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第14話 図書館で勉強会

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 翌日の放課後、クラスの勉強会が始まった。
 図書館の二階にある会議室を借り、希望者が集まって来週の中間テストに向けて勉強をするのだ。初日の参加者は僕と土佐辺とさべくんを含めて十名。檜葉ひばさんが話を付けたからか、駿河するがくんも参加している。

「駿河くんと土佐辺くん、安麻田あまたくんには講師代わりに来てもらったの。みんな分からないところがあれば質問してね」

 勉強会の発案者である檜葉さんの言葉に、参加者の一人が早速手を上げ「テストの範囲が分かりませーん!」と元気よく発言した。スポーツ推薦組に教えるのはまずそこからか、と講師役の三人は頭を抱えた。

「各教科の先生からプリントをもらってるから一度やってみて。つまづいたら分かる人に聞いてね」
「「はーい!」」

 檜葉さんが取り仕切る様子を眺めながら、僕は端の席を選んで座った。すると、土佐辺くんが隣に座り、顔を寄せて小声で話し掛けてきた。

「見ろよ、あれ」
「?」

 土佐辺くんが顎で指すほうを見れば、駿河くんと笑顔で語らう檜葉さんの姿があった。「来てくれてありがとう」「助かるわ」と嬉しそうだ。

「要するに、勉強会は駿河と話す口実だな」
「そうだったんだね」

 檜葉さんがクラスメイトの成績を心配しているのは事実だが、百パーセント善意ではなく自分の都合もあったということだ。思惑があろうとなかろうと、テストを前に困っていたクラスメイトを助けている事実に変わりはない。勉強会を開くのは良いことだと思う。

 思えば、先週中庭で僕が駿河くんと二人でいた時にも意味ありげな視線を向けられていた。あれは、僕が邪魔で駿河くんに話し掛けられなかったからだったのか。知らなかったとはいえ申し訳ないことをした。

「駿河、鈍いから気付いてないだろうな」
「僕も言われなかったら気付かなかったよ」
「ハハ、安麻田も相当鈍いもんな」

 声を上げて笑う土佐辺くんにみんなの注目が集まる。普段クールな彼とは印象が違うからだろうか。
 僕も文化祭の実行委員になってから知ったんだけど、土佐辺くんは意外と気さくなんだよね。物知りだし親切だし、話していると楽しい。

 勉強会は順調に進んだ。
 最初は遠慮していたスポーツ推薦組も、土佐辺くんが意外と話しやすいと分かったら気軽に質問するようになった。駿河くんと僕も、それぞれ得意科目について聞かれたことを教える。うまく説明できなくてアタフタしていると「安麻田ってアタマいいけど抜けてるよな!」とみんなに笑われてしまった。

「僕、トイレ行ってくるね」

 質問が落ち着いた頃に席を立つ。

「この図書館、トイレは一階にしかないからな。場所分かるか?」
「案内板見るから大丈夫」
「迷子になるなよー」

 土佐辺くんは僕を小学生か何かだと思っているのだろうか。

 会議室を出て、下に降りる階段を探す。ここは学校の近くにある施設だけど、僕は今まで利用したことがない。行きは何も考えずに檜葉さんについて歩いていたけど、どこに何があるのかはまだ把握していない。
 一階はたくさんの本棚が並ぶ図書スペースとなっている。案内板を頼りにトイレに行き、用を足す。手を洗ってから廊下に出ようとした時、入ってこようとした誰かに正面からぶつかってしまった。

「うわっ」
「すっすみません! 大丈夫ですか」
「平気平気。びっくりしただけだから」

 僕の不注意を怒ることなく、その人は笑って許してくれた。カッターシャツにスラックス。うちの学校の制服を着ている。ゆるく波打つ髪と優しそうな目。見掛けたことないけど、三年生だろうか。

「あれ、君、男?」
「?はい」

 男の人は僕の顔をまじまじと覗き込んできた。男子トイレから出てきたんだから男に決まってるでしょ。

「そっか、ごめんね」
「いえ、それじゃ」

 パッと前から退いてくれたので、僕は男の人の前を通って廊下に出る。去り際に頭を下げると彼はニッコリ笑って手を振り、トイレへと入っていった。
 二階の会議室に戻ると、土佐辺くんが頬杖をついてニヤニヤしていた。

「遅かったな。迷子にでもなった?」
「ま、迷ってないよ」
「じゃあ大きいほう?」
「違うってば!」

 思わず大きな声で反論したら、またみんなの注目が集まってしまった。もうやだ、恥ずかしい。

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