【完結】なんでも知ってる土佐辺くん。

みやこ嬢

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第35話 ツーショット

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 教室の広さから考えて次の通路が最後だろう。ここまでに凝った仕掛けが幾つもあった。恐らく出口付近に一番驚かせるようなものが待ち構えているはずだ。そう思うと身体に自然と力が入ってしまう。

 こわばる僕の手を土佐辺とさべくんがぎゅっと握り返した。彼はずっと冷静だ。怖がることもなく、なにがどうやって作られているかをじっくり観察している。今日は他校の文化祭を見学し、自分たちの出し物に活かすために訪れているのだ。目的を忘れずに行動している土佐辺くんは流石だ。

「なんもねぇな」
「そ、そうだね」

 最後の通路は左右の足元に蝋燭ろうそくのように揺らめくLEDランプが置かれているだけ。特になにかが出てきたりすることはない。いや、油断させてからオバケ役が飛び出してくるのかもしれない。警戒しながら薄暗い通路をゆっくりと進む。

「出口だ」

 数メートル先に遮光カーテンの隙間から漏れる光が見えた。廊下のざわめきや亜衣あいたちの呼び込みの声が微かに聞こえてくる。参加者をおどろかせる仕掛けは先ほどのゴム手袋が最後だったのか。身構えて損した。

「なんだ、拍子抜けだったな」

 安堵の溜め息をついた瞬間。



「うわあああああ!!!」



 すぐ隣から絶叫が聞こえた。土佐辺くんだ。声の大きさにびっくりして見上げると、仕切りの壁の上から糸で吊られたコンニャクがぶら下がっており、土佐辺くんのおでこに当たっていた。

「おっ、なかなかの高数値!」
「これはイケるんじゃねえ?」

 物陰から二人の人影が飛び出してきて、僕はまた悲鳴を上げそうになった。お化けのコスプレだろうか。出てきたのは白い浴衣を着た迅堂じんどうくんともう一人の驚かし役だった。

「おっす土佐辺。久しぶり~」
「……迅堂……」
瑠衣るいも来てくれてサンキューな!」
「う、うん」

 まだお化け屋敷の中だというのに明るく声を掛ける迅堂くんに対し、土佐辺くんは不機嫌そうに顔をしかめた。さっきコンニャクがぶつかったあたりを手で何度も拭っている。

「なあ、さっきの子と数値一緒だぞ」
「え、マジ? そんなことある?」

 そんな土佐辺くんをよそに、迅堂くんともう一人は手にした機械を見ながら何やら話し込んでいる。

「何それ?」
「これ? 小型デジタル騒音計測器」

 僕が問うと、迅堂くんが機械を見せてくれた。手のひらサイズで、液晶画面とマイクがついている。音の大きさを計測して数値で表示されるらしい。彼らの持つ計測器の画面には、確かに同じ数値が並んでいた。

「こっちは瑠衣の。こっちは土佐辺な。どっちも現時点での新記録だからチケットやるよ」
「……はぁ、マジかよ」

 意表を突かれたとはいえ、記録に残るほどの声を上げてしまったことが恥ずかしかったのだろう。土佐辺くんは片手で自分の顔を覆い隠している。

「それにしても、おまえらそんなに仲良かったのかよ。知らんかったわ」
「え?……あっ」

 指摘されて、手を繋いだままだったことに気付いた。あんなに驚いていたのに、土佐辺くんは僕の手を振り解かず握ったままにしていたのだ。よりによって迅堂くんに見られてしまうなんて、なんか複雑。すぐに慌てて手を離す。

「ハイッ、じゃあ記念撮影をしまーす! 計測器の数字が見えるように持ってね!」

 廊下に出ると、亜衣がデジタルカメラを手に待ち構えていた。そうだ、記録保持者は写真を廊下に飾られるんだった。

「ホントは一人ずつ撮るんだけど、同じ数値が出るなんて珍しいから一緒に撮ろっか!」

 なんと、土佐辺くんとツーショット。
 壁を背に並ばされ「笑って笑ってー!」と催促される。隣を見れば、土佐辺くんは苦笑いを浮かべていた。僕も引きつった笑顔で計測器を持つ。

「その場でプリントアウトするんだな」
「小型プリンタがあるからね~。便利でしょ」

 いま撮ったばかりの写真はすぐに印刷され、日付と時間、僕たちの名前を書き込んでから視聴覚室前の掲示板に貼り出された。

「はいっ、三百円分のチケットでーす!」
「いいのかな、貰っちゃって」
「いーのいーの! 使ってよね♡」

 僕が亜衣から賞品のチケットを受け取っている間、土佐辺くんはスマホで掲示板を撮影していた。

「何やってるの?」
「こーゆーのも参考になると思って」
「そっか。そうだね。僕も撮っておこう」

 完全に目的を忘れて楽しんでしまっていた。

「瑠衣、生徒会がやってる焼きそばの屋台美味いぞ。後で行ってみな」
「う、うん。わかった。ありがと」

 白い浴衣姿のまま廊下に出てきた迅堂くんがおススメの屋台を教えてくれた。その際に、ぽんぽんと頭を軽く叩かれる。

「迅堂、持ち場に戻んなくていいのか?」
「いま戻るって。じゃあな!」
「頑張ってね」
「おうっ、楽しんでいけよー!」

 気軽に触れてくれるのは文化祭でテンションが上がっているからだろうか。嬉しくなって、手にしたチケットをぎゅっと握り締めた。
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