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第19話 勉強会最終日
しおりを挟む放課後、学校近くの図書館の会議室に有志が集まって勉強会を開いている。噂を聞きつけたのか参加者は日に日に増え、最終日の今日はクラスの半数以上が参加している。週明けから中間テストが始まるから最後の追い込みをしたいのだろう。
駿河くんが塾で不参加のため、土佐辺くんにみんなの質問が集中している。個別に答えるのが面倒になったらしく、途中からホワイトボードを引っ張り出して解説を始めた。まるで授業だ。
自信に満ちた土佐辺くんの解説は安心して聞いていられる。それに対して、僕はいつも言葉を詰まらせたり迷ったりしてしまう。自信がある人と無い人。どちらに教わりたいかといえば、やはり自信がある人がいいよね。
そういったところを見習わないと、と遠巻きに眺めていたら「安麻田も教えるの手伝え!」と前に引っ張り出されてしまった。土佐辺くんの説明では理解できなかった人に個別で詳しく解説すると、またお礼を言われた。
誰かに何かを教えるの、好きかもしれない。口下手だし、自信を持って言い切るような説明の仕方は出来ないけれど、誰かのために自分の知識を役立てるってすごく楽しい。そういう仕事に就けたらいいなって、ここ数日で思うようになった。
みんなからの質問が落ち着いた頃、勉強会を企画した檜葉さんが僕と土佐辺くんを部屋の隅に手招きした。
「二人ともありがとう。これで今回はみんな赤点を免れそう」
「よほど凡ミスやらなきゃ大丈夫だろ。オレが教えきれなかったヤツは安麻田がフォローしてくれたし」
「う、ううん。僕なんか」
「そんなことないわ。安麻田くんもありがとう。すごく助かっちゃった」
改めてお礼を言われ、土佐辺くんは軽く笑って応えている。檜葉さんはキョロキョロと辺りを見回してから、僕たちだけに聞こえるよう「それでね」と小さな声で話し掛けてきた。
「今日、駿河くんから衣装の件で相談されたの。貴方たちが薦めてくれたのよね。だから、そっちもありがとう」
照れながら、檜葉さんは嬉しそうに笑う。
昨日の帰りに話をした件だ。駿河くんは早速檜葉さんに服を借りれないか話をして、ついでに檜葉さんも男装用の服を駿河くんから借りることに決まったという。
「オレらは困ってるクラスメイトに実行委員として助言をしたまでだ。なあ安麻田?」
「そ、そうだよ。気にしないで」
駿河くんからの相談を受け、檜葉さんに話をするよう仕向けたのは土佐辺くんだ。これを切っ掛けに二人の仲が進展したら恋のキューピッドになると考えるとスゴいな。檜葉さんの気持ちを知らなければ出来なかったアドバイス。やっぱり、土佐辺くんはすごい。
「将英ファイッ!」
「「「おーッ!!」」」
来週からのテストを頑張ろう、と図書館前の広場で誓い合って解散した。みんなで円陣を組むなんて初めての経験だ。体育会系のノリは正直苦手だったけど、今回の勉強会でスポーツ推薦組との距離が縮まった。
スマホに届いた駿河くんからのメールを見ながら、土佐辺くんと共に駅への道を歩く。
「駿河くん、テスト明けに檜葉さんと衣装合わせすることになったって」
「ずいぶん進展が早いな」
「檜葉さんめちゃくちゃ乗り気だもんね」
いつのまにやら話が進展していたようで、二人だけで会う約束を取り付けていた。駿河くんは純粋に文化祭の衣装合わせのつもりだろうけど、檜葉さんは違う。好きな人と二人で会うのだ。だから、さっきあんなに嬉しそうだったんだな。
「楽しみだな、文化祭」
「うん。絶対成功させようね!」
中間テストが終わったら亜衣たちの学校の文化祭を見に行こうと土佐辺くんと約束をしている。今から楽しみだ。
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