【完結】なんでも知ってる土佐辺くん。

みやこ嬢

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第37話 遭遇

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 校内の展示を見て回った後、校庭に出た。タコ焼きや焼きそば、わたあめ、ポップコーンなどの屋台が並んでいる。時間はいつのまにか午後一時を過ぎていた。さっき軽く食べたとはいえ、おなかが空いている。

「さっき迅堂じんどうくんが焼きそばが美味しいって言ってたよね。どこだろ」
「生徒会の屋台だっけ。あれか?」

 正門から入ってすぐという一番立地が良い場所に立つ屋台を見つけ、土佐辺とさべくんが指をさした。他の屋台とは明らかに店構えから違う。しかも長い行列が出来ている。

「市内の製麺所から麺を直送してるらしいな。他の材料も産直スーパーから仕入れてるのか」

 屋台の周りに立っているのは、件の製麺所やスーパーののぼりと立看板だ。宣伝をすることで仕入れ価格を下げてもらい、安く提供できるのだろう。そういった交渉も生徒会という信頼があるから成り立つものだ。

「焼きそば、オレが並んで買ってくる」
「僕も行くよ」
「二人で並んでも仕方ないだろ。安麻田あまたは他に美味そうなもんあったら買っといて」
「う、うん。わかった」

 待ち合わせ場所を決めて二手に別れる。
 焼きそば以外の食事代わりになりそうな食べ物はタコ焼きとフランクフルトくらいか。タコ焼きはソース味と炭水化物がカブるから、フランクフルトに決めた。こちらも列が出来ていたが、焼きそばの屋台に比べれば少ないものだ。少し並んで二本購入し、ついでに近くの自販機で飲み物も買う。

 土佐辺くんのほうを見れば、まだまだ順番は来なさそうだった。待ち合わせ場所の正門前に建つ校長の銅像近くにあるベンチに座って待つ。

 スマホの画像フォルダを見返せば、今日撮った写真が何枚もあった。亜衣あいのメイド服姿や写真の掲示板、カフェコーナーでクッキーを食べる土佐辺くん。精密なジオラマ。中でも、白い浴衣姿の迅堂くんが撮れたのが一番の収穫だった。お化け屋敷の驚かし役をしている最中に廊下に出てきてくれるとは思わなかった。

「お化け屋敷、面白かったなぁ」
「そりゃどーも」
「えっ!?」

 急に間近で声が聞こえ、顔を上げると、目の前には迅堂くんが立っていた。流石に今は浴衣姿ではなくジャージを着ている。

「あれっ、どうしたの。お化け屋敷は?」
「係を交替して今から昼休憩! 食いモン買ったらすぐ戻るけどな」
「そうなんだ」

 話しながら、さりげなくスマホの画面を暗くする。彼の写真を見ていたの、バレてないかな。なんだかドキドキする。

「亜衣は?」
「女子だけで休憩だってさ。メイド服だとオマケしてもらえるからって着替えずに行ったんだぜ? まったく……」
「そりゃ心配だね」
「ま、一人じゃないからいいけどさ」

 学校の先輩からちょっかい掛けられてるって言ってたっけ。あの服でウロウロされたら、彼氏としては気が気じゃないよな。

「で、土佐辺は?」
「焼きそばの行列に並んでるよ。すごい人気だね、まだしばらくかかりそう」
「あそこは毎年ああなんだよ。よーし、声掛けるついでに俺のぶんも買ってもらおーっと」

 今から列の最後尾につくより、途中まで並んでる友だちに買ってもらったほうが確かに早い。迅堂くんは焼きそばの屋台へと走っていった。

「はぁ~……」

 彼を見送ってから、両手で顔を覆って溜め息をつく。まさか外でも会えるとは思わなかった。ジャージ姿の迅堂くんはレアだ。うちに遊びに来る時は制服姿だもん。ああ、写真撮っておけば良かった。

「あれ、瑠衣るいくんだー!」

 すると、また何処からか声を掛けられた。キョロキョロと見回しても声の主は見つからない。

「こっちこっち」
「うわっ、先輩!?」

 なんと、先輩は校長の銅像の台座の影に隠れていた。僕が見つけると、影から出て近寄って来る。

「文化祭、遊びに来てたんだね」
「は、はい。妹がこの学校に通ってるんで」
「へえ、瑠衣くんの妹なら可愛いんだろうな」
「先輩も遊びに来てたんですね」
「……うん、そう。遊びに来てるんだ」

 少し間があったように感じたのは気のせいだろうか。先輩はTシャツにハーフパンツ、スニーカーというラフな出立ちで、いつもの制服姿とは受ける印象が違う。

「瑠衣くん、一緒に遊ぼうよ。屋台、何でも奢ってあげるからさ」
「あ、いえ。今日は友だちと来てて」

 そこまで答えて、僕は青褪めた。
 図書館で何度か鉢合わせしてるけど、土佐辺くんは先輩を見ると何故か警戒心丸出しで不機嫌になってしまう。今日も、偶然とはいえ先輩と一緒にいるところを見られたらどうなることか。

 ちら、と視線だけ焼きそばの屋台に向けると、人混みのせいか土佐辺くんの姿は見えなかった。そろそろ戻ってくるかもしれない。

「仕方ない、俺は一人で回るとするかな」

 友だちと一緒に来ていると答えたからか、先輩はすぐ退いてくれた。良かった、助かった。
 でも、そううまくはいかなかった。

「ジャーン!……これなーんだ?」

 先輩が自分のスマホ画面を僕に向ける。そこには、僕が迅堂くんと話している姿が写っていた。
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