【完結】なんでも知ってる土佐辺くん。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
41 / 65

第41話 あらぬ誤解

しおりを挟む

 考え事し過ぎてぼんやりしていた僕を心配して、土佐辺とさべくんが家まで付き添ってくれた。

「送ってくれなくてもいいのに」
「オレがやりたいからやってるだけだ」

 いつもなら最寄り駅近くの交差点で別れるのに、学校帰りに家まで一緒に行くのは初めてだ。

「今の安麻田あまたはボーッと歩いてるうちに溝にハマりそうだから放っておけないんだよ」
「そこまでぼんやりしてないよ」
「でも、授業中も昼休みも心ここに在らずって感じだっただろ。体調不良じゃないよな。なんか悩みとか?」

 土佐辺くんは勘が鋭い。
 いや、僕が分かりやすいだけか。

「いま思うと、土曜に文化祭見に行った帰りくらいから少しおかしかったよな」
「……っ」
「遊び疲れただけかと思ってたけど、もしかして、なにかあったのか?」

 隣を歩く彼に尋ねられ、僕は思わず足を止めた。カバンを持つ手が微かに震え、唇を噛む。

 黙っていてもそのうち全部バレてしまいそうだ。嘘をつくのは得意じゃない。第一、心配してくれているのに誤魔化し続けるのも申し訳ない。

 でも、僕の迅堂じんどうくんに対する気持ちだけは内緒にしておかなくては。

「じ、実はね」
「うん?」

 意を決し、口を開く。

「……この前の文化祭の時、亜衣あいがメイド服着てたでしょ? あれを僕に着せようって話になってて」

 別件だが、これはこれで悩んでいる。
 亜衣が文化祭で着たメイド服は、呼び込み担当の女子数名がディスカウントショップで個人的に購入したものだ。つまり、僕の家にはあのメイド服がある。元々女装用に服を貸してもらう予定だったが、せっかくだから私服よりメイド服にしたら良いんじゃないか、という話になったのだ。

「ああ、あれか。悪くないな」
「いやいやいや」

 クラスメイトのほとんどは女装や男装をするとはいえ普通の私服だろうに、僕だけメイド服を着ていたら目立つじゃないか。女装に気合い入れ過ぎだってドン引きされてしまう。

「メイド服以外貸さないとか言い出すし」
「実際に文化祭で使うかどうかはともかく、いっぺん着てみればいいのに」
「ヤだよ!」

 僕は確かに女顔だけど、普通の女子よりは肩幅もあるし筋肉もついている。フリフリの衣装が似合うとは思えない。それに、同じメイド服を着たら嫌でも亜衣との差が分かってしまう。文化祭には迅堂くんも遊びに来るかもしれないのに。

「まあまあ。おまえの妹だって一度着た姿を見せれば気が済むだろ。そうすりゃ普通の服を貸してくれるんじゃね?」
「そ、そうかな」

 どちらにせよ女装するのは確定なんだけど、フリフリのメイド服に比べれば普通の服のほうが百倍マシだ。

「着たところを写真に撮って見せてやれば?」
「うーん、それで済むなら……」
「じゃ、早速今から着てもらおうか」
「えっ今から?」
「オレが写真撮ってやるから」
「は???」

 勢いに押され、僕はまた土佐辺くんを自分の部屋に通してしまった。

 クローゼットには亜衣が無理やり置いていったメイド服が掛かっている。ツヤツヤした薄くて安っぽい生地だけど、デザインはなかなか可愛いと思う。在庫一掃セールで二千円くらいで買えたとか何とか言っていた。

「ほ、ホントに着なきゃダメ?」
「今着ないと、文化祭でクラスメイトどころか一般の客にもメイド姿を見られるぞ」
「それは絶対やだ!」

 制服の上から着ようとしたら、土佐辺くんから止められた。

「それで妹が納得すると思うか?」
「……やっぱりダメか」

 仕方なくカッターシャツとスラックスを脱ぎ、背中のファスナーを下ろしてメイド服に袖を通す。スカートがスースーして落ち着かない。

「ファスナー上げてやるよ」
「あ、ありがと」

 首の後ろから腰辺りまであるファスナーは一人では手が届かなくて閉められない。土佐辺くんが後ろに立ち、閉めてくれることになった。
 しかし。

「き、キツい……!」
「途中までしか閉まらねーな」
「やっぱ無理があるよね」

 亜衣にはぴったりのサイズでも、男の僕にはやはり小さかった。ウエストはともかく肩周りや胸の辺りが窮屈で動きづらい。下手をすれば服が破れてしまいそうで腕を上げることすら出来ない。男女の体格差を身をもって思い知る。

「似合ってはいるんだけどなぁ……思うように動けないんじゃ文化祭で着るのは無理だな」
「ファスナーが閉まらないんじゃね」

 土佐辺くんはスマホで写真を撮っていた。サイズ的にメイド服が無理だと分かったのだから、もう撮る必要はないのでは?

「スカート、おまえの妹が着てた時より短い」
「え、そう?」
「もうちょい長くなかったか? これくらい」

 言いながら、土佐辺くんがしゃがみこんで僕の膝上くらいを指し示す。
 その瞬間、ガチャッとドアが開いた。

瑠衣るい~、知らない靴があったけど誰か来てるの?」

 ノックもせず、亜衣が部屋に入ってきたのだ。いつの間にか学校から帰ってきていたらしい。

「あっ」
「あっ」
「あっ」

 亜衣の視界に映るのは、メイド服に身を包んだ兄と、兄の前に座り込んで太ももを触ろうとしている男の姿。

「ご、ごめーん! お邪魔しました~!」
「ちっ違う、亜衣! 話を聞いて!」

 非常に不名誉な誤解をされた気がする。

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

この腕が届く距離・後日談

あさじなぎ@小説&漫画配信
BL
この腕が届く距離https://www.alphapolis.co.jp/novel/357150587/762676447 の後日談 アルファである夏目飛衣に囲い込まれたベータの俺は、飛衣が18歳になればこの関係はおわるだろうと考えていた だから、愛を囁かないでほしい。俺の決意が揺らぐから。 愛したいけど愛しちゃいけない。しょせんアルファとベータが結ばれるなんてないんだから ※ピクシブにものせています ※そんなに続かない

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

処理中です...