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第29話 彼の良いところ

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 テスト最終日。テストは午前で終わるけど、午後からは普通に授業がある。もうテスト勉強のためという口実で図書館に寄ることはできない。

瑠衣るい、アタシ今日遅くなるかもー」
「えっ、珍しいね。補習?」
「ちーがーうっ! 文化祭の準備!!」

 そうだった。亜衣あい迅堂じんどうくんの通う工科高校の文化祭は次の土曜に開催される。今日はクラスの出し物の最終確認やら何やらがあるらしい。

「瑠衣も友だちと見に来てくれるんでしょ? 気合い入れて準備するから期待してて」
「うん、楽しみにしてる」

 文化祭の実行委員として他校の文化祭を見て参考にしようと、土佐辺とさべくんを誘ったんだった。僕たちの高校の文化祭は二週間後。準備に取り掛かるのは週明けから。見聞きしたことを活かすには十分な期間がある。

「だから今日は瑠衣がゴハン炊いてよね!」
「はいはい。迅堂くんにお礼言っといてよ、ゆうべの」
「お母さんたち喜んでたってメールしといた」
「そっか」

 平日はいつも決まって母さんが買ってきた惣菜とごはんの夕食だけど、昨夜は迅堂くんが温野菜のサラダとおみそ汁を作っておいてくれたおかげで食卓が華やかだった。白飯の炊き上がりも完璧で、母さんも父さんもびっくりしていた。「迅堂くんがお嫁に来てくれたら嬉し~!」と本気で言ってたくらい。

 迅堂くんは弟妹の世話で忙しい母親を気遣い、昔から家事を手伝っている。見た目は金髪でチャラいし勉強は少し苦手だけど、それを補って余りあるほど魅力のある。あんまり良いところばっか見せないでほしい。彼への気持ちを忘れたいのに、また惚れ直してしまいそう。

「瑠衣も電話かメールしたら? また作ってくれるかもよ~」

 気軽に連絡できるわけがない。そんな風に言えるのは、亜衣が僕の気持ちを知らないからだ。

「いやいや、次は亜衣が作りなよ」
「上手な人が作ったほうが効率良くない?」
「練習しなきゃ、いつまでも上達しないよ」
「えーっ、それはやだー!」

 軽口を言い合っていたせいで、いつもより家を出る時間が遅れてしまった。玄関を出たところで、キキッと自転車のブレーキ音が響く。

「瑠衣、おはよ」
「……おはよう、迅堂くん」

 亜衣を迎えにきた迅堂くんと家の前で鉢合わせた。笑顔を作り「昨日はありがとう、美味しかったよ」と言えば、彼は照れ臭そうに「あれくらい、また作ってやるよ」と笑った。

 朝日を浴びた金の髪が輝き、屈託のない笑顔がより眩しく見えた。あの時から、彼は僕の太陽みたいな存在だ。好きにならないわけがない。

 でも、駄目だ。こんな気持ちを抱いたままじゃ、亜衣と彼の交際を心から祝福出来ない。早く忘れなきゃ。

「文化祭の準備、頑張ってね」
「おうっ!」

 僕と入れ違いで玄関に入る迅堂くん。これから亜衣を自転車の後ろに乗せて一緒に登校するんだろう。二人のそんな姿を見るのはまだツラいから、足早に駅へと向かう。
 前までは、顔を見られただけでラッキーだと思えたのにな。





「よぉ安麻田あまた
土佐辺とさべくん」

 駅のホームに着いたら土佐辺くんが立っていた。いつも僕が乗っている電車はつい先ほど出たところだ。先に来ていたのに、彼は何故乗らなかったんだろう。

「混んでたから一本遅らせた」
「次のも混んでない?」
「朝はあんま変わんねーな」

 もしかして、僕が来るのを待っていてくれたのだろうか。

「亜衣たちの学校、文化祭準備の追い込みなんだって。その話してたら家を出るの遅くなっちゃった」
「今週の土曜だっけ。何時から?」
「一般入場は十一時からだって」
「そんなら朝はゆっくり行けばいいか」

 一緒に行く約束を覚えてくれていたようだ。他校の文化祭なんて初めてだから、一人じゃなくて良かった。土佐辺くんが一緒なら心強い。

「そういや連絡先交換してなかったな」
「待ち合わせする時に要るよね」
「安麻田、出先で迷子になりそうだし」
「失礼な! 大丈夫だよ、たぶん」

 電車を待つ間、土佐辺くんと笑って話しながら、僕は頭の中から迅堂くんのことを押し出した。


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