上 下
34 / 65

第34話 絶叫お化け屋敷

しおりを挟む

 視聴覚室は遮光カーテンが引かれていて、昼間だというのに真っ暗だった。順路にそって置かれた足元のライトだけが闇の中に浮かび上がっている。室内はパーテーションで細かく区切られ、二人並んで歩くのが精一杯の幅の通路が設けられていた。

「けっこう雰囲気あるね」
「だな」

 廊下にいる時から聞こえている、おどろおどろしいBGMは室内にも流されている。時折仕切りの隙間から白い手が出て手招きしたり生ぬるい風が吹いてきたりと、お化け屋敷らしい演出がされていた。はぐれないよう土佐辺とさべくんの上着の裾を掴んで歩く。

安麻田あまた、服が伸びる」
「ご、ごめん。でも」
「掴むならこっちにしろ」

 そう言って彼は僕の手を服から離し、代わりに自分の手を握らせてきた。つまり、手を繋いで進むということだ。恥ずかしいけど中は暗い。誰かに見られるわけじゃないからいいか。

「おー、すげえ」

 正面に映し出されたお化けの映像にびっくりして足を止める。映像に見入っていると、背後から何かが近付いてくる気配を感じた。振り返ったら驚かし役の人が今にも襲い掛かってきそうな体勢で身構えていた。映像に気を取られている客の隙をつくやり方だ。

「ひゃっ!」

 僕は土佐辺くんの手を引っ張ってその場から走って逃げる。角を曲がると、さっきの驚かし役はもう追い掛けてこなくなった。持ち場があるんだね。

「さっきのすごかったな。正直文化祭のお化け屋敷なんて舐めてたのに」

 土佐辺くんは感心したように呟いている。僕が無理やり引っ張らなければ、脅かし役を無視して映像に見入っていたかもしれない。

「マネキンに映像投影してリアリティ出してたとことか、製作者のこだわりを感じる」
「マネキンなんかあった?」
「三体置いてあったぞ」
「そんなとこまで見る余裕なかったよ」

 立体物を置いての映像投影……プロジェクションマッピングみたいなものか。確かに高校の文化祭にしては凝っている。あの映像も自分たちで撮影したもののようだ。

 先に進むと、今度は上から細く割かれた無数のビニールテープが吊り下げられている通路があった。淡い紫色の照明がテープに反射して幻想的な光景となっている。BGMは雨音。これは雨を演出しているのか。
 手でテープを掻き分けながら前に進むと、何か柔らかなものを踏んだ。下を向いたら僕の足の下に青白い手があった。仕切りの壁の下から伸びた腕を踏んでいるのだ。

「ぎゃああああ!!」

 驚かし役の人の手を気付かず踏んでしまったのかと思い、慌てて飛び退く。勢いで壁に当たりそうになった僕の身体を土佐辺くんが支えてくれた。

「よく見ろ。作り物だ」
「え、あっ、ホントだ」

 よく見れば、白い肘丈のゴム手袋の中に何かを詰めて本物っぽくしてあるだけだった。上から吊るされたビニールテープに気を取られているうちに、仕切りの壁の下から足元に置いて驚かせるタイプの仕掛けだ。偽物の手には紐が付いていて、僕たちが見ている前でスルスル……と回収されていった。
 それを見送ってから、二人でプッと笑う。

「さっきの悲鳴、あれ新記録じゃね?」
「うそ! そんなに大きかった?」
「廊下まで聞こえてたと思う」
「うわあ、恥ずかしい」

 廊下には亜衣たちがいるのに、後から何か言われたらどうしよう。
 そう言えば、迅堂じんどうくんは驚かし役なんだっけ。この中のどこかにいるのかな。

「行くぞ」
「う、うん」

 土佐辺くんに手を引かれ、僕は次の角を曲がった。

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

君が僕を好きなことを知ってる

みこ
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

処理中です...