【完結】なんでも知ってる土佐辺くん。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
12 / 65

第12話 捗らない衣装選び

しおりを挟む
 ケイヤロ国第二王女とよばれた年月よりも、テリル国王太子妃、テリル国王妃とよばれる年月の方が長くなった。

 王室の光とよばれる王太子グロリア。

 王室の華とよばれる第二王女リリアン。

 母として二人の成長を見守ってきた。

 王女しか生めない不出来な妃と陰口をたたかれたが、王女しか生まなかったことで二人の娘を手元におくことができた。

 グロリアに王太子という重い責務をおわせたことに申し訳なさは感じるが、王太子であることから他国へ嫁ぐのではなく王配をむかえられた。

 そしてリリアンもグロリアを支えるために国内の貴族へ嫁がせることができた。

 娘たちを自分のそばにとどめておけた幸運をひそかによろこんでいる。

 グロリアが第二王子を出産した。第一王子のヒューバートが生まれた時と同じく王国がわいた。これでテリル国は安泰だと。

 第二王子の洗礼式に親戚と親しい友人が参加した。洗礼式のあとの昼食会をおえ、男性達は王宮でビリヤード室を新しくしたのでゲームを楽しもうと移動した。

 女性陣はお茶とおしゃべりを楽しんだ。すべてが終わったあと名残惜しさがつのり親子三人でグロリアの家に移動した。

「お姉さま、私が国教の教えを破るようなことをしたら、私のことをきらいになってしまうかしら?」

 リリアンの思いがけない問いかけにおどろいていると、グロリアが表情をかえずリリアンを見つめ、

「私があなたをきらいになることはないわ。たとえあなたが私の目の前で人を殺したとしても」と答えた。

 まさかと思うやりとりに二人を見ると、二人は見つめ合っていた。まるで目だけで会話をするように。

「ありがとうお姉さま。お姉さまがいるから強くいられる。お姉さまがいるから生きていける」

 リリアンの笑顔に胸をえぐられるような痛みを感じた。

 リリアンにとって支えになるのは母である自分ではなく、グロリアなのだと見せつけられた。

「あなたの幸せを一番に願っている。その幸せを手に入れるために何が起ころうと」

 リリアンが何を考えているのかを分かっているかのように答えるグロリアに痛みが強くなった。

 姉妹の仲が良いことや、大人として親を必要としないほど自立していることをよろこぶべきなのかもしれない。

 しかし自分が二人から疎外されているようでおもしろくなかった。

「二人とも何だか物騒な話をしているけれども王女としての品格を忘れないように」

「分かっています、お母さま。王侯貴族らしい生き方をするのです。愛は配偶者以外から求めようと思います。

 ご心配なく。王室の華として誇り高く生きます」

 リリアンの言葉に何といってよいのか分からなかった。

 リリアンが体調不良で入院した日のことを思い出す。

 入院したと聞きあわててかけつけると、

「お母さま、子を授かりました」といわれ安心とよろこびを感じたすぐあとに、

「サミュエルがパートナーと不貞関係にあるのですこし距離をおくことにしました」といわれ呆然とした。

 リリアンはサミュエルの裏切りを知った翌日に入院という形で夫と距離をとり、その後は静養のためと自宅ではなく離宮へ移動した。

 第二子の出産をひかえたグロリアの代わりに多くの公務をこなしていたリリアンの負担の大きさと、妊娠による体調不良を考えればリリアンの静養は当然と思われ一か月の二人の別居は周りからあやしまれなかった。

 リリアンの体調が安定し、王都の自宅にもどったことから王国民に懐妊が発表された。

 その時にリリアンは静養が必要だったため公務をはたせなかったことを詫び、自身の懐妊報告にからめ「夫には私のことを心配せずダンスに集中してもらいたい。生まれてくる子に勝利を捧げてほしい」というコメントをだした。

 夫をけなげに支える王室の華と名をあげた。

 洗礼式で二人はこれまで通りの仲の良さを見せていた。リリアンの大きくなったお腹を愛おしそうに見つめ、妻をかいがいしく気づかうサミュエルの姿は妻を愛する夫そのものだった。

 しかし二人の間でどのような話し合いがされたのかは分からないが、リリアンは夫へ見切りをつけたようだ。

「サミュエルのことをちゃんと見ていたつもりでしたが、やはり恋は盲目だったようです。

 それと国内の相手と早く結婚してしまおうという焦りもあったのでしょうね。

 サミュエルが私のことを愛してくれるなら幸せになれるのではと夢をもってしまったようです」

 淡々と話すリリアンにますます何もいえなかった。

「私のせいね。私があなたに国内にとどまってほしいと願ったから」

「それは違います、お姉さま。私がお姉さまのそばにいたかったのです。お姉さまが願うよりもずっと前から私の気持ちは決まっていました」

 二人の娘を愛している。しかし母娘の絆よりも姉妹の絆の方が強いだろう。二人は生まれてからずっと一緒にいる。

 自分自身も両親よりも兄弟との絆が深いのでそのことが理解できた。四人兄弟で二人の兄と姉が一人いる。子供の頃は四人で王宮を走り回っていた。

 国際間の電話は王族といえども自由に使えるわけではないが、何かと理由をつけて電話をしてくるのは両親ではなく兄弟だった。

「それにしても人って本当に分からない。

 サミュエルはリリアン一筋で誰から見てもリリアンを深く愛しているようにしか見えなかったのに。

 カルロとサミュエル、どちらが浮気しそうかと聞けば、百人中百人の人がカルロというわ。それぐらい意外だった」

 まじめな話をしているのにグロリアの例え方が絶妙で笑いそうになった。

 グロリアの夫であるカルロは人たらしといわれ、誰にでもやさしいため女性に誤解されやすく何度か不名誉な噂をたてられた。

 しかし実際のところは王子として身につけているやさしさでしかなく、女性ではなく狩猟とポロへなみなみならぬ情熱をそそいでいる。

 逆にサミュエルはリリアンへの一途な愛で知られているが、恋をすると感情のままに動く男だった。

 サミュエルとリリアンの結婚は王妃が画策したといわれているが、実際のところは偶然のなりゆきでしかなかった。

 二人がはじめて踊るまで、自分でも不思議に思うほどあの二人を一緒に踊らせようと考えたことがなかった。二人が同じ場にいることが何度もあったにもかかわらず。

 一緒に踊っている姿をみて「完璧」と思わずつぶやいたほど二人の踊っている姿は美しかった。

 ただ踊っている二人の姿が見たかっただけで結婚まで考えていなかったが、お互い好き合っているならと動いた。

 その二人の結婚が思いもしなかった状況をむかえ、自分のせいで娘を不幸にしたのではと罪悪感がつのる。

 リリアンがサミュエルに見切りをつけ、王女として国教の教えを破ることの罪深さを分かった上で配偶者以外に愛を求める覚悟をしたのなら、それを受け入れるだけだ。

 正しさだけで生きてはいけない。不貞という罪をおかし地獄におちてでも愛をつかみたいというなら、それを止めるつもりはない。

 王女として気高く育った二人の美しい娘達の幸せを祈る。

 いつまでも二人がほほえみあえるように。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...