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おまけ

余話:アウローラのひとりごと

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 こ、こんにちは……。
 あの、私、アウローラと申します。ブリムンド王国の中でもかなり田舎町で生まれ育った典型的な田舎娘です。いちおう男爵の娘、です。

 そんな私が今いるの、どこだと思います?
 なんと、王宮なんですよ。
 いや、つい先日もルキウス殿下の披露宴に招かれてきたばかりなんですけどね、また呼び出されました。

 これはアレかな?
 ローガン様からの求婚の件かな?
 『一度帰国して我に返ったローガン様が求婚撤回の手紙を寄越してきたよ、ゴメンねゴメンねー!』みたいな話をされるのかな?
 だとしたら、こちらからお断りする手間が省けて嬉しいんですけど。





──違いました。





 ローガン様からのお手紙と贈り物が届いておりました。
 ああ、まだ諦めてくれてないんだ……なんでだろう。私なんか美人でもないし何の取り柄もないのに。なんでこんなに執着されてるんだろう。 

 ちなみに、ローガン様からのお手紙を取りに行くのがメインの用事ではありません。物だけでしたら、一旦王宮に届いたものを屋敷に転送していただけば済む話ですから。



 じゃあ、私は何しに王宮へ?



 実は、シャーロット様とフィーリア様と同じテーブルを囲んでお茶を頂いております…………。

 先日ご結婚されたばかりのシャーロット様は、既婚者の証として長く艶やかな髪を全て結い上げておられます。
 フィーリア様は金色に輝く髪を毛先だけ巻き、赤いリボンで結んだいつものスタイル。

 お二方とも、王宮の豪華なお部屋や茶器に負けない高位貴族のオーラを放っておいでです。

 それに引き換え、私ときたら。

 顔立ちも髪色も地味。
 一番良いドレスを着てきたつもりなんですけど、完全に浮いてます。私より給仕係の方たちの方が堂々と振る舞っているくらいです。場違い感ハンパない。

 何故このメンツで集まっているかというと、王妃教育の一環だそうで。

 王妃教育……。

 つまり、ブリムンド王国からアイデルベルド王国に私を嫁に出すわけですから、その前に恥ずかしくない程度に教育しちゃおう! っていうことらしいんです。

 ええええええ!?
 下位貴族の私が王妃教育受けるの!!??

 どうやらたわむれとかじゃなく本気みたいです。

「アウローラさん、わたくしと一緒にお勉強していきましょうね。卒業まで何ヶ月もありませんけど、週末ごとに講義を受けていきましょうか」
「あの、毎週、ですか……?」
「ええ! ローガン様は貴族学院の卒業まで待つと言って下さっているのでしょう? それまでに少しでも詰め込んでおかなくては」

 そうそう、復学したんですよ貴族学院に。
 復学しないとすぐに連れて行かれそうだったので。

「本来なら王妃教育は数年掛けて学ぶものだけど、今回は急なお話ですもの。先方も理解して下さるわ。大丈夫よ。わたしも復習したいし、付き合うから」
「う、うう……はい……」

 フィーリア様とシャーロット様からここまで言われてしまえば、木っ端貴族の私には断るという選択肢はありません。

 あっ、先日木っ端貴族ではなくなったんでした。いつの間にやらお父様が王宮に呼ばれ、伯爵位を賜っておりました。元々の功績もあるんですが、この時期に陞爵しょうしゃくされたのは私の立場を考えてのこと。

 ローガン様からの求婚は、もはや私だけの問題ではなく、我がブラースカ家をはじめとしたブリムンド王国にも大きな影響をもたらしているのです。

 というか、アイデルベルド王国の方々にはどう思われているのでしょう。下位貴族が王子に色目を使った! とか言われてるんだろうなあ。ああ、憂鬱。

「あちらの王族の皆さまや重臣の方々も、アウローラさんを歓迎しているんですって。お手紙を持ってきた使者の方がそう言っておられたわ」

 なんで???

「そういえば、卒業したらすぐに迎えに来るって仰ってたわね。うふふ、お熱いこと!」
「へぁっ!? いやっ、そんな!」
「帰国する直前まで、このままアウローラさんを連れ帰りたくて仕方ないって感じでしたものね」
「あ、あう……」

 そう、ローガン様はアイデルベルド王国に帰る間際、私に思いの丈を伝えて下さいました。
 まるで恋愛小説の告白シーンのような熱のこもったお言葉の数々に、思わずときめいたりもしました。



──相手が私じゃなければ良かったのに。



 ローガン様くらい男らしくてカッコ良くて身分の高い男性でしたら、もっと良いお相手が見つかるでしょうに。何の気の迷いか、こんな地味な女に興味を持ってしまって。

 本当に……馬鹿な人。

 先ほど受け取った手紙には『早く会いたい』と何度も何度も綴ってありました。贈り物も、華美な品は私が遠慮するからと落ち着いたデザインの髪飾りを選んでくれて。

 本当に想われているんだなと思うと胸の奥が苦しくなります。そう打ち明けたら、シャーロット様もフィーリア様も私の手を取って微笑んでくださいました。

 怯えて会話もままならない私を見捨てず、こうして支えてくださるお二方には幾ら感謝しても足りません。
 そして、こんな私を待ってくださると言ってくれたローガン様にも。





 隣国の王太子様に嫁ぐなんて恐れ多いし、正直辞退したい気持ちでいっぱいですけれど、なんとか頑張ってみようと思います。
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