23 / 65
第23話 中間テスト
しおりを挟む「亜衣。僕、図書館に寄って勉強してくるから。帰りは六時過ぎると思う」
「瑠衣んとこ今日からテストでしょ? お昼に帰れるんじゃないの?」
「だからだよ。翌日の科目を集中して勉強したいからさ」
「あ、そうなんだ」
帰宅予定時間を伝えておかなければ意味がない。邪魔者さえ居なければ、二人は気兼ねなく触れ合える。僕も気まずい思いをせずに済む。
「母さんから頼まれたら、僕の代わりにごはん炊いてね」
「えーっ? うまく出来るかなぁ」
「慣れるまで練習しなよ。多少失敗しても誰も怒らないからさ」
「べちゃべちゃのごはんでも残さないでよ!」
「はいはい。じゃ、行ってくる」
いつものように軽口を叩き合ってから、カバンを持って先に家を出た。駅までの道を歩きながら、さっきの亜衣の反応を思い出す。気を使ったとバレただろうか。いや、せっかく半日で帰れるというのに何故勉強するの、みたいな顔をしていた。僕の意図を正しく理解してなさそう。
「瑠衣!」
「迅堂くん、おはよう」
向かいから自転車で現れたのは迅堂くんだった。朝日に金の髪が光って見える。
「もしかして、亜衣を迎えに? いつも一緒に登校してたの?」
「あ、いや、つい最近からなんだけど」
「そっか。仲良いねえ」
亜衣は先輩から声を掛けられてるらしいから、きっと心配なんだろう。遠回りをしてでも迎えに来るなんて、本当に亜衣が好きなんだな。
「僕、電車の時間があるから」
「おう、またな!」
一瞬、迅堂くんに帰宅予定時間を教えようか迷った。でも、流石に僕から彼に言うのは不自然だよね。
走り去っていく自転車を見送ってから、再び駅に向かって歩き始める。足取りは重い。土日も結局テスト勉強は捗らなかった。帰りに図書館で勉強する選択は間違ってなかったかもしれない。
憂鬱な気持ちでホームに立ち、電車を待っていると、すぐ隣に誰かが立った。俯いていた顔を上げれば、土佐辺くんと目が合った。
「よぉ、おはよ安麻田」
「おはよう土佐辺くん」
いつもと同じ、自信に満ちた表情。肩を丸めて所在なさげにしている僕とは正反対だ。
「いつもこの時間に乗ってんのか、早いな」
「早めに教室に着いてないと心配で。土佐辺くんは?」
「オレいつもはもう一本遅い電車。今日はたまたま早起きしただけ」
「そうなんだ」
通勤通学客が多い時間帯は電車の本数も増えている。一、二本後の電車でも始業時間に間に合う。僕は心配症なので、普段から少し早めに家を出るようにしている。
「ん? 目が赤いな」
「えっ、いや、その」
まずい。泣きそうだったのがバレてしまう。
「さては睡眠時間削ってテスト勉強してたんだろ。今回も負けねーからな」
「う、うん」
話をしているうちに電車が来た。
車内は混雑していて、雑談どころではなくなった。学校の最寄り駅に着く頃には二人とももみくちゃになっていて、『通勤ラッシュを減らすにはどうすべきか』を討論しながら登校した。
今日のテストの出来栄えは過去最悪だった。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
幼馴染みとアオハル恋事情
有村千代
BL
日比谷千佳、十七歳――高校二年生にして初めて迎えた春は、あっけなく終わりを告げるのだった…。
「他に気になる人ができたから」と、せっかくできた彼女に一週間でフられてしまった千佳。その恋敵が幼馴染み・瀬川明だと聞き、千佳は告白現場を目撃することに。
明はあっさりと告白を断るも、どうやら想い人がいるらしい。相手が誰なのか無性に気になって詰め寄れば、「お前が好きだって言ったらどうする?」と返されて!?
思わずどぎまぎする千佳だったが、冗談だと明かされた途端にショックを受けてしまう。しかし気づいてしまった――明のことが好きなのだと。そして、すでに失恋しているのだと…。
アオハル、そして「性」春!? 両片思いの幼馴染みが織りなす、じれじれ甘々王道ラブ!
【一途なクールモテ男×天真爛漫な平凡男子(幼馴染み/高校生)】
※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています
※全70回程度(本編9話+番外編2話)、毎日更新予定
※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】
※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】
※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】
□ショートストーリー
https://privatter.net/p/9716586
□イラスト&漫画
https://poipiku.com/401008/">https://poipiku.com/401008/
⇒いずれも不定期に更新していきます
【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。
亜沙美多郎
BL
高校に入学して直ぐのバース性検査で『突然変異オメガ』と診断された時田伊央。
密かに想いを寄せている幼馴染の天海叶翔は特殊性アルファで、もう一緒には過ごせないと距離をとる。
そんな折、伊央に声をかけて来たのがクラスメイトの森島海星だった。海星も突然変異でバース性が変わったのだという。
アルファになった海星から「契約番にならないか」と話を持ちかけられ、叶翔とこれからも友達として側にいられるようにと、伊央は海星と番になることを決めた。
しかし避けられていると気付いた叶翔が伊央を図書室へ呼び出した。そこで伊央はヒートを起こしてしまい叶翔に襲われる。
駆けつけた海星に助けられ、その場は収まったが、獣化した叶翔は後遺症と闘う羽目になってしまった。
叶翔と会えない日々を過ごしているうちに、伊央に発情期が訪れる。約束通り、海星と番になった伊央のオメガの香りは叶翔には届かなくなった……はずだったのに……。
あるひ突然、叶翔が「伊央からオメガの匂いがする」を言い出して事態は急変する。
⭐︎オメガバースの独自設定があります。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
【完結】我が国はもうダメかもしれない。
みやこ嬢
BL
【2024年11月26日 完結、既婚子持ち国王総受BL】
ロトム王国の若き国王ジークヴァルトは死後女神アスティレイアから託宣を受ける。このままでは国が滅んでしまう、と。生き返るためには滅亡の原因を把握せねばならない。
幼馴染みの宰相、人見知り王宮医師、胡散臭い大司教、つらい過去持ち諜報部員、チャラい王宮警備隊員、幽閉中の従兄弟、死んだはずの隣国の王子などなど、その他多数の家臣から異様に慕われている事実に幽霊になってから気付いたジークヴァルトは滅亡回避ルートを求めて奔走する。
既婚子持ち国王総受けBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる