田、お待たせ」
「うわっ」
部屋のドアが開き、ペットボトルとコップを持った土佐辺くんが入ってきた。写真に見入っていた僕は彼が階段を上がってくる足音に気付かず、急に声を掛けられてびっくりしてしまった。咄嗟に画面を消そうとして手が滑り、ベッドの下にスマホを落としてしまう。
わたわたと慌てる僕を見て、土佐辺くんは笑いながら勉強机に持ってきたトレイを置いた。
「なんだ。興味ないとか言って、やっぱエロ本探してたんだろ」
「ち、違う。びっくりしただけだから」
僕が動揺している間に土佐辺くんがスマホを拾い上げた。画面はまだ点いている。写真を見られたらマズい。彼が見てしまう前にスマホを取り返さなくては。
考えるより身体が勝手に動いて、自分のスマホを掴もうと手を伸ばす。驚いた土佐辺くんは反射的に身体を捻り、バランスを崩して僕のほうへと倒れ込んだ。
「ぐえっ」
「わ、悪い。大丈夫か」
ベッドに腰掛けていた僕は仰向けに倒れ、その上に土佐辺くんが伸し掛かる。一瞬彼の全体重が掛かり、潰れたカエルのような呻き声を上げてしまった。すぐに身体を退かし、謝る土佐辺くん。
しかし、彼はベッドの上に転がる僕のスマホを再び手に取った。
「この写真……」
「見ないで!」
画面を見て、土佐辺くんの表情が変わった。
たまたま見掛けた先輩が気付いたくらいだ。勘の良い彼ならすぐに僕の気持ちに気付くだろう。
「この前の文化祭の時のだよな」
「ち、違うんだ土佐辺くん、それは」
慌てて上半身を起こし、彼の腕に縋り付く。
必死に弁解しようとするも言い訳が思い付かず、しどろもどろになってしまう。からかわれるか。軽蔑されるか。せっかく仲良く話せるようになったのに。
焦りと不安で青褪める僕とは逆に、土佐辺くんはなぜか笑顔だった。嬉しそうにはにかみながらスマホ画面をこちらに向ける。
「誰が撮ったんだよ、こんな写真」
「……あれ?」
そこには『僕と迅堂くん』ではなく、もう一枚の『僕と土佐辺くん』の写真が表示されていた。落とす直前、指が画面に当たって次の画像をクリックしていたようだ。間一髪助かった。
「いつの間に撮られてたんだ?」
「さ、さあ。亜衣の友だちかな……? さっき送られてきたところで」
「ふうん」
亜衣を通じて写真が送られてきたということにしておく。その答えに納得してくれたようで「オレにも転送して」と頼まれた。ようやく自分の手にスマホが戻り、ホッと息をつく。
「オレも撮った写真送る」
「じゃあ僕も送るね」
お互い送り合った写真は看板や売り物といった参考になりそうなものばかりで人物が写っているものは意外と少なかった。ツーショット写真は先ほど送られてきたものしかない。いや、もう一枚あるにはあるが、それは写真が貼られた掲示板を撮影したもの。ツーショット写真自体のデータはない。
「お化け屋敷の記録保持者の記念写真、あれデータ残ってないかな」
「亜衣に聞いてみる。あったら送ってもらうね」
その後は漫画や小説の話なんかをして、暗くなり始めた頃に帰ることに。「リーの散歩のついでだから」と家の前まで送ってくれた。散歩紐を持たせてもらったりしているうちに、あっという間に家に着く。
「また明日。ホームで」
「うん、また明日」
多少ヒヤヒヤしたけれど、何事もなくて良かった。
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