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第21話 初恋を捨てたい
しおりを挟む僕は妹の彼氏が好きだ。自分だけを見てほしいとか、妹から奪いたいなんて一度も望んだことはない。兄として、友だちとして、二人の幸せを傍で見守っていられればいいって本気で思っていた。
でも、近くで見守るっていうのは、つまり今日みたいなことが当たり前に起こり得るってことなんだ。実際にそんな場面に遭遇して、ようやく実感が湧いてきた。
迅堂くんの家はお母さんが専業主婦で家にずっといるし、弟妹もいる。彼の家に遊びに行ったとしても二人きりにはなれない。
僕たちの家は共働きで、親は夜まで帰ってこない。ただ、僕と亜衣の部屋は隣同士だ。防音どころか部屋のドアには鍵が付いてない。何かしていればすぐに聞こえてしまう。
かと言って、ホテルを利用するのは難しい。お小遣いやアルバイト代じゃどうにもならないだろう。そもそも、二人ともまだ高校生だから施設に入れないか。となると、やっぱり場所は僕の家になるよね。
そこまで考えて、何度目かの大きな溜め息を吐き出す。
あれから、母さんと父さんが帰ってきて一緒に夕食を食べた。その頃には亜衣もいつも通りに戻っていたけれど、なんとなく気まずくて料理の味が分からなかった。
亜衣が誰かに取られないうちに繋ぎ止めておきたいというのは後付けの理由で、好きな相手に触れたいと思うのは自然なことなのだ。もし僕がいるせいで二人がイチャイチャ出来ずに別れるような事態になったら困る。
じゃあ、どうするか。
帰宅時間を少し遅らせるか。
どこで時間を潰せばいいんだ?
来週はテストだ。半日で学校が終わるから、いつもより早く家に帰れてしまう。勉強もしたいし、ファミレスに寄るお金もない。
そういえば、図書館の利用カードを作ったんだった。本も借りれるし自習スペースもある。あそこなら午後六時の閉館まで時間が潰せる。
僕がいない時間帯さえ把握していれば二人は邪魔されず、僕も気まずい思いをしなくて済む。
……なんだろう。虚しい。
分かっていたはずなのに、覚悟していたはずなのに、いざそういう状況になると胸が締め付けられるように痛む。陰ながら好きでいるって綺麗事だけじゃない。好きな人が自分以外と抱き合うことを容認するのは思っていたより辛い。
こんなの全然健全じゃない。
いま辛いなら、この先は?
僕は一生耐えていけるのか?
「……もう、無理だよ」
無意識のうちに口からこぼれ落ちた、これが本音だ。想いを隠し、何食わぬ顔をして祝福し続けるなんて耐えられるわけがない。
もう終わりにしなくちゃ。
不毛な片想いは辞めよう。
他の誰かを好きになろう。
隠さずに済む相手がいい。
堂々と好きだと言いたい。
「……ッ」
真っ暗な部屋の中、ベッドの中で自分の身体を抱きしめる。初恋を捨てると決めた途端、とめどなく涙が溢れた。嗚咽が隣の部屋にいる亜衣に聞こえないように唇を噛み、頭まで布団を被ってただただ耐える。
涙が止まる頃には気持ちが吹っ切れていますように。
そんなに簡単に切り替えられるなら、最初から彼を好きになってない。
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