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第34話 絶叫お化け屋敷
しおりを挟む視聴覚室は遮光カーテンが引かれていて、昼間だというのに真っ暗だった。順路にそって置かれた足元のライトだけが闇の中に浮かび上がっている。室内はパーテーションで細かく区切られ、二人並んで歩くのが精一杯の幅の通路が設けられていた。
「けっこう雰囲気あるね」
「だな」
廊下にいる時から聞こえている、おどろおどろしいBGMは室内にも流されている。時折仕切りの隙間から白い手が出て手招きしたり生ぬるい風が吹いてきたりと、お化け屋敷らしい演出がされていた。はぐれないよう土佐辺くんの上着の裾を掴んで歩く。
「安麻田、服が伸びる」
「ご、ごめん。でも」
「掴むならこっちにしろ」
そう言って彼は僕の手を服から離し、代わりに自分の手を握らせてきた。つまり、手を繋いで進むということだ。恥ずかしいけど中は暗い。誰かに見られるわけじゃないからいいか。
「おー、すげえ」
正面に映し出されたお化けの映像にびっくりして足を止める。映像に見入っていると、背後から何かが近付いてくる気配を感じた。振り返ったら驚かし役の人が今にも襲い掛かってきそうな体勢で身構えていた。映像に気を取られている客の隙をつくやり方だ。
「ひゃっ!」
僕は土佐辺くんの手を引っ張ってその場から走って逃げる。角を曲がると、さっきの驚かし役はもう追い掛けてこなくなった。持ち場があるんだね。
「さっきのすごかったな。正直文化祭のお化け屋敷なんて舐めてたのに」
土佐辺くんは感心したように呟いている。僕が無理やり引っ張らなければ、脅かし役を無視して映像に見入っていたかもしれない。
「マネキンに映像投影してリアリティ出してたとことか、製作者のこだわりを感じる」
「マネキンなんかあった?」
「三体置いてあったぞ」
「そんなとこまで見る余裕なかったよ」
立体物を置いての映像投影……プロジェクションマッピングみたいなものか。確かに高校の文化祭にしては凝っている。あの映像も自分たちで撮影したもののようだ。
先に進むと、今度は上から細く割かれた無数のビニールテープが吊り下げられている通路があった。淡い紫色の照明がテープに反射して幻想的な光景となっている。BGMは雨音。これは雨を演出しているのか。
手でテープを掻き分けながら前に進むと、何か柔らかなものを踏んだ。下を向いたら僕の足の下に青白い手があった。仕切りの壁の下から伸びた腕を踏んでいるのだ。
「ぎゃああああ!!」
驚かし役の人の手を気付かず踏んでしまったのかと思い、慌てて飛び退く。勢いで壁に当たりそうになった僕の身体を土佐辺くんが支えてくれた。
「よく見ろ。作り物だ」
「え、あっ、ホントだ」
よく見れば、白い肘丈のゴム手袋の中に何かを詰めて本物っぽくしてあるだけだった。上から吊るされたビニールテープに気を取られているうちに、仕切りの壁の下から足元に置いて驚かせるタイプの仕掛けだ。偽物の手には紐が付いていて、僕たちが見ている前でスルスル……と回収されていった。
それを見送ってから、二人でプッと笑う。
「さっきの悲鳴、あれ新記録じゃね?」
「うそ! そんなに大きかった?」
「廊下まで聞こえてたと思う」
「うわあ、恥ずかしい」
廊下には亜衣たちがいるのに、後から何か言われたらどうしよう。
そう言えば、迅堂くんは驚かし役なんだっけ。この中のどこかにいるのかな。
「行くぞ」
「う、うん」
土佐辺くんに手を引かれ、僕は次の角を曲がった。
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