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第4話 一緒の帰り道
しおりを挟む文化祭の出し物は基本自分たちの教室で行う。
火を使う調理が必要な場合は家庭科室やイベント機材レンタルを利用できるけど、そういった設備は三年生のクラスに優先権がある。となると、加熱系はホットプレートくらいか。どんなメニューを出すかはクラスのみんなと相談する必要がある。
「それより会場設営をどうするか」
「机を幾つか合わせてテーブル代わりにする?」
「だな。テーブルクロスでも掛けときゃそれっぽく見えるかな」
「市販のクロスだと高いしサイズが合わないかも。布買ってフチを縫って作ったほうが安く済むかもしれないね」
「その辺は誰かに役割振って任すか」
放課後、教室に残って文化祭の打ち合わせをする。土佐辺くんは前の席に後ろ向きに座り、僕の机を使ってノートに要点をメモしていく。走り書きなのに綺麗な字だ。じっと手元を眺めていると、不意に土佐辺くんが顔を上げた。間近で目が合う。
「誰にやらせる?」
「女子ばっかに任せるのも悪いから、男女何人かでチーム組んでもらおう」
ノートに目線を戻すのを装って目を逸らされた。いつもこうだから、なんだか慣れてきた。普通に会話はするから嫌われてはいないと思うけど、毎回顔を逸らされると少し傷付く。
複雑な気持ちのまま打ち合わせをしていると、フッと土佐辺くんが笑った。
「やっぱ安麻田と組んで良かった。他の奴らじゃ絶対オレに丸投げするからな」
「僕、役に立ってる?」
「立ってるよ。助かってる」
さっきまでのモヤモヤした気持ちが全部吹き飛ぶ。良かった、足手まといになってなくて。
「今日はこれくらいにしておくか。駅まで一緒に行こ」
「う、うん」
僕も土佐辺くんも電車通学だ。文化祭の打ち合わせの帰りはいつも一緒に駅まで歩く。移動の間も話題は文化祭のことが中心で、他のクラスの出し物や進捗を教えてくれる。
「土佐辺くんて何で色々知ってるの?」
「気になる?」
「気になる!」
思い切って聞いてみた。
だって不思議だもん。
「全学年ほぼ全クラスに知り合いがいるんだよ。そいつらから情報流してもらってんの」
「それ、なに繋がりの知り合い?」
「ナイショ」
肝心なところは教えてもらえなかったけど、彼が情報通な理由が分かった気がした。
「来週からテスト週間だろ? テスト終わったら一気に作業に入れるように話を詰めておこうな」
「う、うん。頑張る」
「テストを? 実行委員を?」
「どっちもだよ」
こんな話をしていたらすぐに駅に着いた。行き先が同じだから同じ電車に乗る。夕方は乗客が多くて座れない。ドア近くの手すりに掴まると、土佐辺くんは近くの吊り革を掴み、他の乗客から庇うような位置に陣取ってくれた。
最寄り駅に着く頃にはすっかり地平線の境が赤く染まっていた。九月も半ばになると日が暮れるのが早い。
「またな」
「うん、また明日」
ここから先は土佐辺くんとは逆方向だ。笑顔で手を振り、駅近くの交差点で別れる。薄暗い住宅街を一人で歩きながら、ニヤけそうになる口元を必死に手で隠した。
今日も目を合わせてくれなかったけど、少し仲良くなれた気がする。僕を頼りにしてると言ってくれて嬉しかった。実行委員なんてガラじゃないと思ってたけど、土佐辺くんと一緒にやれて良かった。
家に着く頃には真っ暗になっていた。
玄関には亜衣のローファーと迅堂くんのスニーカー。また遊びに来てるんだと思いながら靴を脱いでいると、迅堂くんが階段を駆け下りてきた。眉間に皺を寄せて、なんだか怒ってるみたい。自分の家なのに思わず廊下の端に寄って通路を開ける。
「帰るの?」
「ん」
スニーカーに乱暴に足先を突っ込み、迅堂くんは慌ただしく玄関から出て行ってしまった。あんなに不機嫌そうな彼は見たことがない。亜衣とケンカでもしたのかな。
「亜衣、入るよ」
ノックしてから亜衣の部屋に入ると、亜衣はこの前と同じようにベッドの上で膝を抱えていた。間違いない、何かあったんだ。
「どうした。ケンカでもした?」
声を掛けると亜衣はバッと顔を上げ、「あんなヤツ、もう別れてやる!」と叫んだ。
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