24 / 65
第24話 先輩と過ごす午後
しおりを挟む昼前にはテストが終わり、大半の生徒は帰宅していった。近くのコンビニでパンと飲み物を買い、公園のベンチで食べる。良い天気だ。平日の昼間に制服姿でウロウロしてると通り掛かった人に不審な目で見られそうだけど、今日はテストで半日なのだから堂々としていられる。
これから夕方まで時間を潰さなくてはならない。亜衣と迅堂くんの逢瀬の邪魔をしたくないからだ。よく考えれば、亜衣たちの学校は先週テストが終わっているから午後四時くらいまで授業があるんだよな。一度家に帰るという手もあるが、何度も往復するのは面倒だ。
お昼ごはんを食べ終えてから図書館に向かう。利用客は小さな子どもを連れた母親やお年寄りばかり。ちらほらと同じ学校の制服を着た人も見掛けた。僕と同じで、図書館でテスト勉強をしていく人もいるようだ。
一階のカウンターそばにある自習スペースのひとつを確保して、カバンから教科書とノートを取り出す。
閉館まであと五時間。ずっと勉強し続けるのは正直つらい。せっかく利用カードを作ったから、息抜きに何か本を借りて読むのもいいかもしれない。
二、三時間ほど机に向かったあと、気分転換に図書スペース内を散策してみた。やはり蔵書が多い。専門書の類もかなり充実している。背表紙を眺めているだけで楽しい。
「あれ、瑠衣くん」
気になった本を手に取ろうとした時、後ろから声を掛けられた。振り返ると、先週の勉強会の時に何度か会った先輩が笑顔で立っていた。
「こ、こんにちは」
「それ借りるの? 難しくない?」
僕が手を伸ばした先にあるのは『機械製図検定問題集』。確かに、素人が見て内容が理解できるものではない。
「いえ、どんな内容か気になって」
「暇つぶし?」
「そんなようなものです」
パラ見するだけのつもりだったけど、何となく本に触れることが躊躇われて手を引っ込める。すると、先輩はニコッと笑って僕の隣にするりと近寄ってきた。
「今日は二階で勉強会やってないの?」
「は、はい。僕だけ自習スペースで」
「えーっ、一人で? 寂しくない?」
「いえ、別に。先輩だっていつも一人で勉強してるじゃないですか」
「ああ、まあね」
そういえば、さっきまで居なかったな。一旦家に帰ってお昼ごはんを食べてから来たのかも。
「じゃあ今日はゆっくりできるね。飲み物おごるから外で話さない?」
「え、でも、悪いですから」
「先輩の言うことは聞きなよ。それに、館内で喋ってると係の人に怒られちゃうからさ」
「はあ……」
なんだろう。優しいのに押しが強くて、逆らうことを許されない感じがする。きっと先輩もテスト勉強の息抜きで話し相手が欲しいのだろう。僕も閉館まで図書館にいる予定だから時間に余裕がある。断る理由はない。
カバンを自習スペースの席に置いたまま、出入り口にある自販機で飲み物を買って外に出た。図書館の駐車場脇には木が植えられていて、ベンチもある。木陰になっているからひと休みするのにちょうどいい。先輩と並んで座る。
「甘いの好きなんだね」
「え? あ、はい」
手の中にあるのは、さっき先輩に奢ってもらったペットボトルのオレンジジュース。先輩は缶コーヒーだ。勉強で頭が疲れている時は甘いものがいいと誰かが言っていたから、僕も甘いものが飲みたくなったのだ。
「ふふ、瑠衣くん可愛い」
飲んでいる最中にそんなことを言われ、思わず咽せて咳き込む。
「大丈夫?……ああ、涙目になっちゃって」
「すみません、大丈夫です」
先輩の手が僕の目元に伸びてきた。咄嗟に身体を後ろに引いて離れるが、ベンチの背もたれにぶつかってしまった。指先が触れ、わずかに滲んでいた涙を拭い取る。
「ん。しょっぱい」
「ちょ、なにを!」
「甘そうに見えたんだけどなぁ」
何を血迷ったか、先輩は涙がついた指をぺろりと舐めていた。慌てふためく僕を見て目を細め、いたずらっぽく笑う。掴みどころのない人だ、と改めて思った。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる